第一次大戦下のフランスで、出征した男たちに代わり農場を守り続けた女性たち。三世代にわたるその過酷な戦いを描いた『田園の守り人たち』で女あるじを演じたナタリー・バイが語る、作品に込められたメッセージとは

BY REIKO KUBO

 今のように便利な農器具のない時代で、すべてが肉体作業。泥状の土地を耕すには、鋤を引く牛を一日中、追い立てなければならない。私も撮影で実際にやったけれど、ものすごくハードな作業でした。そういう肉体的な過酷さと、つねに胸をさいなむ恐怖。いつ夫や息子の戦死の知らせが届くかわからないという不安……。でも、これまでの戦争映画では、そういった女性たちに光が当てられることがありませんでした。だからこそ、銃後の女たちを描いたこの映画のストーリーに強く惹きつけられたの」

画像: 威厳あるオルタンスを演じるナタリー・バイと、モダンな考え方を持つ娘ソランジュ役のローラ・スメット。 並んで佇むだけで、親子という設定に真実味を与える母娘初共演も話題に

威厳あるオルタンスを演じるナタリー・バイと、モダンな考え方を持つ娘ソランジュ役のローラ・スメット。
並んで佇むだけで、親子という設定に真実味を与える母娘初共演も話題に

 今回、彼女とフランスの国民的歌手の故ジョニー・アリディとの娘、ローラ・スメットがオルタンスの娘ソランジュを演じている。『イヴ・サンローラン』(2014年)など、母同様に女優として活躍するスメットが、寡黙な映画の中で親子の空気を絶妙に醸し出し、10代の娘フランシーヌと母の世代のあいだを繋ぐ。

「オルタンスは否応なく過去を象徴している女性で、ソランジュは自立を欲している現在の女性。そしてフランシーヌが意味するのは未来。髪を短く切り、父親のいない子どもを産み育てるというところも含めて、彼女は未来の自立した女性を表現しているの」。過去の象徴であるオルタンスは、戦争が終わり、男たちが帰ってくると、再び陰の存在へと還ってゆくことになる。男は国に戻り、そして戦争が繰り返される。

画像: フランスが誇る女性名カメラマンが捉える美しい光の中に、銃後に生きる三世代それぞれの姿が浮かび上がる © 2017 LES FILMS DU WORSO – RITA PRODUCTIONS – KNM – PATHÉ PRODUCTION – ORANGE STUDIO – FRANCE 3 CINÉMA – VERSUS PRODUCTION – RTS RADIO TÉLÉVISION SUISSE

フランスが誇る女性名カメラマンが捉える美しい光の中に、銃後に生きる三世代それぞれの姿が浮かび上がる
© 2017 LES FILMS DU WORSO – RITA PRODUCTIONS – KNM – PATHÉ PRODUCTION – ORANGE STUDIO – FRANCE 3 CINÉMA – VERSUS PRODUCTION – RTS RADIO TÉLÉVISION SUISSE

「私はフェミニストで反戦主義者だし、戦争にも、性差別にも反対する。けれども男性に反撥し、存在を否定しても何も前に進まない。男女のビジョンがうまく混ざり合ってこそ、社会の両輪がうまく回っていくのだと思うの」

 世界中で紛争が長期化し、不条理な戦が繰り返され続けている。なぜ人は戦争をやめないのか――。キャロリーナ・シャンプティエという当代随一の女性カメラマンが捉える美しい光の中に浮かび上がる、たくましい女たち。静かな感動をもたらすその闘いのドラマは、過去から現代まで耐えることのない戦争の過酷さ、そして未来に託された希望まで、多くのことを物語っている。

『田園の守り人たち』
7月6日(土)より、岩波ホールほかにて全国順次ロードショー
公式サイト

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