「特別な日常服」をコンセプトに、ファッションから器、インテリアなど多様なプロダクトを展開するミナ ペルホネン。そのものづくりをつまびらかにする展覧会が、東京都現代美術館で開催中だ

BY MASANOBU MATSUMOTO

 アイデアの繋がりや深まりが、ミナ ペルホネンの多様なものづくりの大切な鍵のひとつになっていることは、「種」の展示室を訪れると、よくわかる。この展示室には、皆川たちのアイデアの出発点となった日用品や工芸品の紹介から始まり、画家や陶芸家とのコラボレーション、皆川原案のもと建築家の中村好文が設計した宿のプロダクトなど並ぶ。と、同時に気付かされるのは、ミナ ペルホネンにとってのデザインとは、単に「形をつくること」だけではないということだ。

画像: 「種」のスペースの中央に立つのは、皆川による原案のもと、建築家の中村好文が設計した宿《shell house》のプロトタイプ。一枚の壁が、外壁と内壁を兼ねる渦巻き型の建物は、皆川が思う、無駄のない機能的な暮らしのビジョンを浮かび上がらせる PHOTOGRAPH BY FUMINARI YOSHITUGU

「種」のスペースの中央に立つのは、皆川による原案のもと、建築家の中村好文が設計した宿《shell house》のプロトタイプ。一枚の壁が、外壁と内壁を兼ねる渦巻き型の建物は、皆川が思う、無駄のない機能的な暮らしのビジョンを浮かび上がらせる
PHOTOGRAPH BY FUMINARI YOSHITUGU

 本展でも紹介されている、余り布を活用するプロダクトシリーズ「ミナ ペルホネン ピース,」(2010年に京都と東京に専門店をオープン)や、同様にデニム生地を再利用した「minä änim(ミナアニム)」。余剰物に付加価値を与えるこうしたプロダクトは、生産や流通のプロセスをより幸福なものにしようとする試みだ。

 また、“働くこと”にも彼らの目線は向かう。会場に掲示された、ミナ ペルホネンのセレクトショップ&カフェ「call」の求人を募る手書きの文面。そこには「年齢は問いません。人生経験が豊かな方、心が健康で100歳!も大歓迎」とある。実際に「call」では、銀髪の女性たちが颯爽と働く。“苦”と捉えられがちな労働の時間が、満たされたものになること。彼らはショップを作りながら、多様な人々とのつながり、労働のプロセスの一瞬一瞬をデザインしているわけだ。

「風」の部屋で紹介されている現代美術家、藤井光によるショートムービーには、「call」でも関わっている山梨のワイナリーや沖縄のレストランのオーナーも出演している。ミナ ペルホネンの洋服を着た彼らの日常、仕事風景を捉えたこの作品の裏側には、彼らのものづくりがつないだ縁、もうひとつの“つづく”の物語があるようだ。

画像: 「土」の部屋に並ぶのは、顧客が愛用している15点の衣服。それぞれのエピソードがテキストで添えられている PHOTOGRAPH BY FUMINARI YOSHITUGU

「土」の部屋に並ぶのは、顧客が愛用している15点の衣服。それぞれのエピソードがテキストで添えられている
PHOTOGRAPH BY FUMINARI YOSHITUGU

 形を変えていくような、“つづく”もある。「土」と名づけられた展示室が見せるのは、ミナ ペルホネンの愛用者から集められた思い出の服とそれにまつわるエピソード。服という形となって生まれたものが、着る人の感情を宿し、記憶に刻まれていく。”物質”から”感情”へーーそれもまた、皆川が今回の展覧会で提示したかった、豊かな“つづく”の意味合いだと言う。

 今回の展示品のひとつに、クローバーをモチーフにしたワンピースがある。生地の柄をじっくり眺めると、そのなかに四つ葉のクローバーがひとつだけ見つかった。ミナ ペルホネンのものづくりにおける視線は、そのような小さなクローバーを観察することに似ているのかもしれない。社会全体を大きく変えようとするわけではなく、まず、足元のクローバーに目を向けるように、自身たちが関わる生産や流通、働くことのあり方や価値を丁寧に点検する。ひいてはものづくりが、どのように“生きること”にポジティブに働きかけうるかを探る。本展はそうしたミナ ペルホネンの視点を鑑賞者に共有しながら、その先にある幸せの予感と未来へのヒントをわれわれに伝えてくれる。

『ミナ ペルホネン/皆川明 つづく』
会期:〜2020年2月16日(日)
会場:東京都現代美術館
住所:東京都江東区三好4-1-1
開館時間:10:00〜18:00(展示室入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜(2020年1月13日は開館)、12月28日〜2020年1月1日、1月14日
入場料:一般 ¥1,500、65 歳以上、大学・専門学校 ¥1,000、中・高生 ¥600、以下無料
公式サイト

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