ベルベットで装飾された、いかにもパリらしいアパルトマンに住むミュージシャンのニコラス・ゴダン。彼は少年時代に慣れ親しみ、今やパリから消えつつあるブルジョワ的空間をここに再現した

BY LAUREN COLLINS, PHOTOGRAPHS BY MARION BERRIN, TRANSLATED BY MAKIKO HARAGA

 フランス人ミュージシャンのニコラス・ゴダン(49歳)が部屋づくりのコンセプトを思いついたのは、ある打ち合わせがきっかけだった。それは2004年のことで、なんの打ち合わせだったかは忘れてしまったが、友人が骨董品店を構えるパリの6区で誰かと会うことになっていた。約束の時間より早く到着したゴダンは店に入ると、あるものに心を奪われた。「絵に、ひと目惚れしてしまったんだ」とゴダンは振り返る。彼を虜(とりこ)にした絵の中の若い女性は、大きな袖の白いシンプルなドレスを着ていた。肌が透けるように白く、艶のある髪をひとつに束ね、とても落ち着いた表情を浮かべている。

画像: 自宅のリビングにいるニコラス・ゴダン。パリの7区にある彼のアパルトマンは、クラシックなインテリアでまとめられている ほかの写真をみる

自宅のリビングにいるニコラス・ゴダン。パリの7区にある彼のアパルトマンは、クラシックなインテリアでまとめられている
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「子どもの頃、よく親友の家に泊まりに行った。テレビの置いてある部屋の古いソファに寝ていたんだけど、そこにはきれいな女の人の肖像画が掛かっていてね。あの絵を見た瞬間、少年時代の思い出が蘇ってきた」と、ゴダンは回想する。彼はその絵を買い取った。そして絵から得たインスピレーションが、部屋づくりのコンセプトへとつながっていった。当時、彼はエッフェル塔からほど近い静かな住宅地グロ・カイユにアパルトマンを購入したばかりだった。肖像画の背景を彩る緑なのか灰色なのか判然としない、暗いけれど穏やかな色が、今、ゴダンのアパルトマンの壁の色になっている。彼はその理由を「ノスタルジーだね。昔僕が知っていた、懐かしいパリの思い出や場所を生き返らせたくて」と説明する。

 ゴダンの母は専業主婦で、父のフィリップは建築家だ。モナコの競技場「スタッド・ルイ・ドゥ」の設計に関わり、80年代にはコートジボワールの大統領から委託されて、新しい首都ヤムスクロの建設に携わった。一家はパリの17区に住んでいたが、ゴダンが1歳のときにヴェルサイユ郊外のハイソな地域へ引っ越し、彼いわく「木と石でできた、70年代のクールな建物」で暮らしはじめた。自宅とは対照的な美しさをもった周辺の環境は、スタイルと空間とのあいだに深いつながりがあることをゴダンに強く印象づけた。「自分はまるで『マッドメン』(60年代の広告代理店を描いた米国のドラマ)みたいな世界で育ったんだけど、自転車で道路の向こう側に渡ると、そこはマリー・アントワネットの村なんだ」

 

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