シャネルが開催する特別な読書会、カンボン通りの「文学のランデブー」。ヴァージニア・ウルフをテーマに取り上げた回では、俳優のキーラ・ナイトレイをゲストに招き、女性の自立についてディスカッションが繰り広げられた

BY CHIHARU ITAGAKI

「本は私にとっていちばんの親友でした」と語ったと伝えられるガブリエル・シャネルは、生涯を通じて熱心な読書家だった。孤児院で過ごした幼少期から詩や物語を愛読し、ビジネスを成功させてからは才能ある若き作家たちのよきパトロンとなって交流を深めた。パリのカンボン通りにあるアパルトマンの書棚は、本の重みでたわんでいたという。彼女の生み出したクリエーションのインスピレーション源となったもののひとつが、文学であったことは間違いない。ロラン・バルトは1967年にこう述べている、「あなた方が今日、フランス文学史をひもとくとしたら、古典作家の中に新たな名前が加わっていることに気づくだろう。それはマドモアゼル・シャネルだ。シャネルは紙やインクを使って書くことはない(プライベートタイムは別として)。ファブリックとデザインと色彩で書くのだ」。まさに文学作品を著すように、ガブリエルは唯一無二のスタイルを作り上げた。

 このスピリットは、現在のシャネルにも息づいている。2019年に亡くなるまで35年間の長きにわたってメゾンを率いたカール・ラガーフェルドも、大変な愛書家として知られていた。また、現在のアーティスティック・ディレクターであるヴィルジニー・ヴィアールが指揮をとった最初のオートクチュール・コレクションのテーマが「本への情熱」であり、広大な書庫を模した会場でショーを開催したことは記憶に新しい。文学との親近性は、時代を超えてシャネルを貫くアイデンティティのひとつなのだ。

 この文学への情熱を継承する、新たなイベントがスタート。それが、カンボン通りの「文学のランデブー」と名づけられた特別な読書会だ。ヴィルジニーと、メゾンのアンバサダー兼スポークスパーソンであるシャルロット・カシラギが主催するこの集いは、メゾンと親交の深い俳優や著述家が、文学や作家について語り合うというもの。2021年のテーマは「解放」。特に、男性による庇護や、社会に押しつけられた女性観からの解放を軸に、ルー・ザロメやカミーユ・ロランスといった作家を取り上げてきた。

画像: (左から)評論家エリカ・ワグナー、シャネルのアンバサダーを務めるシャルロット・カシラギ、『灯台守の話』などで知られる作家ジャネット・ウィンターソン、俳優キーラ・ナイトレイ COURTESY OF CHANEL

(左から)評論家エリカ・ワグナー、シャネルのアンバサダーを務めるシャルロット・カシラギ、『灯台守の話』などで知られる作家ジャネット・ウィンターソン、俳優キーラ・ナイトレイ
COURTESY OF CHANEL

 舞台をパリからロンドンに移した第4回のテーマはヴァージニア・ウルフ。シャルロットに加えて作家のジャネット・ウィンターソン、評論家のエリカ・ワグナー、そして俳優のキーラ・ナイトレイの4人が、ウルフの著作やその生涯から、現代にも通じるメッセージを読み解いた。

 読書会は、キーラによる朗読からスタート。1931年にウルフが女性団体の集会で行なったスピーチの一部を読み上げた。その中でウルフは、書くという行為を女性の解放にまつわる闘いと結びつけて考察。当時の模範的な女性像を表す「家庭の天使」のイメージを批判的に問い直している。それを受けてシャルロットは、「『家庭の天使』は、女性が自由を獲得するために倒さねばならないあらゆるもののシンボル。ウルフは当時のしきたりに反抗し、女性の執筆活動や創作活動のために生涯をかけて闘いました。そしてこの闘いは、今も多くの女性にとって続いています」と語った。キーラは、「私にとってこの『家庭の天使』のイメージは、母親としての自分を批判するものです。ウルフは直接的に母性について語っているわけではないけれど、ここには完璧な母親になるよう迫る社会の重圧が表現されていると思う」と語った。

画像: キーラ・ナイトレイ COURTESY OF CHANEL

キーラ・ナイトレイ
COURTESY OF CHANEL

 パンデミックを経て、改めて見直されている読書の喜び。シャネルの「文学のランデブー」は、本を通して先人の思想に触れ、異なる境遇に生きる人々に共感を抱く、そんな知的な興奮に満ちた試みだ。イベントの様子を捉えた写真やムービーは、シャネル公式サイトにて公開中。
>>公式サイト
>>イベントムービー

ヴァージニア ウルフ(1882-1941)/20世紀において小説の歴史に革命をもたらしたイギリスの作家。小説『灯台へ』と『波』は、革新的で現代的な執筆スタイルを文学界にもたらした。知識人のサークルであるブルームズベリー グループの中心的人物であったウルフの妥協のない、前衛的な批判精神は、現在のフェミニズム思想に大きな影響を与えた。

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