恋愛映画の金字塔『男と女』。公開から半世紀以上を経て、このほど続編が公開される。チャーミングでバイタリティ溢れる82歳、クロード・ルルーシュ監督にスペシャルインタビュー

BY KURIKO SATO

 このシリーズが他の映画と異なることは、作品がわたしたち作り手だけでなく、観客にも属しているということです。恋をしたことがある人なら、誰でもこの作品に共感するでしょう。長年の反響から、わたしはそれを感じていました。ですから今回新作を撮るなら、観客もまた参加できるような、つまり『これは自分の物語だ』と感じられるようなものにしなければだめだと思ったのです。それにある年齢になると子供ができたり、家族が増えたり、いろいろな経験をしますよね。観客が共感できるような、そんなさまざまな要素がこの映画にはあります」

 とはいえ一作目を愛する観客なら誰もがこう思うだろう。果たしてセンチメンタリズムではない、新たな喜びを新作に見出せるだろうか。それは監督のみならず、俳優たちの恐れもでもあったとルルーシュは語る。
「ジャン=ルイもアヌークも乗り気になってくれた一方で、とても不安を抱えていました。ですからわたしはこう言いました。最初のシーンを撮ってみて、もしもそれが気に入らなければ中止にしよう、と。果たして彼らは最初のシーンの結果をとても気に入り、わたしを信頼してくれたのです」

画像: ジャン=ルイ・トランティニャンとアヌーク・エーメを演出中のルルーシュ監督。主人公のジャン・ルイが元レーサーという設定は、車好きを自負する監督の投影でもある。映画のアイディアも運転中に浮かぶことが多いとか © 2019 LES FILMS 13 ‐ DAVIS FILMS ‐ FRANCE 2 CINÉMA

ジャン=ルイ・トランティニャンとアヌーク・エーメを演出中のルルーシュ監督。主人公のジャン・ルイが元レーサーという設定は、車好きを自負する監督の投影でもある。映画のアイディアも運転中に浮かぶことが多いとか
© 2019 LES FILMS 13 ‐ DAVIS FILMS ‐ FRANCE 2 CINÉMA

 元レーサーとして活躍したジャン・ルイは、いまや日々記憶が薄れていくなか、余生を施設で送っている。息子はそんな父を気遣い、かつてジャン・ルイが本気で愛した女性、アンヌを探し出し、父と会ってくれるように頼む。アンヌは動揺するが、かつての思いが蘇ることに逆らえず、ジャン・ルイを訪ねる。果たして彼はまだ自分を覚えているのか。あの時のことを、彼はどう思っているのか。

 本作が素晴らしいのは、人生の終幕を前にした諦観やノスタルジーだけではない、生き生きとした喜びや情熱をたたえているからだ。年齢とは心の問題でもあるということ、そして愛し方は変わっても、人を愛すること自体に年は関係ないのだということを、本作は教えてくれる。それはルルーシュ監督自身の生きる哲学でもある。彼はこう続ける。

「この世で最良のことは何かご存知ですか? 誰かを愛することができること、そしてそんなとき、自分のことよりもその人を愛せるということです。まったく常軌を逸しているようですが(笑)。でもそんなとき、人生はとても興味深くなる。わたしは、愛はヒューマニティのもっとも大切な要素だと思うのです」

画像: 映画『男と女 人生最良の日々』予告編 © 2019 LES FILMS 13 ‐ DAVIS FILMS ‐ FRANCE 2 CINÉMA vimeo.com

映画『男と女 人生最良の日々』予告編
© 2019 LES FILMS 13 ‐ DAVIS FILMS ‐ FRANCE 2 CINÉMA

vimeo.com

 だからこそ、年齢を経てもその情熱が薄らぐことはないのだろう。
「わたしもこの映画のジャン・ルイとアンヌと同じように、人生の最終コースに到達しました。この年になると、人は本質を見るようになり、もはや怖いものもなくなります。恐怖がなくなれば、人生の素晴らしさを十分に享受することができる。そして人生がますます愛おしく思えるようになるのです」

 今後も企画が数本あり、すでに編集を終えた次回作もあるというルルーシュ監督。彼の生きる哲学を反映したかのようなエネルギッシュな姿勢に、こちらの方がパワーを授けられた思いがした。

『男と女 人生最良の日々』
2020年1月31日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほかにて全国公開
公式サイト

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