BY YUMIKO TAKAYAMA, PHOTOGRAPHS BY BUNGO KIMURA, ILLUSTRATIONS BY MOMOYO HAYAKAWA
今や日本を代表するレストランとなった「レフェルヴェソンス」。素材の持ち味を生かした革新的で美しい、生江史伸(なまえ しのぶ)の料理は、世界中の美食家たちを魅了し、2018年版「アジアのベストレストラン50」ではランキング20位に選出。環境への配慮や社会活動が評価され、今回初めて設置された賞「アジアのサスティナブルレストラン」にも選ばれた。ここ数年、生江は国内外の食関連のイベントやシンポジウムなどに引っ張りだこだ。そんな彼が六本木にブーランジェリー「ブリコラージュ ブレッド アンド カンパニー」を開いた。
「おいしい朝食は日々の活力のもと。日常を豊かに彩る朝ごはんが食べられる店を、尊敬する職人である仲間や生産者と作りたかった」と生江。「訪れた人は目の前でパンや料理が作られていく様子を見ることができる。スタッフと会話も楽しんでもらえる。食べ手と作り手が皿を通じてつながれる場所です」
古民家の床材を再利用し、年代ものの木工家具を配置した店内はくつろいだ空気が漂う。オープンキッチンのある開放的な空間では、スタッフがのびやかにきびきびと働き、高音質のスピーカーからはロックやジャズが流れる。メニューに並ぶのは、全粒粉、ディンケル小麦、ライ麦を配合した、嚙むたびに小麦のいい香りがするブリコラージュブレッドと、旬の食材を使った料理を合わせたパンディッシュ。すべてのパンを生江が全信頼をおく“仲間”のひとり、大阪の人気ブーランジェリー「ル・シュクレ・クール」の岩永歩が監修している。
定番の卵料理「アリスの卵、茨城減農薬パプリカのケイジャン風」は、豆腐クリームを塗ったパンに揚げ焼きにした半熟の卵とパプリカがのったオープンサンド。半熟の卵の黄身がトロ~リ流れ出てスパイシーなパプリカソースと合わさり、完璧なハーモニーを奏でる。驚かされるのは食材ひとつひとつが力強く、とびきり新鮮なことだ。使用している食材はバター以外ほぼ国産。生江が実際に会って話を聞き、自然との向き合い方や、その哲学に共感した生産者のものが中心だ。
生江自身、北は北海道・利尻の昆布から南は沖縄・今帰仁(なきじん)アグー豚まで日本全国の食材、食文化に精通している。その知識とネットワークを買われて、2015年に“世界一のレストラン”「noma(ノーマ)」が東京でポップアップレストランを行うことを決定した際には、シェフのレネ・レゼピの食材探しツアーのアテンド役も務めた。今も生江は、多忙なスケジュールの合間に生産者のもとへと足繁く通う。
「僕は料理を“自分の作品”とは考えていないんです」。生江が普段からよく口にする言葉だ。食材を育てているのは生産者で、それを料理として仕上げる役割を自分は与えられているのだ、と。“畑の革命家”と呼ばれるエコファーム・アサノの浅野悦男は「自分のことをスタッフの一人だと思ってほしい」と生江に伝えたと聞く。生江にとって料理を作ることは、信頼する生産者との共同作業なのだ。そんな生江が愛媛県の生産者を訪ねるというので、同行させてもらった。