BY ANNA FURMAN, PHOTOGRAPHS BY DON STAHL, TRANSLATED BY AKANE MOCHIZUKI(RENDEZVOUS)
2017年の春、アーティストのホープ・ギャングロフは、スタンフォード大学のアイリス&ジェラルド・カンター視覚芸術センターにある、大理石でできた厳かなアトリウムを訪れ、そこに簡易的なアートスタジオを作った。そして、1日8時間、10日間連続で、スツールに片膝を乗せ、あるモデルーータイプライターに向かう作家のタミー・フォーティン――の絵を描いた。その光景をひと目見ようと大学生や子どもたちが集まり、絶え間なく人だかりができた。
そのライブペインティングは、パフォーマンス・アーティスト並みの精神的、肉体的忍耐が必要とされるだけでなく、単純に観客の存在を無視する能力も求められた。自分が集中できた理由についてギャングロフは、フォーティンとはもともと気があうこと、そしてヘッドホンから流れる「ボデガ・ボーイズ」というポッドキャストのエピソードを、ノンストップで聞きながら絵を描いたことだと語った。「私はただ“色彩の恍惚”を呼び起こそうとしただけ」と彼女は語る。
“色彩の恍惚”とは、ギャングロフの作品を表現するのにとても良い言葉だ。彼女が描く肖像画は、ブルーとオレンジ、パープルとイエローといった対比的なネオンカラーが画面の上で混ざり合うように使われており、見る者の方向感覚をも惑わせる効果がある。座っているモデルとそのペットは、背景の中へ溶け込むように形を変える。ライムグリーン色をしたモデルの足の毛が芝生に溶け込んでいたり、節くれだった椅子の脚がねじれたモデルの手足に酷似していたり。「最も珍しい色の組み合わせは、思いがけない効果をもたらすの」とギャングロフ。しかし、彼女の新作は、比較的落ち着いた色調になっている。イースト・ハンプトンにあるホルゼイ・マッケイ・ギャラリーでの展覧会に向け、彼女は過去のいくつかの作品の色調を修正した。これらは、一様で、色彩のコントラストに乏しいため、彼女いわく「ダサい」のだ。