2023年はロシアの文豪、トルストイの長編小説を原作にした舞台『アンナ・カレーニナ』で、現代にも通じる女性像を圧巻の演技で体現し、魅了した宮沢りえ。そんな彼女が出演する期待の次作は、ケラリーノ・サンドロヴィッチが新作として書き下ろし、演出をするKERA CROSS第五弾『骨と軽蔑』だ。舞台作品と向き合う時間は、今や大女優として活躍している彼女にとってどんな意味を持つのだろうか

BY SHION YAMASHITA, PHOTOGRAPHS BY TAMEKI OSHIRO

画像1: 宮沢りえが切り拓く世界——
7人の会話劇で挑む
新たな自分を見出す表現とは?

芝居で味わう境地

 宮沢りえがケラリーノ・サンドロヴィッチの演出作品に出演するのは、今回が4度目になる。これまではチェーホフ原作の『三姉妹』『ワーニャ伯父さん』『桜の園』の3作で、いずれもKERAが上演台本を手がけていた。残念ながら『桜の園』は稽古が行われていたものの、コロナ禍の影響で上演は中止となってしまった。そして今回はKERAの過去戯曲に才気溢れる演出家たちが新しい息吹を吹き込む連続上演シリーズ「KERA CROSS」のラスト作品。それが、なんとKERA自身が新作として書き下ろすことで話題の『骨と軽蔑』で、宮沢をはじめとした実力のある7人の女優がキャスティングされている。宮沢自身はどんな思いが決め手となって、この作品に臨むのだろうか。

「“KERAさんとまた仕事がしたい”。それが一番です。私は自分が出演していないときも、KERAさんが演出される舞台は拝見していて、これまでに稽古場は3回経験しています。KERAさんの作品には“人間が持っている闇の部分をむき出しにする”というテーマが多いと思いますが、私自身が過去に演じ、経験した役も自分をさらけ出すとか、吐き出すという芝居が多いんです。それは精神的にも体力的にもエネルギーがいるのですが、そういう“いろんな感情がたぎる感覚”に自分の身を置きたいという気持ちで演らせていただくことになりました」

画像2: 宮沢りえが切り拓く世界——
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新たな自分を見出す表現とは?

舞台作りの醍醐味

 宮沢の言葉からは、KERAの稽古場や作品を通して体験した記憶が生々しく残っていることが伝わってくる。数多くの現場を経験してきた宮沢にとって、それほど共に作品づくりをしたいという思いに駆られたのは、どういう理由だったのだろうか。

「KERAさんの稽古場は、共演者の方々が作品づくりへの魂のある役者さんばかりなので、チームワークとしてもすごくいいんです。稽古していて、いろんな人が自分のアイディアや意見を言ったり、“こうしたほうが面白いかもしれない”とアドバイスを口にしたりするんですが、KERAさんはそういうものをすべて受け止めてくれるので、皆さんも自分の考えを出しやすいと思います。そのアイディアをKERAさんが最終的にジャッジして演出してくれるので、役者同士のコミュニケーションもすごく楽しいんです。皆で意思疎通をしながら、挑戦していく時間は、舞台だからこそできること。さらに共演者の方たちが素敵だと、私自身も気持ちが盛り上がります」

 演出家として現場をまとめ上げることへの信頼が厚いが、その知識やセンスにも期待があった。

「KERAさんが選ぶビジュアルや音楽が私はすごく好きです。『桜の園』の稽古の時は、劇中で使う音楽をいろいろと試されていて、そのとき流れていたロシアのバンドの音楽を聴いて“すごく良いですね”といったら、すぐにそのバンドのアルバムを紹介してくださって、自分でもそれを聴くようになりました。とても教養のある方なんです。衣裳は、役者たちが仮面のように纏って、心だけをむき出しにしていくような感覚があって、そのバランスが心地よいです。他にも『ケムリ研究室』のシリーズは観客として拝見していますが、国も、時代も違うけれど、からっとしていない灰色がかった世界観の中で人の心がカラフルにうごめく感覚があって、それが心に響きます」

画像3: 宮沢りえが切り拓く世界——
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自分の新たな面を見いだす

 直近の舞台作品でいえば、『アンナ・カレーニナ』での宮沢が作品を通してアンナであり続けたときの表情や声は記憶に新しい。そこで舞台に立つとき、そしてカメラの前に立つとき、自分ではない誰かを演じているときの心境についても語ってくれた。

「私は、演じるというよりは、ある作品のある役を自分というものを通して生きることには、映像も舞台も変わりがありません。ロシア人になれますし、どんな時代にも飛んでいけるという自由があります。もちろんプレッシャーはありますが、それ以上に作品を通して時代も国境も越えて生きることができるのは、希有な仕事だと思います。私にとって演じるということは、別の人間を演じるのではなく、私の中にある別の面だと思うようになってから、芝居をしている時間もとてもリアルになりました。その役を演じることで自分を表現している感覚なんです。『分人のすすめ』という本を読んで腑に落ちたことなんですが、今は気持ちが熟成して、その感覚を面白がれるようになってきました。今までに見たことのない自分に出会いたいという気持ちが欲としてありますし、特に今回のKERAさんのお芝居は、強烈な個性を持った人たちの中で自分という“個”をどう生かせるのかを考えるのが、すごく刺激的です。素敵な女優さんたちがそれぞれ持ってくるアイディアを皆でミックスして形にしていくのが楽しみですね。劇場入り直前に台本ができあがるという“KERAスタイル”は、私にとって初体験なので、その怖さは正直言ってありますが、腕と心のある役者さんたちが揃っているのは心強いです」

言葉が人生を潤す

 今回の『骨と軽蔑』の世界観を物語るビジュアルには、「居並ぶ墓石の絵を前にして楽しそうに笑う女たち」というイメージが表現されている。KERAの言葉によれば「辛辣なコメディの会話劇」が描かれるという。宮沢はどんなイメージを抱いているのだろう。

「安易に想像することはしていませんが、女性同士の生々しいやりとりが繰り広げられるのではないでしょうか。骨になるということは、死を意味していますし、滅びたものということでもあるかもしれません。今生きている私たちと、かつて生きていた人たちの関わりのようなものが出てくるのか、今はまだ、漠然とした状態です。でも新たな自分を見たいために出演する作品を選んでいるので、今回も、“これまでに何回も演じたことのあるような役”ではないと思います」

 言葉との出会いを大切にしている彼女にとって、どのようにして“自分の糧となる言葉”と出会っているのか、聞いてみた。

「最近は出演したドラマは台詞が多かったので、本を読む余裕があまりなかったのですが、映画監督の是枝裕和さんが樹木希林さんにインタビューをした『希林さんと一緒に。』を読ませていただいて、樹木さんという人の美しさ、生きることの美しさを言葉の端々に感じることができました。私は紙媒体が好きなので台本もすべて紙で読んでいます。本当はいろんな人に会って、いろんな人の話を聞いて、その人の価値観や生き方を知って、自分の価値観に色を添えていくみたいなことをしていきたいんですが、家のことや自分の仕事でなかなか叶いません。だからこそ本を読むことで、自分の今の時間や今いる場所ではないところにいる感覚を味わえたり、人の言葉を聞いてなるほどと思えたりします。デジタルから離れる“デジタルデトックス”も心がけています」

 どんなときも、自分であり続ける。『骨と軽蔑』でもまた、今までにない「宮沢りえ」が舞台で待っているはずだ。

画像: 宮沢りえ(MIYAZAWA RIE) 東京都生まれ。11歳でモデルデビューし、88年公開の初主演映画『ぼくらの7日間戦争』で日本アカデミー賞新人賞を受賞。以後、テレビ、映画、舞台など、多方面で活躍。5度にわたる日本アカデミー賞最優秀主演女優賞の受賞や読売演劇大賞・最優秀主演女優賞など、数多くの映画、演劇の賞を受賞。近年の出演作には舞台『アンナ・カレーニナ』『泥人魚』、映画『月』、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』などがある

宮沢りえ(MIYAZAWA RIE)
東京都生まれ。11歳でモデルデビューし、88年公開の初主演映画『ぼくらの7日間戦争』で日本アカデミー賞新人賞を受賞。以後、テレビ、映画、舞台など、多方面で活躍。5度にわたる日本アカデミー賞最優秀主演女優賞の受賞や読売演劇大賞・最優秀主演女優賞など、数多くの映画、演劇の賞を受賞。近年の出演作には舞台『アンナ・カレーニナ』『泥人魚』、映画『月』、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』などがある

画像: KERA CROSS第五弾『骨と軽蔑』 作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 出演:宮沢りえ、鈴木杏、犬山イヌコ、堀内敬子、水川あさみ、峯村リエ、小池栄子 ・東京公演 会場:日比谷・シアタークリエ 上演日程:2024年2月23日〜3月23日 問合せ:東宝テレザーブ TEL. 03-3201-7777 ・福岡公演 会場:博多座 上演日程:2024年3月27日〜31日 問合せ:博多座電話予約センター TEL. 092-263-5555 ・大阪公演 会場:サンケイホールブリーゼ 上演日程:2024年4月4日〜7日 問合せ:ブリーゼチケットセンター TEL. 06-6341-8888 公式サイトはこちら

KERA CROSS第五弾『骨と軽蔑』

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:宮沢りえ、鈴木杏、犬山イヌコ、堀内敬子、水川あさみ、峯村リエ、小池栄子

・東京公演
会場:日比谷・シアタークリエ
上演日程:2024年2月23日〜3月23日
問合せ:東宝テレザーブ TEL. 03-3201-7777
・福岡公演
会場:博多座
上演日程:2024年3月27日〜31日
問合せ:博多座電話予約センター TEL. 092-263-5555
・大阪公演
会場:サンケイホールブリーゼ
上演日程:2024年4月4日〜7日
問合せ:ブリーゼチケットセンター TEL. 06-6341-8888

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