障害のある俳優たちが、ブロードウェイの演劇やハリウッド映画、そして評判の高いテレビ番組にキャスティングされるケースが増えつつある。彼らは、アーティストであると同時にアクティビストとして活躍する新しい土台を創造してきた。エンターテインメント産業とその観客たちがもつ常識に異議申し立てをし、「インクルージョン」という言葉が、真に何を意味するのかを問い直すために

BY MARK HARRIS, PHOTOGRAPH BY PHILIP CHEUNG, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 モズガラは、障害のある俳優たちに、必要とあれば、その不安を十分に体現するようにすすめている。身体的な違いをもつ人々にとって、演じることは常に彼らの人生の一部でもあったと彼は言う。100年ほど前には――ある地域ではもっと最近まで――サーカスやカーニバルで働かなければ生計を立てられない人々がいた。また、医師や科学者の実験台になり、ほとんど人間扱いされない人々もいた。そんな状況は、『エレファント・マン』(1977年初演)という劇で再現され、観客たちは健常者の俳優が障害者のふりをして演じるのを、金を払って見物していた。今日、障害者たちは、ついに自分たちのことを自分たちの言葉で語るのだと主張し、要求するチャンスすらも手にした。「今じゃ、いつも世の中の変化についていくのが遅いブロードウェイは『素敵な肢体不自由者』と呼ばれるようになったよ」とモズガラは乾いたユーモアを込めて言う。「もし我々がターニングポイントにいるならば、それを徹底的に自分たちのものにするべきじゃないか?」

 アレクサンドリア・ウェイルズは、私たちの周囲の照明の光が薄暗くなったそのとき、ちょうど話の要点を伝えようとしていたところだった。私たちはある日の遅い午後、アッパー・ウェストサイドにあるレストランでコーヒーを飲んでいたが、店主が突然、店内を昼の雰囲気から夜の雰囲気に切り替えるときだと判断したのだ。44歳のウェイルズは幼児の頃から聴覚障害があり、私の真向かいに座って手話で話をした。私の隣には手話通訳者が座って、通訳をしていた。俳優でありダンサーでもあるウェイルズが、アメリカン・サイン・ランゲージ(アメリカ手話)を使って話すと、彼女の身体の動きやボディランゲージ、そして顔の表情との相乗効果で、より豊かな意味が伝わってくる。灯りが暗くなると、単に雰囲気が変わるだけでなく、話が伝わりにくくなってしまうのだ。彼女は話を中断した。通訳者は、なぜ彼女が中断したのかを説明する必要はなかった。ウェイルズが伝えようとしていたのは、障害のある演者を劇場空間に迎え入れるということは、キャスティングされた瞬間の自己高揚感でめでたく終わるような話ではないのだ、という点だった。

「私が一番問いたいのは」と彼女は言う。「実際に演技が行われる場所のデザインを含め、劇を構築する過程の意志決定に彼らは関われるのか、ということ。まず、段差のない床はあるのか? 照明は明るいか? そのほかにも、私たちの舞台上でのやりとりに影響する要素は本当にさまざまで、決定権をもてるかどうかが、総合的な結果を出すのにものすごく必要になってくる」

 ウェイルズはヌトザケ・シャンゲの作品『Four Colored Girls Who Have Considered Suicide/ When the Rainbow Is Enuf(死ぬことを考えた黒い女たちのために)』の再演が2019年にパブリック・シアターで行われたときに出演し、もともとは健常者の設定だった役を演じて歌を披露した。彼女はさらに振り付け師でもあり、演出家でもある。演出家で42歳のサム・ゴールドが『リア王』をグレンダ・ジャクソンの主演で2019年にブロードウェイで上演したとき、彼はウェイルズを作品の手話演出家として採用した。彼女は彼の下で、聴覚障害のあるふたりの俳優や、その他の役者たちとともに、全体をうまくまとめ、製作チームと、シェイクスピアの言葉の両方に、手話がぴったり合うように尽力した。「大変だったことのひとつは、みなが手話を習いたがっていて、手話をやらない設定の人には手話をしないように伝えることだった」と彼女は言う。「それは心温まる光景で、インスピレーションが湧いてくる感じがした」

 ゴールドは、彼の幼い娘たちのうちのひとりが車椅子に乗っていることもあり、自作の舞台製作に障害者の俳優をキャスティングしてきた先駆者でもある。「アメリカン・サイン・ランゲージは、シェイクスピア劇に込められたイメージを表現するのにとてもいい言語だと思う」と彼は言う。「そして、手話が表現するのは障害ではない。むしろ逆だ。つまり、このコミュニティには才能があふれているということと、劇場に活気をもたらす言語へのアクセスがあることを表現しているんだ。私は温情で彼らをキャスティングしているわけではない」

 ウェイルズにとって『リア王』は理想的なコラボレーションに近かったが、障害のある俳優の多くがそうであるように、彼女は、この舞台製作では、教師でもあり啓蒙家でもあり、その両方を無給でこなすことを余儀なくされていた。「私がいる場所では、できるだけ会話に参加して、何とか物事をよいほうに変えていくべく、自分にできる限りのことをしたい」と彼女は言う。「だけど、仲間と話すといつも話題になるのが、それが、どれだけしんどいかってこと」。のちに彼女は、そのことを電子メールで「周囲の理解がある環境で、私たちはただ創造することに集中したい。そんなときにも、周囲を教育するために神経を遣っている」と記している。

 42歳の女優のローレン・リドロフは、2年前に舞台『Children of a Lesser God(邦題:ちいさき神の、作りし子ら)』でトニー賞の主演女優賞にノミネートされ、その後テレビドラマ『ウォーキング・デッド』の出演者に加わった。彼女がよく直面する葛藤はこんな感じだ。いざ役を与えられたら「周囲のスタッフからは、単にいち俳優として必要なものだけ与えてもらえればよく、聴覚障害があるから特別なケアが必要だろうという気を遣ってほしくはない」と言う。だが、演技するのに必要なものが揃って初めて、「彼らが望んでいる質の高い演技をすることが可能になる」と彼女は言う。リドロフが初めてジョージア州にある『ウォーキング・デッド』のセットに到着したとき、そこには地元で雇われた手話通訳者がひとりしかおらず、この製作プロダクションの聴覚障害者がその通訳者の実力を吟味してから採用したわけでもなかった。現在では4人の手話通訳者がおり、さらにキャストにもうひとり聴覚障害のある俳優が加わったが。

※ 掲載商品の価格は、特に記載がないかぎり、「税込価格」で表示しています。ただし、2021年3月18日以前に公開した記事については「本体価格(税抜)」での表示となり、 掲載価格には消費税が含まれておりませんのでご注意ください。

 

This article is a sponsored article by
''.