TEXT BY CHIKAYO TASHIRO
壮絶ないじめへの恨みは果てしなく
『ザ・グローリー~輝かしき復讐~』
恨みがすごければすごいほど、時間をかけて周到に、そして相手がいちばん輝いている瞬間を狙って突き落とすのが韓国的だなあと思わせられる復讐ドラマの一本です。
高校時代、5人組から陰湿に壮絶ないじめを受けたヒロイン。教師さえ保身に走り、実の親さえもお金に目がくらみ、守ってくれずに退学させられてしまうのですが、いじめの張本人が、あろうことか、将来は良妻賢母になると夢を語ったのを聞いた時、ヒロインの復讐心に火が付きます。
それからのヒロインは、バイトの傍ら必死に勉強して大学に合格して、心に傷を持つ病院の跡取り息子や、家庭内暴力にあっている家政婦を良き協力者にして、じわりじわりと復讐を実行に移していくんですね。ここまでに実に18年かけているんです!すごい長期戦です。しかも、直接本人に行かずに、周りから攻めていくんですね。お金持ちの良き夫、可愛い娘、そしてお天気キャスターという人気の仕事に就いて華やかに暮らしている、かつてのいじめの張本人。
まずは“彼女”の夫に近づくために、彼が趣味としている囲碁を長年にわたって学び、また“彼女”の娘に近づくために小学校の先生になって、権力者を脅迫して娘の担任になるという計画ぶり。ただ、ヒロインなりのルールがあって、長い時間かけても手を血に染めたりはしないんです。じわじわと追いつめ、“彼女”の周りに誰もいないようにするというのがヒロインの復讐なんですね。こんなに長期で目標達成に取り組めるなんて、もはや何をやっても成功できそうなものです。韓国ドラマでは、よく愛が執着に変わる様子が描かれますが、これはまさに復讐するという執着心がただごとではないということをまざまざと見せつけられたドラマでした。
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この世で一番憎い女の息子のはずなのに…
『愛だと言って』
こちらは、復讐するつもりで近づいたのに、憎み切れずに愛してしまう……、というパターンのドラマです。浮気をして自分たち家族を捨てた父親への恨みを抱えて成長したヒロイン。その父親が亡くなった時、父親の不倫相手に住んでいた家も奪われてしまい、恨み骨髄に。その不倫相手の息子を探し出して復讐してやろうと、彼が代表を務める会社にアルバイトとして入り込むのですが、知れば知るほど、この息子である男性が、孤独で無防備で寂しそうな後ろ姿をしている人で、つい守ってあげたくなってしまうんです。
言いたいことを口に出さず、いつも歯がゆいばかりにグッと我慢している青年。そんな彼を見ていくうちに、ヒロインは、体を張ってまで彼のことを守ってしまうようになるんですね。でもヒロインは知っているわけです、彼はこの世で一番憎い女の息子なのだと。だからこそ、このヒロインの葛藤が切なくて、胸が締め付けられるところです。
このドラマの最大の魅力は男性主人公を演じるキム・ヨングァンですね。体全体から疲れた感じを醸し出していて、若いのに枯れた感じがセクシー。会社の代表なのに、腰が低くて誠実すぎて、劇中でも「いまどき珍しいくらい丁寧な人」と言われてしまう寂しそうに笑う男性。ヒロインならずとも、守って幸せにしてあげたくなる男性像でした。
とても繊細な感情描写と情緒が感じられる作品で、財閥が出てくるドラマが花盛りの中にあって、そっと胸にしみいるラブストーリーです。
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罪と罰を前にして苦悩する人間の深淵
『魔王』
『魔王』は、過去の事件から12年後、当時の関係者が次々と巻き込まれていく連続殺人事件を巡るミステリーです。
このドラマ、個人的に復讐ジャンルで一番好きですし、大傑作だと思っています。復讐される方が悪という分かりやすい善悪の構図ではなく、両者ともが被害者で加害者という感じに同等に描いているのが深いのです。
復讐される側なのが、なんと正義感に燃える熱血刑事です。この刑事は、実は12年前に殺人を犯し、親の権力で罪を免れていたという過去がありました。その罪を悔いて生きてきましたが、過去の事件を彷彿させる事件が次々と起こっていき、捜査に当たることになります。そして復讐する側に立つのが、普段は人権弁護士として働いているものの、その実、十年以上も前から緻密に復讐の計画を立ててきたという恐ろしくも悲しい男です。
そんなふたりの男性の中に入ってくるのが、サイコメトリーという超能力を持った女性。彼女が事件に深くかかわり、生き地獄のような苦しみの中にいる男性2人にとって、救いのような存在になっていきます。
始めは謎解きの面白さで見せていくのですが、そのうちに、罪と罰を前にして苦悩する人間の深淵な心理を描き出していき、復讐する側、される側、対立していた2人が次第に合わせ鏡のようになっていき、結論の出ない答え、誰にも下せない裁き、その、どうにもならない痛ましさに胸が締めつけられて、終盤は涙が止まりませんでした。
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