BY ALEXA BRAZILIAN, PHOTOGRAPHS BY DANIEL PAIK, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO

「ローマン&ウィリアムス」のデザイナー、ロビン・スタンデファーとスティーブン・アレッシュは、クライアントが所有するロングアイランド東端の静かな一角に、白い杉板で覆った〈創作の隠れ家〉を築いた。苔むしたレンガ敷きの前庭には、アンティークの石のテーブルと、1940年代のフランス製メタルガーデンチェアが並んでいる。
海辺に建つすべての家が、白を基調とした光あふれる空間であるとは限らない。「ローマン&ウィリアムス」のデザイナーで、夫婦でもあるスティーブン・アレッシュとロビン・スタンデファーは、約10年前、ナンタケット島の「グレイドンハウス・ホテル」(1850年代築)の改修を手がけた際、アメリカ北東部の沿岸では20世紀半ばまで、重厚で陰影をたたえたインテリアが主流だったことを知った。その歴史に感化されたアレッシュはホテルの改修にあたり、「ビーチハウスにつきものの、採光用のガラス窓をあちこちに設けるのはやめにして、もともとあったダークな印象の、貴重な内装品やテキスタイルをできる限り遺すことにした」という。
アレッシュ(59歳)とスタンデファー(61歳)は1990年代に映画のセットデザイナーとしてキャリアをスタートさせた。以来、セレブの邸宅やホテル、NY・ソーホーで彼ら自身が展開するレストラン兼ショップ「ラ・メルスリー」などをデザインしてきた。それらの空間に息づいているのが、「グレイドンハウス・ホテル」のプロジェクト以来、彼らが惹かれてやまない〈美しい陰影を宿す海辺の家〉のムードだ。2019年、ある脚本家兼監督のカップルからハンプトンズのコテージのリノベーションを依頼されたときも、ふたりはこの美学を貫き、思いきって室内をダークトーンでまとめることにした。外観は、屋根が杉板で覆われたクラシックなケープコッド様式(註:三角の切妻屋根と煙突を載せた長方形の建物)。白いピケットフェンスで囲われた庭には、ノリウツギ(註:アジサイ科)の綿のような茂みがふんわりと揺れている。だが室内に足を踏み入れると雰囲気が一変する。黒に近いパープル、グレイッシュブルー、深いティールグリーン(註:鴨の羽根色)が憂いのある陰影を生み、トルコ絨毯やイギリスの骨董品、つくりつけの木製家具が重厚感をもたらしている。アレッシュが回想する。「ビーチ・ゴシックとでも呼んだらいいでしょうか。ビーチハウス=ブルー&ホワイトというステレオタイプを打ち破りたかったんです」

ダイニングエリア。壁板や造作にはパイン古材(註:解体時に取り出された再利用可能な木材)を、床にはアンティークのチェスナット(ブナ材)を用い、天井と壁には「ファイン・ペインツ・オブ・ヨーロッパ」でカスタマイズした塗料を施した。ジョージアン様式のテーブルを囲むのは「Vaughan」社の刺しゅう入りのリネンで包んだ17世紀のグスタビアン(註:仏ロココ調とスウェーデンの素朴さが融合した様式)チェア。床には年代もののトルコのウシャク絨毯が敷かれ、窓側にあるアンティークのスリッパチェア(註:アームがなく低めの座面と高い背もたれが特徴)は、ヴィンテージのスザニ(註:中央アジアの伝統的な刺しゅう生地)で覆われている。
3 つの寝室を備えた、約185㎡のこのコテージが建てられたのは1885年のこと。その約100年後、アレッシュとスタンデファーが1990年代にリノベーションを手がけた際、内部の木材の大半が腐食していることが判明した。骨組みまで解体し、元の構造をすべて取り払うことになったため、ふたりは全面的な再構築に挑んだ。こうしてこの家は、クラシカルな蒸気船のようなムードと、カーペンター・ゴシック建築様式(19世紀半ばにアメリカで広まったゴシック・リバイバル様式と地域の伝統建築を融合したもの)を取り入れた、広々としたワンベッドルームの住まいへと姿を変えることになった。スタンデファーは当時を振り返る。「名もない職人が地元の木材と自らの建築技術を駆使して、斬新で美しいディテールを生み出していく─そんな、ごく素朴でありながら卓越したクラフツマンシップに光をあてたいと思ったんです」
アレッシュはほぼすべての壁と天井にさねはぎ加工(註:板材を強固に接合するため、側面に凸凹をつけること)のボードを張り巡らせ、ドアの上部は緩やかなアーチ形に仕上げた。まるで往年の豪華客船を彷彿とさせるディテールだ。「ファロー&ボール」や「ファイン・ペインツ・オブ・ヨーロッパ」の塗料で調色された壁や天井の、つややかな光沢は船旅の幻想をいっそう深める。「私たちが求めたのは"色ではない色"─自然の中にしか存在しない不思議な色合いです」とスタンデファー。約6000㎡の敷地には菜園や花壇が設けられ、クイーンアンズレースの白い花や野草がのびやかに広がっている。彼女はこうした植物から色のインスピレーションを得たという。

サンルームの前に広がるキッチンガーデン。牡蠣の殻で縁取られたレイズドベッド(註:地面より高く立ち上げてつくった花壇)が整然と配され、その周りではノリウツギや「デビッド・オースチン」のラベンダー・ラッシー・ローズが潮風にそよいでいる。
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