蔡國強、杉本博司、藤森照信。出自の異なる3人のアーティストが茶室に魅せられる理由

BY YOSHIO SUZUKI, EDITED BY JUN ISHIDA

画像: ニューヨークのスタジオに隣接したスペースに造った茶室「今冥途」。画面左側一面の西向きのガラス窓からはハドソン川をダイナミックに望む。夕日が美しい。三々五々集まり、シャンパンのグラスを傾けたあと、和蠟燭をともして茶会が始まる。茶室は戸を開け放せばステージのようになるし、戸を立てて閉鎖した空間にするのも簡単だ。外国人の客も多いので、この上がり框の手前に立礼の席がある。まさに舞台と客席のように © SUGIMOTO STUDIO, COURTESY OF ODAWARA ART FOUNDATION

ニューヨークのスタジオに隣接したスペースに造った茶室「今冥途」。画面左側一面の西向きのガラス窓からはハドソン川をダイナミックに望む。夕日が美しい。三々五々集まり、シャンパンのグラスを傾けたあと、和蠟燭をともして茶会が始まる。茶室は戸を開け放せばステージのようになるし、戸を立てて閉鎖した空間にするのも簡単だ。外国人の客も多いので、この上がり框の手前に立礼の席がある。まさに舞台と客席のように
© SUGIMOTO STUDIO, COURTESY OF ODAWARA ART FOUNDATION

 ニューヨークで活動する現代美術家の茶室といえば、杉本博司の名が挙がる。杉本もニューヨークのスタジオに隣接する一室に自身の茶室を造った。もともとは自身や親しい古美術商の店舗、現代美術ギャラリーの内装設計で定評を得てきたが、建築パートナーの榊田倫之とのユニット〈新素材研究所〉として、東京ミッドタウンのセレクトショップ「ISETAN SALONE」、2017年2月にリニューアルオープンする熱海のMOA美術館の展示室の大規模な改装まで手がけるようになった。建築家にとって、やはり茶室を造るのは特別なことなのだろうか。自作の茶室は夢の実現だろうか。

「いや、全然そういうことじゃなくて、リーマンショックのとき、隣の画廊が夜逃げして空き部屋になってしまったので、それじゃあ借りて、ストレージや倉庫として使おうかと考えていたんです。吹き抜けで二層になるいい物件だった。でも倉庫を設計していたら、なんかもったいない気持ちになってきて。自分の作品や古美術品を美しく見せる場所をつくろうと思って」

画像: 茶室披きのとき。武者小路千家 千宗屋若宗匠(写真左)と杉本氏 ©SUGIMOTO STUDIO, COURTESY OF SO - OKU SEN, ODAWARA ART FOUNDATION

茶室披きのとき。武者小路千家 千宗屋若宗匠(写真左)と杉本氏
©SUGIMOTO STUDIO, COURTESY OF SO - OKU SEN, ODAWARA ART FOUNDATION

 1980年代にはニューヨークのSOHOで古美術商を営んでいた経験もある杉本。古美術に関しては玄人。茶席の機会も多かったのだろう。その茶室は、露地や待合からハドソン川に沈む夕日が眺められる。

「日没前に集まって、あ、日が沈むって見て、それからだんだん闇になっていくうちにロウソクが出てくる。そういうのもいいものですよ」

 独自の設計がよく考えられていて、四畳半の茶室は遮蔽することもできるし、開け放てば小さなステージのようでもある。待合にあたるスペースにも床があり、目のもてなしはそこから始まっている。古美術の収集家でもある杉本はこの床を舞台にさまざまに楽しませてくれるが、ときにはエルズワース・ケリーのリトグラフが当たり前のように掛かっていることも。この茶室は杉本が敬愛する美術家、マルセル・デュシャンへのオマージュを込めて「今いま冥めい途ど 」と名づけられた。茶室披びらきは、美術家のキキ・スミスや写真家のアンドレアス・グルスキーも訪れた華やかなものだった。

 その後、杉本は2013年に、千利休が造った国宝茶室「待庵」の写し、しかし天井はトタン屋根にした茶室「雨う聴ちょうてん天」を発表。2014年にはベネチアのサンジョルジョマッジョーレ島に四方と天井がガラスの茶室「聞鳥庵」を発表した。こちらは中が丸見えの茶室だ。

 茶室は利休により閉じた空間とされた。主流だった四畳半から待庵では二畳に。戦場に造られた茶室。天下人とどれだけ近い関係をもてるかの狙いが見える。「窓は採光のためであって、外は見てはいけないという主旨。(小堀)遠州などは、開け放して外が見えるという大改革をします。師匠や先人とは別に、自分はこういう意識でゆきたいというものをもっている人間が茶人と言われるのです。全部閉じこもれっていうのを逆に、全部ガラスにして開放しようと思った」

 タイルを敷いた人工の池の上に茶室はある。周囲は伊勢神宮と同じ塀で囲った。ガラス、タイルに対して、日本やイタリアの古い敷石や木で造った塀。その対比を見せているようでもある。

画像: "住まいのかたち"を提案する 2013年「HOUSE VISION」で住友林業と杉本氏による"数寄の家"で発表した茶室、「雨聴天」千利休の「待庵」の写しとして設計され、屋根は古いトタン板。土壁は塗られておらず、竹小舞が露出している状態。これは会期終了後、解体され、小田原江之浦に建設中の杉本氏が主宰する文化施設、小田原文化財団への移築を意図したからである。奥に見える、竹箒を立てた簡素な垣根も杉本氏によるオリジナル © SUGIMOTO STUDIO, COURTESY OF ODAWARA ART FOUNDATION

"住まいのかたち"を提案する 2013年「HOUSE VISION」で住友林業と杉本氏による"数寄の家"で発表した茶室、「雨聴天」千利休の「待庵」の写しとして設計され、屋根は古いトタン板。土壁は塗られておらず、竹小舞が露出している状態。これは会期終了後、解体され、小田原江之浦に建設中の杉本氏が主宰する文化施設、小田原文化財団への移築を意図したからである。奥に見える、竹箒を立てた簡素な垣根も杉本氏によるオリジナル
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画像: ベネチアのサンジョルジョマッジョーレ島に杉本氏が造った茶室「聞鳥庵」。ガラスで囲った小間が人工池の中に佇んでいる。それを囲むのは伊勢神宮にならった板塀。塀越しに高くそびえる教会の塔が、まるで日本の寺院建築の層塔のようだ。ガラスの茶室を眺めたときに画家モンドリアンのコンポジションにも見えるということ、鳥の鳴く声が聞こえてきたことからこの名がついた © SUGIMOTO STUDIO, COURTESY OF ODAWARA ART FOUNDATION

ベネチアのサンジョルジョマッジョーレ島に杉本氏が造った茶室「聞鳥庵」。ガラスで囲った小間が人工池の中に佇んでいる。それを囲むのは伊勢神宮にならった板塀。塀越しに高くそびえる教会の塔が、まるで日本の寺院建築の層塔のようだ。ガラスの茶室を眺めたときに画家モンドリアンのコンポジションにも見えるということ、鳥の鳴く声が聞こえてきたことからこの名がついた
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