ビーチの美しさで有名なマウイ島だが、島の高地にも、人々が暮らす豊穣な土地がある。山肌はパインツリーでおおわれ、ラベンダーが香るなか、馬にまたがったカウボーイが通りすぎていく

BY JOHN WOGAN, PHOTOGRAPHS BY JOE LEAVENWORTH, TRANSLATED BY NHK GLOBAL MEDIA SERVICE

 霧に包まれた青々とした山が広がり、琥珀の中に閉じ込められたような小さな町が点在するセントラル・マウイは、マウイ島南部のワイレアやラハイナ、カパルアなどの町に集まる日光浴客やサーファーには見すごされることが多い。ハレアカラ火山に近い、標高約1,100m、面積500㎢ほどのこのエリアは、アップカントリーと呼ばれ、気温は平地より低く(夜間は0度に近いことも)、ヤシよりもユーカリの木が多い。18世紀末、英国海軍の大佐がハワイ王国のカメハメハ1世に家畜牛を贈ったことをきっかけに牧畜業が始まり、アップカントリーは農業の中心地となった。現在、パニオロ(ハワイアン・カウボーイ)の数は最盛期の19世紀ほどは多くはないが、大規模な牧場がいくつか残っており、大地の恵みを大切にする暮らしが続いている――牧場のほかにも、コーヒー農園やラベンダー畑、森林保護区をめぐる風光明媚なハイキングコースがある。

 アップカントリーの約3万8000人の住人(マウイ全人口の4分の1未満)の多くは、ハイク、プカラニ、マカワオなど歴史のある小さな町やその周辺で暮らしている。みな、19世紀にパイナップル農園や牧場を中心として発展したコミュニティだ。第二次世界大戦後に産業化が進み、農園の数は減ったが、その後もここにとどまったハワイ人、中国人、ポルトガル人、日本人に加えて、1960年代から70年代にかけて、都市生活を避けたいヒッピーたちの波が本土からやってきた(ミュージシャンのウィリー・ネルソンやミック・フリートウッドの家がそばにある)。

ここ10年ほどは、この一帯の比較的安価な住宅や温暖な気候が、ガラス工芸家や木工作家、ジュエリー作家など多種多様な自由人と、地元レストランのために有機農産物(食用ほうずきのポハベリーやパッションフルーツなど)を育てる新世代の農場主などを引きつけている。ここではタコスなどのフードトラックよりプロヴァンス料理の人気が高い。アップカントリーには、島一番の見どころ、標高3,055mのハレアカラ・クレーター(幽玄的な霧が晴れて周囲の峰や渓谷が見渡せる夜明けの時間に体験するのがおすすめ)に向かう途中で通りすぎるだけではもったいないほどの魅力がある。ここへ来たら、ビーチは必要ないと気づくはずだ。

<STAY>

「ルメリア・マウイ」
マカワオにあるこのウェルネス・リトリートに来て最初に気づくのは、ここにある静寂の空間だ。竹やぶやヤシの木におおい隠され、溶岩の壁に囲まれた施設は、枕やデイベッドのカバーにカラフルなインド綿のテキスタイルが用いられた24の客室があり、芝生の上でヨガや瞑想のレッスンが行われる。朝食には、もぎたてのパパイアやマンゴ、グアバが楽しめる。ホテル・レストランでは、獲れたてのマヒマヒとエアルームトマト、自家製ウル(ハワイのパンノキ)、甘柿のチャツネなど、ヘルシーなメニューを提供している。
lumeriamaui.com

画像: 「ルメリア・マウイ」のレストラン、ウッデン・クレートのテーブル

「ルメリア・マウイ」のレストラン、ウッデン・クレートのテーブル

「クラ・ロッジ」 
ハレアカラ・クレーターの北側の斜面、マカワオのすぐ外にあるタイム・カプセルのようなホテル、クラ・ロッジは、1951年にオープンし、ロッキングチェアや花柄のベッドカバーといった素朴でキッチュな魅力があることで知られている。敷地内には、板壁におおわれた5軒のコテージが立ち、それぞれに暖炉とバルコニーつき。部屋からは近隣の島々まで見晴らすことができる。コテージにはテレビはない。エアコンもないが、標高約1,000mのこの場所では、ほとんど必要ない。宿泊客は庭の満開のジャカランダの木の下で読書をし、ロッジのガラス張りのレストランでマカダミアナッツを使ったペストソースのパスタをゆっくり味わう。このレストランは、夕陽を眺めながら過ごせるカクテルアワーでも知られている。
kulalodge.com

画像: 50年代風の「クラ・ロッジ」

50年代風の「クラ・ロッジ」

画像: 「クラ・ロッジ」からの眺め。遠くにマアラエア湾が見える

「クラ・ロッジ」からの眺め。遠くにマアラエア湾が見える

「パイア・イン」
島一番のオーガニック・フード・マーケット「マナ」や10軒以上のコンテンポラリー・アート・ギャラリーがあるパイアの町。マカワオの北西8kmほどのところにあり、アップカントリーと同じボヘミアンな雰囲気がありながら、ビーチにもほど近い。この町にあるゲストルームが5室の宿がパイア・インだ。ブーゲンビリアの花に彩られた2階建てで漆喰壁の1920年代の建物の中に2008年にオープンした。手彫りのコア材のデイベッドや真っ白いリネンをあしらったシンプルなインテリアが、地元の画家、アヴィ・キリアティが昔のポリネシアの生活を描いた色鮮やかな絵を引き立てている。スパでは火山石やココナッツオイルを使ったマッサージを提供。近くにあるボールドウィンビーチへ向かうサーファーが立ち寄ってジュースを注文するカフェもある――おすすめは、すいかとハイビスカスのジュース「シュラブ・スパークラー」だ。
paiainn.com

画像: 「パイア・イン」の客室のひとつ

「パイア・イン」の客室のひとつ

<EAT>

「オオ・ファーム」 
二人のサーファーが2000年にオープンした農場、オオ・ファーム。面積約3万2000㎡の敷地内では、コーヒー、カフィア・ライム(こぶみかん)、ミント、マリゴールドなど、多様な作物が栽培されている。マウイ・フード・バンクと、島の西側にあるこの農場直営のオープンエアレストラン「パシフィコ」を含む地元レストランに食材を供給している。そちらでもローストしたマウイオニオンとビーツコンフィにひじきを添えたものなど野菜中心のメニューを味わえるが、アップカントリーにある農場では食材の収穫を見ることができる。一日に2回ある果樹園ツアーは、ファミリー・スタイルの食事でしめくくられ、レモングラスオイルでマリネしたアヒ(白身魚)、ローズマリーのローストチキン、大皿に盛ったフェンネルやフダンソウ、ナスのグリルなどがテーブルに並ぶ。
oofarm.com

画像: 「オオ・ファーム」のレモン畑

「オオ・ファーム」のレモン畑

「マカワオ・ステーキハウス」
マカワオのダウンタウン、ボールドウィン・アベニューにある緑色の板壁が目印の建物は、1927年に建てられた。クリスタルやウィンドチャイムを売るヒッピーのショップが並ぶのどかな町の一角にあるこの店は、アップカントリーで最もオールドスタイルなレストランかもしれない。ウッドパネルにおおわれたダイニングルームは、飾りびょうつきの革の肘掛け椅子や油絵がくつろいだ雰囲気を醸し出している。隣接のカクテルラウンジでは、トロピカルカクテルの王道、マイタイを昔ながらのスタイルで出している。トリュフオイルが香るフライドポテトや、近くのホクヌイ・ファーム産の霜降り牛のリブアイステーキなど、スタンダードだが、ハレアカラでハイキングをして過ごした一日の終わりに深い満足感を与えてくれるメニューが揃う。
makawaosteakhouse.com

「クラ・ビストロ」
パイアからクラ・ハイウェイを23kmほど走ったところにある道路沿いのカフェ、クラ・ビストロ。多くの店が創業者の子孫に代々受け継がれて経営されているこのエリアでは珍しく、イタリア人のルチアーノ・ザノンがマウイ生まれの妻シャンタルとともに2012年にオープンさせた。陽気で活気あるレストランは、すぐに人気店になった。ザノンは、薪オーブンで焼いたピザにカルーアポークと新鮮なパイナップルをトッピングするなど、イタリアの定番メニューにハワイアンなアレンジをプラス。もちろんマウイの定番メニューも提供している。なかでも彼がアレンジしたロコモコは絶品で、グレービーソースをたっぷりかけたハンバーグに、半熟両面焼きの卵が二つ、ソテーしたマッシュルームとオニオンが白いご飯にのっている。
kulabistro.com

画像: 「クラ・ビストロ」のココナッツケーキ

「クラ・ビストロ」のココナッツケーキ

<SHOP>

「ホット・アイランド・グラス」
マカワオに1992年にオープンしたこのギャラリーが軌道に乗ったのは、オープンから10年近くがたち、ハワイの最も有名なガラス工芸作家のクリス・リチャーズとクリス・ロウリーが以前のオーナーから買い取ったときだった。農園風の木造の建物には、空色と深紅色が渦巻く花瓶、色とりどりのクラゲが浮かんでいるように見える彫刻的な作品など、共同制作を行う二人の作品が多数飾られている。ジム・グレイパー作のウニの形をしたペーパーウェイトなど、ほかの作家の作品も展示されている。
www.hotislandglass.com

<SEE>

「ウルパラクア・ヴィニヤード」
アップカントリーの栄養豊富な火山性土壌を生かした、マウイ島唯一のワイナリー。ハレアカラ山の南の斜面に広がり、マルベックやシラーからシュナンブランやグルナッシまで、あらゆる品種のぶどうを育てている。テイスティング・ツアーは、キングス・コテージという、ハワイ王朝最後の王、デイヴィッド・カラカウアのゲストハウスとして建てられた石造りの家から出発する。約73㎢の牧場では、ワインだけではなく、青々とした牧草地での乗馬や、ユーカリやジャカランダ、クスノキなどが生い茂る森の散策を楽しめる。
mauiwine.com

画像: 「ウルパラクア・ヴィニヤード」の火山石の壁

「ウルパラクア・ヴィニヤード」の火山石の壁

画像: 「ウルパラクア・ヴィニヤード」でワインの原料となるマウイゴールドパイナップル

「ウルパラクア・ヴィニヤード」でワインの原料となるマウイゴールドパイナップル

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