長い間、アメリカのアートシーンにおいて“過去のもの”“時代遅れ”とされてきた肖像画。なぜ今、再び注目を集めているのか?

BY DUSHKO PETROVICH, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)

 なぜ、今、肖像画が再注目されているのか。理由のひとつは、黒人のコミュニティやアジア系アメリカ人の実生活、そしてラテン系の顔を描くことで、より幅広い観衆に語りかけようとする、社会的な要請にある。それは、有色人種を描くことで肖像画の歴史を塗り替え、これまで美術館から除外されていたさまざまな人々を引き込むことだ。無論、リアリズムに基づいて肖像画を描くというトレンドは、有色人種のアーティストに限られたことではない。こうした潮流は、プリンス、ロード、フリッパーなどポップ・カルチャーのアイコンを、神聖化された貴族のように描くサム・マッキニスのロココ様式の作風にも見られる。また、実験的なキャバレー・パフォーマンスで知られるジャスティン・ヴィヴィアン・ボンドが手がけた自画像シリーズにも、その傾向がはっきりとうかがえる。2017年秋に、ニュー・ミュージアムで展示されたそのシリーズは、何気なく、だが決定的にボンドの“トランス・ジェンダー・アーティスト”としてのアイデンティティを表明しているようにみえた。

画像: サム・マッキニスによるプリンスの肖像画《PRINCE(UNDER THE CHERRY MOON)》 (2016年、キャンバスに油彩とアクリル) COURTESY OF THE ARTIST AND TEAM GALLERY, NEW YORK

サム・マッキニスによるプリンスの肖像画《PRINCE(UNDER THE CHERRY MOON)》
(2016年、キャンバスに油彩とアクリル)
COURTESY OF THE ARTIST AND TEAM GALLERY, NEW YORK

画像: パフォーマンス・アーティストのジャスティン・ヴィヴィアン・ボンドによる自画像 《MY BARBIE COLORING BOOK》 (2014年、アクリルペーパーに水彩) FROM THE SHOW “TRIGGER: GENDER AS A TOOL AND A WEAPON”/THE NEW MUSEUM, COURTESY OF THE ARTIST

パフォーマンス・アーティストのジャスティン・ヴィヴィアン・ボンドによる自画像
《MY BARBIE COLORING BOOK》
(2014年、アクリルペーパーに水彩)
FROM THE SHOW “TRIGGER: GENDER AS A TOOL AND A WEAPON”/THE NEW MUSEUM,
COURTESY OF THE ARTIST

 肖像画の復権には、もうひとつの理由が挙げられる。私たちが生きているのは、18ヶ月前には想像もできなかった方法で、現実というものが日々歪められていく、そんな時代だ。真実や事実という概念そのものが、代替可能なものと見なされる時代へ、われわれは急ピッチで突入しているのだ。私たちをこのような状況に陥らせたさまざまな権力構造を見直そうという今、自分の作風というものを明確に持ち、実体があって認識可能な現実を描くアーティストの作品は、人々を落ち着かせ、安心させる。フェイスブック時代において、実際の相手に似せて描いた肖像画を見る時が、まさにそうだ。

 現代の具象画家たちは、ケリー・ジェームズ・マーシャルから多くの影響を受けている。2016年に複数の都市で開催されたマーシャルの回顧展は、彼がしばしば宣言していた、単純ながら非常に大きな目標を達成させた。それは、美術史に「ブラックネス(黒人性)」を注入することだ。何十年もかけて入念に実行されてきた、彼の素晴らしくシンプルな戦略、それは「ブラックネス」を字義通りに表現することだった。1980年に《A Portrait of the Artist as a Shadow of His Former Self (昔の面影がない芸術家の肖像)―前歯が1本抜け、ニヤリと笑う自画像―》という、いたずらっぽい小さな卵テンペラ画を描いて以来ずっと、マーシャルはアフリカ系アメリカ人を、ほとんど混じりけのない“黒”を使って描いてきた。その人物たちは、さまざまなシーン、たとえばアーティストのスタジオ、美容院、公園、ベッドルーム、宇宙空間などを背景に描かれている。大胆に、それでいて、辛うじて見分けられるくらいひそやかに。「ブラックネス」は、彼らが絵の中に確かに存在しながらも、“排除されている”ことを暗示しているのだ。

画像: ケリー・ジェームズ・マーシャルの《Untitled(Studio)》 (2014年、PVCパネルにアクリル絵の具) 2016年に開催された彼の回顧展は、リアリズム人物画の新しい時代の到来を告げた THE METROPOLITAN MUSEUM OF ART,PURCHASE, THE JACQUES AND NATASHA GELMAN FOUNDATION GIFT,ACQUISITIONS FUND AND THE METROPOLITAN MUSEUM OF ART MULTICULTURAL AUDIENCE DEVELOPMENT INITIATIVE GIFT, 2015, © KERRY JAMES MARSHALL

ケリー・ジェームズ・マーシャルの《Untitled(Studio)》
(2014年、PVCパネルにアクリル絵の具)
2016年に開催された彼の回顧展は、リアリズム人物画の新しい時代の到来を告げた
THE METROPOLITAN MUSEUM OF ART,PURCHASE, THE JACQUES AND NATASHA GELMAN FOUNDATION GIFT,ACQUISITIONS FUND AND THE METROPOLITAN MUSEUM OF ART MULTICULTURAL AUDIENCE DEVELOPMENT INITIATIVE GIFT, 2015,
© KERRY JAMES MARSHALL

 このコンセプトは、エイミー・シェラルドの作品の中で、さらに発展を遂げている。シェラルドは、ミシェル・オバマが自身の公式肖像画のアーティストとして指名した人物。グレーのモノクロで描く「グリザイユ」という絵画技法を用いて、人物の肌を表現する。彼女が描く絶妙なグラデーションは、アフリカ系アメリカ人たちの、混ざりあい、しばしば無視されることもあるバックグラウンドをいたずらっぽくほのめかす。それによりシェラルドの絵画は、人種の歴史について重要な主張をしているのだ。2016年に発表された《Listen, You a Wonder. You a City of a Woman. You Got a Geography of Your Own(いい? あなたは奇跡のような存在。都市のような女性。あなたにはあなただけの地上がある)》には、黒い花を散らした柄のドレスを着た女性が描かれている。その女性がお腹の前に黒い鞄を持ち上げているのは、まるでシェラルドの主張を強調しているかのようだ。

 

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