現代美術家の蔡國強と、彼の作品をともに作ってきた、いわきの人々。知られざるそのつながりを追ったノンフィクション『空をゆく巨人』が間もなく刊行される。作者である川内有緒に、蔡ともう一人の物語の主人公である志賀忠重について話を聞いた

BY JUN ISHIDA

画像: 蔡の火薬画とともに展示された「いわきからの贈り物」 PHOTOGRAPH BY KAZUO ONO

蔡の火薬画とともに展示された「いわきからの贈り物」
PHOTOGRAPH BY KAZUO ONO

 志賀は福島の会社経営者で、もともとはアートの世界とはまったく関わりのない人生を生きてきた。だが、まだ無名だった蔡がいわきで初めて個展を開いたとき以来の蔡の支援者であり、30年来の友人でもある。そして、蔡がさまざまな国で展覧会を行う際に、船の作品を組み立てるのが、志賀率いる「いわきチーム」である。

 2004年に志賀が蔡のリクエストを受け、作品制作のためにいわき市の海岸から廃船を引き上げアメリカのワシントンDCに送り、さらに美術館での組み立て作業のため自費で渡航し、設営を行ったのが始まりだ。その後も廃船を使った作品が展示されるごとに、いわきチームは各地へ飛び続けることになる。その旅の様子もまた本の中では描かれているのだが、この蔡と並ぶ”巨人”である志賀について、川内は次のように述べる。

「志賀さんは、夢を追う人たちをつねに助け続けています。夢の叶え方を教えてくれる人なんですよね。彼にとって、夢とは目標でなくて、実現すべきもの。漠然とした夢の見方はせずに、それに到達するための道のりを考えるんです」

画像: アメリカ、スミソニアン博物館で廃船を組み立てるいわきチーム PHOTOGRAPH BY KAZUO ONO

アメリカ、スミソニアン博物館で廃船を組み立てるいわきチーム
PHOTOGRAPH BY KAZUO ONO

 つねにエネルギッシュな志賀に比べると、蔡はどこか淡々としている。北京オリンピックの開会式を飾った花火の演出など、火薬を用いた大がかりな作品で知られる蔡だが、自然環境に左右される部分も多いため、じつは成功しなかった作品も多いという。「蔡さんにとっては失敗も作品の一部なのだと思います。生きること、人生すべてが作品であって、成功も失敗もない」(川内)

「二人の人生を通じて、時代が見えてくるといい。歴史と、個人の歴史は切っても切り離すことができません。個人のマイクロヒストリーの集合が歴史ならば、一人一人の人生と歴史を一緒に描くことができれば」と語る川内。価値観が一変した文化大革命を生き抜き、世界的アーティストに成長した蔡國強と、東京へのエネルギー供給施設があったために悲劇に襲われた街で、植樹の活動を続ける志賀忠重。『空をゆく巨人』は、アートと冒険の話であるとともに、激動の時代に夢をもって生きる術も私たちに示唆してくれる。

画像: 川内有緒(ARIO KAWAUCHI) 1972年東京生まれ。米国企業、日本のシンクタンク、フランスの国連機関などに勤務後、フリーのライターとして評伝、旅行記、エッセイなどを執筆する。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』で、第33回新田次郎文学賞受賞。『空をゆく巨人』で第16回開高健ノンフィクション賞受賞 PHOTOGRAPH BY KIKUKO USUYAMA

川内有緒(ARIO KAWAUCHI)
1972年東京生まれ。米国企業、日本のシンクタンク、フランスの国連機関などに勤務後、フリーのライターとして評伝、旅行記、エッセイなどを執筆する。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』で、第33回新田次郎文学賞受賞。『空をゆく巨人』で第16回開高健ノンフィクション賞受賞
PHOTOGRAPH BY KIKUKO USUYAMA

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