少年時代の記憶の一コマから、『ツイン・ピークス』製作中の風景まで。インタビュー&周囲の証言で綴る鬼才の横顔

BY ALEX BHATTACHARJI, TRANSLATED BY NHK GLOBAL MEDIA SERVICE

 作家デヴィッド・フォスター・ウォレスが1996年に書いた有名なエピソードがある。ウォレスが初めて見たリンチは、映画『ロスト・ハイウェイ』('97年)のセットにあった木に小便をかけているところであった。仕事に没頭して、仮設トイレまで行けなかったのだ。今回、FBI特別捜査官デイル・クーパーの役を再び演じることになったカイル・マクラクランも、監督の細部へのこだわりはいまだ健在だと証言する。「彼はセットから一歩も出ない。常にそこにいるんだ」。今も「彼はとにかくずっとずっと考えていて、これからしようとすることに一心不乱に取り組んでいるんだ」という。

 リンチは新作『ツイン・ピークス』のプロットについていっさい回答しない。シリーズの各部を「エピソード」ではなく「パート」と呼ぶよう要求し、映画監督らしい説明をする。「これは長編映画だ。18時間の長編映画を18部に分けている」。意外なことではない。彼はテレビが好きではないのだ。オリジナルの『ツイン・ピークス』が放映された当時も、自分はテレビを観ないと認め、テレビを避けることは難しくないと言った。「もちろん可能だよ。あまり大きくないからな、テレビというものは」。一世代が過ぎた今、世に普及するさらに小さい画面の影響力を彼は警戒しているようだ。「大事なのは別世界に入り込むこと。理想を言えば、静かな暗い部屋があるといい......じゃまになるものが何もない場所だ」

 作品のリバイバルに期待が寄せられているが、リンチ自身は視聴者の反応について考えていないようだ。「自分の仕事に集中して、最善をつくす。時がくれば作品を手放し、運を天に任せるだけだ」。"一気見"やストリーミング時代の視聴者がどのように作品を観賞するかもリンチは気にしない。微笑しながら、ばらばらに観るのがいいかもしれない、などと言う。「映画館の映写技師がたまにフィルムを取り違えて、2巻目の前に4巻目を流したりしただろう。それでもみんなちゃんと理解していたじゃないか」

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