昨年11月にオープンしたザ・ギンザのマルチスペース「THE GINZA SPACE」で、銅版画家・山本容子の展覧会が開かれている。旅をテーマにこれらの作品が描かれたのは2001年のことだ

TEXT AND PHOTOGRAPHS BY JUNKO ASAKA

 ときにウィットに満ち、ときに味わい深いストーリーを思わせる独自の銅版画で知られる画家の山本容子さん。現在、東京・銀座の多目的スペース「THE GINZA SPACE」で開催されている個展は、いつもとちょっと趣が異なっている。

 展示室に入ると、まるで大きな巻物を目の前に、自分がミニサイズになってしまったかのような錯覚に陥る。「巻物」を構成するのは、30㎝四方に満たない和紙に刷られたいくつもの銅版画。それらが縦に5枚、横に77列、糸でつながり、ひとつの大きなインスタレーションとなっているのだ。テーマは“旅”。パリを中心に、19世紀半ばから1960年頃までの、乗り物やモード、時代を象徴するアーティストや小説家などの著名人が、一枚一枚、小さな窓からこちらをのぞくみたいに描かれている。

画像: 会場は「THE GINZA COSMETICS GINZA」の地下にあるマルチスペース。こぢんまりした空間に、シンプルながらダイナミックな展示が広がる COURTESY OF THE GINZA

会場は「THE GINZA COSMETICS GINZA」の地下にあるマルチスペース。こぢんまりした空間に、シンプルながらダイナミックな展示が広がる
COURTESY OF THE GINZA

 乗り物であれば馬やラクダに一輪馬車、プジョーやブガッティなどのクラシックカーから気球、竹馬まで、古今東西のあらゆる移動手段が登場するし、トランクなど旅行用バッグのあれこれも楽しい(ワインを持ち運ぶ用のトランク、口述録音機材用トランクなんてのもある!)。アール・デコのモードに身を包んだ女性の隣では、チャップリンが革靴をステーキ代わりに食べようとしていたり、そのまた上では星空の下でカップルがタンゴを踊っていたりと、雑多でにぎやかなシーンを目で追っていく行為そのものが、まるでひとつの旅のようだ。

 これらの絵が描かれたのは2001年から2002年にかけて。新たに建設される東京・表参道のビルディングの工事用仮囲いを利用して、そこに光ファイバーを使って山本さんの絵を投影するという、かつてないアートワークプロジェクトが行われた。昼間は白一色の仮囲いが日没と当時に光によって美しく彩られ、斜めに張り出した落下防止柵から歩道にもアートが投影された。山本さんはその“光のアート”ために一年間365日、毎日一枚ずつの絵を加えていったのだという。そうして完成した385枚の絵は、その後『Bon Voyage わたしの時間旅行』という一冊の本にまとめられた。

画像: ファッション、乗り物、椅子、トランク、アーティスト。小さな画面だが、さまざまなテーマで描かれた銅版画が次々に現れ、ひとつひとつ見ていくと時間を忘れる

ファッション、乗り物、椅子、トランク、アーティスト。小さな画面だが、さまざまなテーマで描かれた銅版画が次々に現れ、ひとつひとつ見ていくと時間を忘れる

 プロジェクトについて、山本さんは本のあとがきでこう語っている。「昔、パリのエッフェル塔が毎晩午後九時過ぎになると、美しい光のシャワーでキラキラ輝いていたことを思い出した。あれはほんとうに素敵だった。やわらかな光で絵を見せることができたら、殺風景な夜の工事現場が美しく変身するかもしれない。そして偶然絵に気がついた人だけが、楽しい思いをすることができる。そのうえで、私の絵と遊んでほしい」。彼女の描く絵同様に、洒脱な遊び心のあふれる、なんとも粋な試みだ。

 今回の展示では、その中から380点余りが展示されている。これらの絵が描かれた2002年は、スキンケアブランド「ザ・ギンザ」がデビューした年。山本容子さんの生き方、美しい時の重ね方や世界観に共感し、それぞれの17年間に思いを寄せてこの展覧会が企画されたという。

画像: ペンやブラシ、カッターなどの画材はもちろん、キャンバスに描いた絵を銅版画に移していく工程も垣間見える興味深いアトリエ再現スペース COURTESY OF THE GINZA

ペンやブラシ、カッターなどの画材はもちろん、キャンバスに描いた絵を銅版画に移していく工程も垣間見える興味深いアトリエ再現スペース
COURTESY OF THE GINZA

画像: 使い込まれた絵の具やパステル。山本さんの絵に特徴的な夜空のような深いブルー、繊細なペールカラーがここから生まれる

使い込まれた絵の具やパステル。山本さんの絵に特徴的な夜空のような深いブルー、繊細なペールカラーがここから生まれる

 会場内には、山本さんのアトリエを再現したスペースもあり、実際に銅版画制作に使われたペンやブラシ、絵の具なども間近に見ることができる。ふだん目にすることのできないアーティストの聖域に、少しだけ近づける貴重なスペースだ。

 会場内に展示された銅版画のうち、一部は各1点のみ、先着順で額装のうえ購入することもできる。自分のお気に入りを探して一枚一枚じっくり見ていくと、時を超え、イメージの空を自由に飛翔する“脳内トラベル”ができるに違いない。

画像: 「表参道ルイ・ヴィトンアートプロジェクト」で発表された作品から377点をおさめた画集『Bon Voyage わたしの時間旅行』。残念ながらすでに絶版だが、展覧会場内では手にとって見ることができる

「表参道ルイ・ヴィトンアートプロジェクト」で発表された作品から377点をおさめた画集『Bon Voyage わたしの時間旅行』。残念ながらすでに絶版だが、展覧会場内では手にとって見ることができる

『山本容子展 ―時の記憶― 』
会場:THE GINZA SPACE
住所:東京都中央区銀座5-9-15 B2F
会期: 4月14日(日)まで
開館時間:11:00~19:00
電話:03(5537)7825
入場無料
公式サイト

 

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