現代美術家の蔡國強と、彼の作品をともに作ってきた、いわきの人々。知られざるそのつながりを追ったノンフィクション『空をゆく巨人』が間もなく刊行される。作者である川内有緒に、蔡ともう一人の物語の主人公である志賀忠重について話を聞いた

BY JUN ISHIDA

 T JAPANにも幾度となく登場している現代美術家の蔡國強(ツァイ・グオチャン)。NYを拠点に世界のアートシーンの最前線を走る蔡だが、日本とも深い関わりをもつ。中国出身の蔡が最初に訪れた外国は日本であり、彼が世界的アーティストになるきっかけを得たのも日本であった。そして日本のなかでも、とりわけ縁の深いのが福島県のいわき市である。

 蔡は1986年から95年にかけて日本に滞在したが、その際に活動の拠点の一つとなったのがいわきであった。初めて行われた美術館での個展もいわき市立美術館である。世界的アーティストとなった今なお、いわきとは特別な関係にあり、2013年には蔡がアイデアを出し、志賀率いるボランティアらが作った「いわき回廊美術館」もオープンした。周辺の山々で進められているのは「いわき万本桜プロジェクト」。東日本大震災での原発事故のあとに志賀が始めた、未来の子供たちに美しい桜の里山を残すため、250年かけて9万9,000本の桜を植樹するプロジェクトだ。

画像: 東日本大震災の翌々年にオープンした「いわき回廊美術館」 PHOTOHTAPH BY ARIO KAWAUCHI

東日本大震災の翌々年にオープンした「いわき回廊美術館」
PHOTOHTAPH BY ARIO KAWAUCHI

 このプロジェクトの中心人物である志賀忠重と、蔡の不思議な関わりをたどった書籍がこのたび出版される。ノンフィクション作家の川内有緒による『空をゆく巨人』は、文化大革命前の中国と、第二次世界大戦後の福島にそれぞれ生まれた二人の人生と出会い、その交流を描いたものだ。ひょんなきっかけから「いわき回廊美術館」を訪れ、志賀に出会い、そしてこの本を書くことになった川内。2015年に初めて志賀に会った際、そのエネルギッシュな人柄と次々と繰り広げられる想像を超えるエピソードに魅了され、幾度となく志賀の話を聞きにいわきに通うようになるが、書籍としてまとめることは当初は考えていなかったという。

画像: 蔡国強(右)と志賀忠重 PHOTOGRAPH BY KAZUO ONO

蔡国強(右)と志賀忠重
PHOTOGRAPH BY KAZUO ONO

「書くと決めずにいわきに通っていました。志賀さんやプロジェクトに参加している人たちの話は面白いし、行けば気持ちのいいところだし。蔡さんのことも、芸術祭で作品を見たことはありましたが、特に詳しくは知りませんでした。皆さんと話しているうちに物語の連続が生まれてきて、初訪問から1年半ほどしてようやく『書こう』と決心しました」

画像: 川内有緒 著『空をゆく巨人』¥1,700/集英社(11月26日発売) 公式サイト COURTESY OF SHUEISHA

川内有緒 著『空をゆく巨人』¥1,700/集英社(11月26日発売)
公式サイト
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