BY ASAKO KANNO
それはコロナ禍がはじまって二度目の夏のこと。
世の中は、蔓延防止重点措置で、切ないほどに自粛ムードまっさかり。旅どころか外食すらままならない閉塞感のなか、気分転換に近所でも開拓してみるかと、ふらり足を踏み入れたのは、今まで訪れる機会もなかった区民センターでした。
掲示版にふと目をやると、あらゆるお習い事の会員募集の貼り紙が。油絵に英会話、着付けに生け花、マンドリン演奏の同好会まで。なんだかとっても楽しそう。その時、ふと目に飛び込んできたのが、「煎茶道」という聞いたことのない単語でした。

10月、京都の萬福寺で開催された「月見の茶会」。私が弟子入りさせていただいた、煎茶道美風流の茶席です。テーマは、「香り 灯り 音」。幻想的な空間で五感を研ぎ澄まされながらいただくお茶は、脳内トリップできるかのような非日常の世界。この時のお茶会については、また追って、綴らせていただきますね。
煎茶道???
そのときは「茶道」に抹茶道(茶の湯)と煎茶道というカテゴリーがあるということを全く知らず、初めての単語に狐につままれたような気持ちに。その貼り紙を読み進めていくと、続くフレーズに、ものすごくときめいてしまったのです。
「中国明代の文人たちは
香り高い煎茶を味わいつつ
友と詩や絵を語り、美術を賞し
時には書画をかくという
風雅を楽しみました。」
煎茶道に加え、今度は“文人趣味” という新たなワードまで加わり、未知の世界はさらに広がりを見せるものの、コロナで世界が一変してしまった今、「友とお茶を飲みながら、詩や絵を語る」って、最高に豊かで、贅沢。まぶしい世界でしかありません。
気になる、気になる、すごく気になる、と小走りで帰路につき、パソコン前に腰をすえて、“煎茶道” “文人趣味”のgoogle検索の始まりです。

煎茶道のお茶碗と茶托は小さくて、おままごとのように可愛い。自然界の恵みを抽出したお茶の、まろやかな旨味が口に広がります。お茶菓子は、お家元のお嬢様手作りのすり琥珀。ほんのり甘く、いくらでも食べられてしまう美味しさ
検索の結果、わかったことは、大まかに4つ。
1 茶の湯は抹茶を点てて飲むのに対し、煎茶道は急須を用いて、様々な茶葉を使用。煎茶や玉露だけでなく、紅茶やほうじ茶、ときにはお酒なども振舞われることもある。
2 煎茶道の起源は、中国明代に“文人”と呼ばれる知識人たちが形成した、煎茶趣味。その新しい喫茶文化が、江戸時代初期、中国の僧侶により日本にもたらされた。
3 当時の日本は、お茶といえば、茶の湯の世界。戦国武将と茶の湯の関わりに見てとれるように、茶の湯は政治と密着し、高価な茶道具は権力を表す手段ともなっていた。ともすれば形式主義ともいわれるあり方に、異議を唱えた日本の知識人や文化人たちが、形式を目的としない煎茶文化を発展させていく。
4 煎茶道の茶は“清風の茶”。お茶を飲み進めるうちに、心が無になり清らかな風が吹くのを感じる。そんな〝無為自然“―宇宙のありかたにしたがって、自然のままであることーという老荘思想を、お茶をたしなむ上での理想としている。
茶の湯と、煎茶道。いろいろ様式の違いがあるようですが、残念ながら茶の湯に関しても知識ゼロなので、その違いも勝手に妄想するにとどまるレベル。ただ、「無為自然」という言葉や、煎茶道の自由な精神性にとても惹かれ、煎茶道を学びたい!と、すっかり前のめりになっていったのでした。
次回は、どちらの煎茶道の流派で学ばせていただくのか。そんな、大きなミッションに向けてのお話です。

滋賀県の書道美術館「観峰館」で開催された、文人茶席「画集の宴」での風景。水墨画家としても活動する、煎茶美風流家元の作品が展示された館内では茶席も用意され、書画を愛でながらお茶を味わえる、至福のサロンのような空間でした。次回は11月20日(日)に開催予定。
文人茶席「画集の宴」
会場:観峰館
住所:滋賀県東近江市五個荘竜田町136
会期:2022年11月20日(日)
公式サイトはこちら
菅野麻子 ファッション・ディレクター
20代のほとんどをイタリアとイギリスで過ごす。帰国後、数誌のファッション誌でディレクターを務めたのち、独立し、現在はモード誌、カタログなどで活躍。「イタリアを第2の故郷のように思っていましたが、その後インドに夢中になり、南インドに家を借りるまでに。インドも第3の故郷となりました。今は奈良への通い路が大変楽しく、第4の故郷となりそうです」