動物と人間の共存をテーマにした作品をつくるシャルロット・デュマの個展、「人新世」という新しい時代の人間と自然のつながり、また都市とアーティストの関係を再考させる展覧会。現在開催中の3つのエキシビションの見どころを紹介する

BY MASANOBU MATSUMOTO

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展|銀座メゾンエルメス フォーラム

 シャルロット・デュマは、動物を被写体にしたポートレイトで知られる作家だ。9.11同時多発テロの際に救助犬として活躍した15匹の犬の10年後の姿を追った《RETRIEVED》、アメリカ南北戦争の戦没者を祀るアーリントン国立公園の墓地で、棺を運ぶために働く馬を捉えた《アニマ》、2014年ごろからは、日本各地に現存する在来馬を撮影するプロジェクトも行なっている。彼女が関心を寄せるのは、人間と動物の関係性。人間にとって動物は、また動物にとって人間は何を意味するのかという探求が、彼女の制作の根幹にある。

画像: 《潮》(2018)の展示風景。スクリーンを囲む青い布のインスタレーションは、沖縄在来の草木を使って染色を施すテキスタイルデザイナー、キッタユウコがデザイン。会場全体の構成は、建築家の小林恵吾と植村遥が担当している © NACÁSA & PARTNERS INC. / COURTESY OF FONDATION D'ENTREPRISE HERMÈS

《潮》(2018)の展示風景。スクリーンを囲む青い布のインスタレーションは、沖縄在来の草木を使って染色を施すテキスタイルデザイナー、キッタユウコがデザイン。会場全体の構成は、建築家の小林恵吾と植村遥が担当している
© NACÁSA & PARTNERS INC. / COURTESY OF FONDATION D'ENTREPRISE HERMÈS

画像: 《依代》(2020)の展示風景。馬の衣装を身につけ旅をする主人公の少女は、デュマの娘アイビーが演じている PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

《依代》(2020)の展示風景。馬の衣装を身につけ旅をする主人公の少女は、デュマの娘アイビーが演じている
PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

 銀座メゾンエルメス フォーラムで開催中の個展『ベゾアール(結石)』は、特に馬を被写体とした近年の制作の集大成的エキシビションだとデュマは位置付ける。メインとなるのは、野生の馬が自由に暮らす与那国島で撮られたふたつの映像作品。そのひとつが、地元の少女ゆずと愛馬うららを被写体にした《潮(しお)》だ。「これまで私が馬に対して魅了されてきたのと同じように、与那国島で出会ったゆずに惹かれていきました。彼女と愛馬であるうらら、そして自然。ゆずがそれらとどのように関係性を構築しているかがとても興味深かったからです」とデュマ。この《潮》は、動物を撮ってきたデュマにとって、動物と人間の両方を主人公にした意欲的な作品。そして、この延長線上にもうひとつのメイン作品、馬の着ぐるみを着たデュマの娘アイビーがひとりオランダから与那国島へと旅をするロードムービー《依代(よりしろ)》がある。少女の振る舞いが引き寄せる自生する馬との出会いは、驚くほど自然にもたらされる。デュマの動物や自然との関係性を紡ぎだすための新しいアプローチだ。

 ちなみに《潮》に登場する馬の腹に巻かれた布や、《依代》に登場する着ぐるみは、デュマが沖縄で出会った染色家キッタユウコによるもの。今回の展示空間には、藍染めの布を用いたインスタレーションが施されているが、これもキッタが制作したものだ。

画像: 動物の胃や腸の中に形成される凝固物であるベゾアールや、馬の頭蓋骨なども並ぶ © NACÁSA & PARTNERS INC. / COURTESY OF FONDATION D'ENTREPRISE HERMÈS

動物の胃や腸の中に形成される凝固物であるベゾアールや、馬の頭蓋骨なども並ぶ
© NACÁSA & PARTNERS INC. / COURTESY OF FONDATION D'ENTREPRISE HERMÈS

画像: 《アニマ》 PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

《アニマ》
PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

 また会場では、デュマが一番最初に手がけた映像作品《アニマ》も上映され、個展のタイトルにもなっているベゾアール(動物の胃や腸の中に形成される凝固物)や、馬具、5世紀の馬型の埴輪や彫刻など、彼女がリサーチの最中に感銘を受けたオブジェなども並ぶ。《アニマ》は先述のとおり、アーリントン国立公園の墓地で棺を運ぶために働く馬を被写体にした作品。映し出されるのは、人間の最期に立会う馬たちだ。埴輪も死者をあの世へ道案内するものだと言われている。また、動物にとって異物であり死につながるベゾアールは、ヨーロッパやアジアでは、解毒のための特効薬として重宝されてきた。

 こうした展示物は有機的に結びつき、デュマの思考を浮かび上がらせる。人間の文化、生死観、ひいては人間性と呼ばれる“人間らしさ”でさえ、じつは人が独自に築きあげたものではなく、動物や自然の関係の中で育まれてきたのかもしれない、ということだ。デュマが本展に寄せたメッセージを心に留めながら展示を見れば、そのことがよくわかるかもしれない。「私たちは自然の一部である(中略)。私たちは、地球上の生きとし生けるものの置かれた状況の中で、彼らと共存するしかできない。地上の他の生物といかなる関係を結ぶのか、それこそが私たちの種を定義することになる」

「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展
会期:〜12月29日(火)
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム
住所:東京都中央区銀座5-4-1 8・9階
開館時間:11:00~20:00(日曜は~19:00)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:11月14日(土)
入場料:無料
電話:03(3569)3300
公式サイト

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