ラート競技の世界選手権で3度目の世界一に輝いた髙橋靖彦選手。アスリートを撮り続けるフォトグラファー、たかはしじゅんいちが語るその魅力とは

TEXT AND PHOTOGRAPHS BY JUNICHI TAKAHASHI

 秋田県仙北市角館町出身の髙橋靖彦は、幼少の頃からの野球少年だったという。しかし足首の骨折が原因で、筑波大学1年時に野球を断念。大学2年で入部した体操部で初めてラートに出会う。

「さまざまな部から勧誘を受けましたが、体育の教員採用試験に向けて最も苦手な体操を克服しようと、体操部を選びました。ラートを体験した第一印象は、『楽しいけど自分には向いてない』。当初は技の習得にもいちいち時間がかかり、苦労しました」

画像: 2018年5月の世界大会で「直転」競技中の髙橋選手 COURTESY OF YASUHIKO TAKAHASHI

2018年5月の世界大会で「直転」競技中の髙橋選手
COURTESY OF YASUHIKO TAKAHASHI 

 7年が経ち、技術力は上がったものの、競技会では不甲斐ない失敗が続いた。これで競技をやめようと考えた年に、どうせなら根本から変えてみようとメンタルコーチングを取り入れたところ、成果はすぐに表れた。初めて実力をじゅうぶんに発揮することができ、全日本選手権で初優勝、その勢いで世界選手権でも初優勝を飾ったのである。

 178cmの均整のとれた肢体から繰り出されるダイナミックな演技が、彼の最大の持ち味だ。そして、高い技術力からくる安定感。ゆっくりときれいな軌道を描く髙橋選手の回転は、美しく見応えがある。「体操の基礎がなかったことはハンデでしたが、逆に野球部で培われた脚力や筋力は自分の大きな強味になりました。特に跳躍種目で、難易度の高い技を完成するのに役立っています」

 初めて彼に出会ったとき「いつも今の自分を超えるために練習をしている。リスクを承知で自分を変え続けていけるのも自分の強み」だという言葉にしびれた。それからは折に触れて撮影させてもらっている。彼の今の目標を尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「競技者としては世界チャンピオンであり続けることを目指していますが、 世界一になるだけではなく、ラートの魅力を体現できる演技が理想です。そのために、今もつねに新しい技に挑戦し、新しい表現方法を模索しています」

画像: 髙橋 靖彦選手

髙橋 靖彦選手 

 来年、2019年4月には地元秋田で世界ラートチームカップ(国別チーム対抗の世界大会)が開催される。アジア初の世界大会という大舞台を盛り上げたいと意欲を見せる。さらに、2020年の東京五輪に向けてのPR活動という責務もある。
 不慮のケガからやむなく競技を変更し、世界一へ。それが偶然にせよ必然にせよ、現在の栄誉が髙橋選手のたゆみない努力と才能のうえに成り立っていることは間違いない。

「今は各地でラートを体験できる機会が増えてきました。体験した方の『意外とできる』『楽しい!』という声を聞くたびに、もっとラートの輪を広げていきたいという思いになります」
 にこにことラート競技の楽しさを語る顔と、世界チャンピオンにこだわるアスリートとしての顔。どちらも魅力的なその2つの顔を、これからも見守り続けたい。

 

髙橋 靖彦
1985年生まれ。筑波大学2年時から体操部に入り、ラートに出会う。2013年世界選手権で日本人初の個人総合優勝を達成。15年世界選手権では男子個人総合2連覇を果たし、種目別跳躍、直転も合わせ3冠達成。18年世界選手権では男女通じて史上初となる3度目の個人総合優勝を果たし、種目別跳躍、斜転も合わせ3冠。全日本選手権では個人総合6連覇中。全国各地でのデモンストレーション演技やラート体験会の実施、また大学での授業やラート教室などで幅広い年代を対象に指導にあたる。
2018年度から秋田ノーザンハピネッツ所属

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