新型コロナウイルスの出現とともに、私たちを取り巻く社会は一変。ウイルスとの共生が求められるなか、私たちの日常はどのようなものになってゆくのか。先の見えない世界を生きてゆくヒントを、さまざまな分野で活躍する識者の方たちが一冊の本を通じて語る

BY JUN ISHIDA

封印を解いて書き進めた物語

 今年は1月から高知で集中的に自分の作家活動をしていました。去年10月に「カーニバル00 in 高知」を開催する前から翌年はどうするかを考えはじめて、2020年の前半は執筆活動をすると決めていました。ここ二年くらい、今思うと自分自身のクリエイティブな時間や作業を我慢していたんですよね。外へ外へというのが増えていました。これまで自分で小説を書き映画にするという流れでやってきましたが、書き始めて放っておいたものを、去年やっとやれそうだなと思えたんです。カーニバルを終えたら内面に向けて漕ぐぞ! みたいな。

  緊急事態宣言の期間中は、全く外に出ませんでした。免疫を上げるにはまず身体の掃除をと思い、四日間断食をして、それから家もデトックスしようと思って、掃除、掃除、掃除、掃除で。そうしたら気持ちも含めてどんどん元気になりました。家や身体の掃除をすると汚れが剥がれ落ちて、蓋をしてきたいろいろなことを思い出すんですよね。本当の心と向き合う時間が始まりました。

 今、書いている小説は出産直後に書き始めたものです。書けないのに振り絞って書いて、もう二度と見たくない、向き合いたくないと思って封印していたのですが、もう一度引っ張り出して、手術というか治療してあげたかった。東京と大自然の両方を通して「母性」を描いています。コロナ禍の最中に書きましたが、一時間おきに変化してゆく状況をニュースで見ながらも、不思議なことに小説の内容には全く影響しませんでした。それ自体が大きな発見でしたね。やはり、生命という普遍を描いていたからだといます。

画像: 安藤桃子(MOMOKO ANDO) 1982年東京都生まれ。2010年『カケラ』で監督・脚本デビュー。翌年、初の長編小説『0.5ミリ』を出版し、2013年に映画化。報知映画賞作品賞など多数の賞を受賞。2014年より高知に移住し、映画館「ウィークエンドキネマM」の代表および「表現集団・桃子塾」塾長を務める。最新作はオムニバスのショートフィルム『アエイオウ』(2018年)。また、子どもたちの輝く未来を共に描くチーム「わっしょい!」のリーダーも務めている COURTESY OF MOMOKO ANDO

安藤桃子(MOMOKO ANDO)
1982年東京都生まれ。2010年『カケラ』で監督・脚本デビュー。翌年、初の長編小説『0.5ミリ』を出版し、2013年に映画化。報知映画賞作品賞など多数の賞を受賞。2014年より高知に移住し、映画館「ウィークエンドキネマM」の代表および「表現集団・桃子塾」塾長を務める。最新作はオムニバスのショートフィルム『アエイオウ』(2018年)。また、子どもたちの輝く未来を共に描くチーム「わっしょい!」のリーダーも務めている
COURTESY OF MOMOKO ANDO

コロナ禍で生まれた地球人という意識

 コロナ禍が私たちに見せたことからまず言えるのは、もう以前に戻ることはないということです。もうすでに、私たちはひとつのボーダーを超え“た”。高知に移住した理由の一つでもありますが、私たちは本当はこうじゃないのにと心の奥底で不自然に感じていることを、「こうあるべきだ」と、自分に思い込ませて生きてきたわけです。そうした歪みや違和感を、一気に叩きつけられた。そうして芽生えたのは、蛹が蝶になるように新しい姿に「再生」することだと思います。コロナ禍は、どんな生き物でも共通して真ん中に鎮座しているのは命だという、大切な私たちの中心を思い出させてくれました。これからは、社会、文化、全ての分野が、命を中心とした本来の姿に戻ると思います。命がなければ、経済も文化もありませんから。まず命があり、そして経済という順番になって初めて、本当に必要なところに、必要な人に、経済がきれいに回ってゆくのではないでしょうか。  

 私たち一人一人に存在意義があり、すべての命が呼応し合って循環が生まれます。そしてこのことがコロナ禍によって可視化されたともいえる。日本は、一人一人の自粛という、個人の意識が連鎖してコロナ禍を収束させることに挑戦しました。この世界は私たち一人一人の意識の繋がり、集合体であることに気付くきっかけにもなったと思います。コロナ禍は瞬時に、世界を繋げました。地球全体を一挙に巻き込んだ。それが今までのウイルスとは異なる点です。ここで生まれた新しい意識、「丸ごと地球」という意識が、一般的になりつつあるというのは、大きな変化だと思っています。よく「俯瞰で見る」と言いますが、太陽系の中の地球というお母さんの船に乗せてもらっているのですから、人種差別をしている場合でも、どの国がと言っている場合でもなくて、地球人として、これから私たちがいかに命を大切に、育んでいけるかを、子供たちのまなざしの先を描いてゆきたいですね。

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.