映画字幕翻訳でおなじみの戸田奈津子さんが、今はまっているもの―― それは海外の一流カンパニーのオペラやバレエ公演を映画館の大スクリーンで上映する、ライブ・ビューイングだ

BY YUKI SATO

 ライブ・ビューイングでは、ボーナスとも言える貴重な映像も上映される。「例えばMETだと、その作品をかつて歌ったことのある歌手がリポーターとして、制作に関わった人などにインタビューしてくれるんです。それもたった今、第一幕を歌い終えて息を切らしている歌手をつかまえて思いを聞いたりして(笑)。舞台裏のザワザワ人が行き交う隅で、というのも臨場感があるし。歌手たちも、いろいろな国の出身者がいるから、最後の方では母国語でカメラに向かって挨拶したり。これぞライブ・ビューイングならでは、という感じでいいですね」

画像: MET『ワルキューレ』(2010‐11シーズン) デボラ・ヴォイト、ヨナス・カウフマンほか © KEN HOWARD/METROPOLITAN OPERA

MET『ワルキューレ』(2010‐11シーズン)
デボラ・ヴォイト、ヨナス・カウフマンほか
© KEN HOWARD/METROPOLITAN OPERA

 確かに『ワルキューレ』では、インタビューに応じていた歌手が突然聞き慣れない言葉を発したと思ったら、アイスランド語だった。「しかも、(『ワルキューレ』を含む四部作の)『ニーベルングの指環』は、元々はアイスランドの神話から生まれた、ということを解説で教えられると、なるほど! だから舞台装置もアイスランドを思わせる火山なんだ、と勉強になる。私はワーグナーの楽劇って、今まで途中で眠くなることが多かったのですが、METライブ・ビューイングの『ワルキューレ』では、全くそれはありませんでした。字幕によって、画面の展開と共にストーリーがスーッと頭に入ってくるし、何よりも音響がいいので歌手たちの声がいい! だから、演出的には今イチだなぁと思う作品でも、許されぬ恋の唄を歌うジークムントが多少太っていても(笑)。音楽に酔い痴れることができる。もちろん今はDVDやテレビの舞台中継などでも鑑賞できますが、音の良さは映画館にはかないませんから」

 勉強ということでは、例えば戸田さんが家族ぐるみで交流のある、フランシス・F・コッポラ監督の娘ソフィアが、映画監督についでオペラ演出デビューも飾ったローマ歌劇場の『椿姫』で来日公演を果たした際、先に公開されたライブ・ビューイングで予習として味わった後、生の舞台を堪能するという二重の楽しみでさらに豊かな気持ちになれた。英国ロイヤル・オペラの『ファウスト』もまさにそれで、ライブ・ビューイング版で魅力に気づいた人々が、今年9月の来日公演のチケット獲得に急いでいる。

画像: 英国ロイヤル・オペラ・ハウス『ファウスト』 マイケル・ファビアーノほか © ROH 2019. PHOTOGRAPH BY TRISTRAM KENTON

英国ロイヤル・オペラ・ハウス『ファウスト』
マイケル・ファビアーノほか
© ROH 2019. PHOTOGRAPH BY TRISTRAM KENTON

「オペラにあまり馴染みのない方から、“何を見たらいいんですか?”と聞かれることがありますが、やはり『カルメン』か『椿姫』をおすすめしますね。舞台を見たことがなくても、絶対に音楽は知っているはずですから。それもメインのアリアだけでなく、あ、この曲も知ってる!のオンパレードで。しかも、ソフィア・コッポラ演出の『椿姫』といい、METの『椿姫』といい、最近のヒロインはちゃんと“肺病で亡くなっていく若い女性”ということが納得できるルックスで、だからこそ悲劇性も高まる。昔はどう考えてもこの人、肺病じゃないなという体型のソプラノ歌手が多かったのに(笑)。ライブ・ビューイングなら細かい顔の表情も見えるから、演技にもより注目できますし」

 英国ロイヤル・オペラはコべント・ガーデンの劇場を共有している英国ロイヤル・バレエのファンも多く、先日のマシュー・ボーン版『白鳥の湖』来日公演で、現役プリンシパルながら異例のゲスト出演を果たしたマシュー・ボールが踊る『ロミオとジュリエット』が、今後公開されるライブ・ビューイングの中でも前人気が高い。また、そうした定番作品ばかりでなく、ヒッチコック監督の映画をオペラ化したMETの『マーニー』のような、思いがけない作品との出会いもある。

画像: 英国ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』 (左)マシュー・ボール、(右)ヤスミン・ヤグディ © ROH, 2015. PHOTOGRAPH BY ALICE PENNEFATHER

英国ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』
(左)マシュー・ボール、(右)ヤスミン・ヤグディ
© ROH, 2015. PHOTOGRAPH BY ALICE PENNEFATHER

「本当は映画でもこれだけワクワクさせられる作品に出会いたいのですが……。ゲームの延長のような“超大作”に若い観客が熱狂する姿を見ても、ちゃんと人間を描けているのはこうした舞台作品の方ではないかなと、どうしても思ってしまいます。これから見られるライブ・ビューイングのラインアップも楽しみですね」

<METライブビューイング アンコール2019>
『西部の娘』『ワルキューレ』『アイーダ』ほか、最新の2018-19シーズンと、過去の人気作品の豪華ラインナップをアンコール上映中
期間:~2019年10月3日(木)※会場によって異なります
会場:東劇、なんばパークスシネマほか
料金:当日一般¥3,100、学生¥2,100 ※ 演目により異なる場合あり
※ チケットは、インターネットで事前購入可能
※ 上映スケジュール、会場、料金などの詳細は公式サイトを参照
※ 2019年11月15日(金)~新シーズンがスタート

<英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2018/19>
英国ロイヤル・バレエで高い人気を誇る、ケネス・マクミラン振付の『ロミオとジュリエット』。人気の若手プリンシパル、マシュー・ボールがロミオを踊る
期間:2019年8月23日(金)~
会場:TOHOシネマズ日比谷、大阪ステーションシティシネマほか
料金:一般¥3,600、学生¥2,500
※ チケットは、各劇場のサイトで事前購入可能
※ 上映スケジュール、会場などの詳細は、公式サイトを参照

<ナショナル・シアター・ライブ2019>
『リア王』や大絶賛された『橋からの眺め』など「アンコール夏祭り」を開催中
期間:~9月5日(木)
会場:シネ・リーブル池袋
料金:一般¥3,000、学生¥2,500
※ 各作品の上映スケジュール詳細は、公式サイトを参照

新作はサイモン・ラッセル・ビール主演の『リチャード二世』を上映
期間:9月6日(金)~9月12日(木)
会場:TOHOシネマズ川崎、大阪ステーションシティシネマほか
料金:一般¥3,000、学生¥2,500
※ 上映スケジュール、会場などの詳細は、公式サイトを参照

 

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