21世紀に生きる家族が、12世紀のオーストリアの城に移り住むとき、時代とスタイルが衝突し、新しいものが生まれる

BY TOM DELAVAN, PHOTOGRAPHS BY SIMON WATSON, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 結局のところ、900年分の歴史をまるごとメンテナンスする必要があるのだ。この城の最初の記録は1163年にさかのぼるが、城の構造には、その後およそ1000年に及ぶ建築の流行が上書きされてきた。まるで、一度書かれた文字を消して、また新たな文字が記された古代の羊皮紙のように。1577年製のルネサンス様式の階段の、すり減った石灰岩。フランドル地方のタペストリーや、4本の支柱つきベッドが置かれた寝室は、18世紀後半に造られたものだ。夫妻はできる限り史実に基づいた素材を用いて、この家を修繕しようとしてきた。

画像: 廊下の壁には18世紀の先祖たちの肖像画が

廊下の壁には18世紀の先祖たちの肖像画が

画像: かつて城を所有していたクーエンブルク一族のひとりを描いた17世紀の肖像画

かつて城を所有していたクーエンブルク一族のひとりを描いた17世紀の肖像画

画像: 家族のリビングルームには、最近修復が終わったばかりの18世紀初期の中国製の壁紙。その前にはアルフレッドの祖母、ルドミラがボヘミア(チェコの西部)から持ってきた椅子。横にはアキッレ・カスティリオーニのデザインによるアルコランプ

家族のリビングルームには、最近修復が終わったばかりの18世紀初期の中国製の壁紙。その前にはアルフレッドの祖母、ルドミラがボヘミア(チェコの西部)から持ってきた椅子。横にはアキッレ・カスティリオーニのデザインによるアルコランプ

天井の細かい装飾部分は漆喰を使って修理し、寄せ木細工の床の傷は、それに合う木材でふさいだ。だが、新たにつけ加える部分に関しては、いっさいためらわず、現代風なデザインを取り入れた。つまり、彼らなりのやり方で、この家の家系に自身の名前を刻み、壁に自分たちの存在と、彼らの時代を刻印しようというわけだ。この家に足を踏み入れると、まるでドラッグによる幻覚のような色調の壁紙と、鏡で覆われたエレベーターが、すぐ目に飛び込んでくる。これはドイツ人デザイナーのマルクス・ベネシュが手がけた作品だ。彼は、人を視覚的に幻惑するような、白地に黒い点をちりばめたオプアートのパターンで壁や床を覆った。「最初に見たときは、ちょっと衝撃を受けたよ」とアルフレッドは言う。

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