BY MEGAN O’GRADY, PORTRAIT BY JANINA WICK, TRANSLATED BY MIHO NAGANO
スノーデンが2013年にアメリカ国家安全保障局(NSA)の大量の書類をリークしたとき、パグレンはすでに監視に関する作品で知られていたが、彼ですら、その書類で明らかになった国家の監視が圧倒的な規模であり、非常に具体的であることに驚愕した。「ただ座り込んで、あんぐりと口をあけたまま、14時間ぶっ続けで読みふけったよ」と語る42歳のパグレンは、親しみやすいが、その気性はきわめて激しい。青い目で金髪を短く刈り込み、バイク用のブーツを履いた彼は、つねに落ち着かない様子だ。NSAの基地を撮影したパグレンの写真は、ポイトラスが監督してアカデミー賞を受賞したスノーデンのドキュメンタリー映画『シチズンフォー スノーデンの暴露』(2014年)にも登場している。
パグレンは、2015年からベルリンに住み、講演のために頻繁に旅をする。講演では、彼の6冊の著作のうちの1冊に書かれている、秘密主義がいかに「最悪なまでに拡大しすぎた権力を支えてきたか」について、さまざまな方法で訴えてきた。彼はアート界のなかでも最も異質な存在のひとりで、冒険家、哲学者でもある。彼の作品はたいてい観念的で非常に科学的だが、同時にワクワクするほどぶっ飛んでもいる。たとえば──彼はスキューバダイビングを学び、海底に蛇のように張りめぐらされている光ファイバーのインターネットケーブルを撮影した。ドイツで政府の機密施設を撮影したことについて尋問されると、その後、ドイツ国内の「監視風景」写真のコンテストを開催したりもした。
さらにパグレンは、福島原発事故で被爆したガラスを使って正方形の彫刻を制作。ラスコー洞窟の壁画から政治反対運動まで、人類の歴史の写真を年代順にシリコンのディスクに焼きつけ、タイムカプセルとして宇宙空間に打ち上げた。そして、9月にニューヨークのメトロピクチャーズ・ギャラリーで始まった彼の展覧会に出展する一連の作品のひとつとして、パグレンは「自動化された視覚」とその手法を検証しようとしている。顔認識用のソフトウェアや、自動運転車やソーシャルメディアなどに使われる技術は、私たちがこれまで見たことがなかったようなまったく新しいビジュアルの地平を拓こうとしている。新技術のもたらすものに、もはや私たちは異議申し立てできない時代に突入しているというわけだ。「私は、こんなプロジェクトができたらいいなと空想することはないんだ」と彼は私に言う。「思いつくプロジェクトはすべて実現できると考えるほど、頭がイカれてるからね」