BY MASANOBU MATSUMOTO
6年間にわたる取材期間中、東日本大震災のために中断を余儀なくされた時期があった。取材を再開する直前、溜まったテープを見直していた佐々木監督は「ふと、捕鯨問題を超えた普遍的なメッセージがあることに気づいた」と話す。ここで起きていることは、正義と悪の二項対立ではないこと。また正義とはひとつとは限らず、2つも3つも存在しうること。そして「太地町は、まさに現代社会の縮図だということです」。
「多様性が謳われる一方で、特にブレグジット(EUからのイギリス脱退)の発表やトランプ大統領就任以降、分断という言葉が特別なインパクトをもって使われていますよね? 太地町の捕鯨問題に見られる分断は、いまや世界で起こっているんです」。だからこそ、佐々木監督は、映画の”物語の結び”を何度も再考したという。「本作を観終わったとき、それぞれが思考を巡らせ、自分の意見に辿り着けたら」と話す通り、クジラを巡る物語は、捕鯨の是非ではなく、多様性社会に生きるわれわれ自身のドキュメンタリーとして、その生き方を問う。
『おクジラさま ふたつの正義の物語』
2017年9月9日(土)より東京・渋谷のユーロスペースほか全国順次ロードショー
配給:エレファントハウス
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