それぞれの分野で成功を収めたふたり、女優のサラ・ジェシカ・パーカーとジャーナリストのタネヒシ・コーテスが、未知なる文学に挑戦する

BY SARAH NICOLE PRICKETT AND JODY ROSEN, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

「何読んでるの?」と彼女は私に尋ねた。私が持っていった 2冊のペーパーバックの1冊を手にとって、カバーの裏側をチェックし、本をさっと適当に開き、そこに彼女の鼻を埋めて匂いを嗅いだ。「古い本の匂いをボトルに詰めようとした人たちがいるの知ってる?」と彼女は言った。「でも、すごく難しくて無理だったって。素晴らしい物語を複製するのと同じように無理だってことね。だからこそ特別なんだけど」。本になる原稿は、真っ白な表紙で、題名も作者の名前も何も書いてないほうがいい、と彼女は言う。まるで、ブラインドテストに使う香水のサンプル液のように、余計な情報がないまっさらな状態で読みたいのだと。

画像: ニューヨークにある人気の書店スリー・ライブズ &カンパニーの前で PHOTOGRAPH BY JENNIFER LIVINGSTON

ニューヨークにある人気の書店スリー・ライブズ &カンパニーの前で
PHOTOGRAPH BY JENNIFER LIVINGSTON

 今彼女が目を通している原稿は、イーデン・ルパッキ著の『Woman No.17(17番の女)』で、2017年5月にホガースから出版予定の本だ。この原稿以外にも、今どんな本が読まれているのかというリサーチを兼ねて、何十冊か読む予定だという。そして秋にはホガースのSJP部門用に、原稿選定の第一段階をすませる予定だ。パーカーいわく、選定基準には「ストーリーが素晴らしいこと」と「グローバルな視点があること」が含まれ、それ以上詳しいことは、何も明かせないという。だが、最近の文学作品の中で、彼女が注目しているものから、彼女がどんな原稿を探しているか、ヒントが読み取れそうだ。たとえば、アイルランドの作家、イマー・マクブライドが彼女の2013年のデビュー作『A Girl Is a Half-Formed Thing(原題)』で用いた言葉の威力は、まぎれもなく独自のものだが、同時に彼女はそれを「残酷で神話的だけど、ある種の親しみやすさも感じる」と評する。

 対照的なのが、コルソン・ホワイトヘッドの新作『The Underground Railroad』だ。奴隷制の歴史の過酷さが「まるで自分の目の前で起きていることのように」描かれている。そしてドナ・タートの2013年に出版された小説『ゴールドフィンチ』は流れるような展開が素晴らしく、同時に「クロゼットの奥にしまい込まれたお父さんの湿った毛糸の匂い」というような細部の埃っぽさが効いている。ライオネル・シュライバーの『The Post- Birthday World』ではスーパーに買い物に行くことが、決して忘れられない行為になる(パーカーにとってこの物語の細部は「骨の髄をとことん味わうようなもの」だという)。

 モダニズム期の文学の中でも、パーカーが好きなのは、国という存在をなくしてしまいたかったヴァージニア・ウルフではなく、家庭を求めてやまない登場人物たちを描いたイーヴリン・ウォーのような作家だ。家庭というものに惹かれるパーカーは、ホガース設立の起源にも同じ理由で惹きつけられている。「ヴァージニアとレナード・ウルフは彼らの自宅で本を印刷していたから。そして、彼らの友人たちの作品を出版することで、自分たちが本当に伝えたい物語を世に送り出していた」と彼女は言う。「そんなコミュニティの感覚がすごく好きなの。そして出版の歴史が個人的なところから出発している点が好き。拝金中心主義の考え方では決してないところがね。ウルフ夫妻はストーリーテラーだったから」。

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