BY JUNKO HORIE, PHOTOGRAPHS BY KAZUYA TOMITA
──佐々木さんが今回『破門フェデリコ』で演じるフェデリコ二世という実在の皇帝を、どのように捉えていますか?
佐々木蔵之介(以下、佐々木) 僕はこれまで王様、殿様、皇帝の役を結構やっているほうだと思うんです。リチャード三世もマクベスもやりましたし。だいたいはどの王も、玉座を取ってしまえばあとは落ちていくだけといいますか。でも、フェデリコに関しては、すでに土地も権力も金もある。名誉や財、領土が欲しくて、玉座を目指した人ではない。このままではよくない、平和を掴み取ろう!と世界を、時代を変えようとした人であり、リーダーなんです。
──なのにこれまでもあまり、映画、演劇の主軸になってこなかったのがフェデリコ。
佐々木 今回、脚本を書いていただいている阿部さんから、“狂おしいほどに平和を求めた皇帝の話がある。その歴史を見に行きませんか?”という取材のお誘いがありまして。舞台『君子無朋~中国史上最も孤独な「暴君」雍正帝~』で雍正帝を演じたのが面白かったので、そういう意味でも興味があってイタリアへ行きました。フェデリコは8カ国語を操り、大学を作って、医学と薬学を分けたり。芸術もすごく理解し、八角形のお城も作った。本当にいろいろなことをやった人なのだとわかりました。雍正帝もあまり表には出ていなかったけど、実はこんなすごい人がいた……フェデリコもそういう人だろうと。シリーズじゃないですけど(笑)、“こんなリーダーがいた!”っていう題材はいいね、という流れになり、規格外の皇帝を演じてみたいと思いました。
──実はイタリアでは認知されていて、それなりに人気もあるとか。
佐々木 そうなんですよ。例えるなら、イタリア人からするとフェデリコは日本でいう坂本龍馬みたいな人だそうです。イタリアでは何度かドラマにもなっているらしく、1ユーロセントのコインの裏側には彼が作った八角形の城、カステル・デル・モンテが描かれているほど。そんな面白い人ならぜひ作品にしてみようか、って。
──映像でもご活躍で、観る側からしたら、NHK大河ドラマ『光る君へ』で平安貴族を演じたあとに、ローマ皇帝へ。その違いは演じる者の楽しさですか? 苦労ですか?
佐々木 自分の中では、演じているときと演じていないときの差ぐらいで、作品の時代背景に苦労させられることはあまりないです。ただ原作があれば原作を読むし、時代劇であればその時代のこと学んで、そこからヒントを得ています。でも最終的には演じるのは人間であり、大事なのはその人間関係。古い歴史の話であれば、それを今の人に対してどう表現すればいいのか、ですね。時代劇なら時代劇の台詞まわしにはなりますけど、ふと現代っぽいニュアンス……というか間合いとか。ガチガチの時代劇にはせず、ちょっと生っぽい声が入ることによって、お客さんがグッと見やすくなったりもしますので。
──時代背景の妙もありつつ、面白いのはいつの時代も“人”。
佐々木 お客さんは見ているうちにその時代に入りこんで、舞台上で笑ったり、泣いたりする役者に共感したり、それが演劇の想像力として面白いところだったりするので。その面白さはお客さんと一緒に作っている、そう思っています。
──観客と作る『破門フェデリコ』には、どんな期待がありますか?
佐々木 デカい世界観の作品を、PARCO劇場でやるとどうなるか(笑)。 “ローマはここで~”みたいな説明台詞を体を使って表現してますし。笑ってもらって、この時代を想像してもらえたらいいなと。だから、観客のみなさんは、その時代やフェデリコのことを勉強してこなくて大丈夫ですよ。ただただエンタメとして楽しんでいただけたら。
──~くたばれ!!十字軍~という副題に、すでにエンタメ感がありますね。
佐々木 作家の阿部修英さんが、『がんばれ!ベアーズ』が好きって言っていて、僕も好きなんですけど(笑)。“くたばれ!十字軍”はそんな感じです(笑)。難しくないですよ、楽しんでください、って柔らかな意味も込めて。
──仕事を離れて、“今、これが好きだ”というモノ、コトはありますか?
佐々木 最近は、海外に旅行に行けるようになりましたね。どこでもいいんですけれど、僕は旅行が好きです。どれくらい休みをいただけるかによって、行先は決めますね。一週間もあればアメリカ、ヨーロッパにも行けますし、数日だったら近辺……アジアあたり。そこで一旦、リセット、リフレッシュできたらいいなと思いますね。
──特にリゾートがいいとか、文化的な土地がいいとかありますか?
佐々木 リゾートは半日で飽きてしまうタイプです(笑)。そういえばフェデリコが生まれた、イタリアのシチリアにも行きましたよ。ローマやフィレンツェにも行きましたけど、シチリアは面白かったなぁ。フェデリコのお母さんがシチリアの方で、お父さんはドイツ。フェデリコは、ドイツとイタリアを受け継ぐ皇帝だったんです。
──シチリアは映画のロケ地としても美しく、文化的にも興味深いところですね。
佐々木 そうなんです。中世、いちばん栄えていた港町だけに経済的に豊かな島で。だからフェデリコの家は大金持ちだったんです。シチリアにはアラブの文化も入ってきていて、当時は野蛮な文化と蔑まれがちだったのですが、フェデリコは医学的にも優れたアラブの特性を見抜くんです。
──次、まとまった休暇のときには、どこへ旅に向かいましょうか。
佐々木 極端な環境でなければどこでもいい(笑)。寒すぎるとか、暑すぎるとか……そういうところは避けて、ちょっとゆっくりと身体を休めることができる場所へ。
──たとえば、どこの国に?
佐々木 今年、ある仕事でノルウェーの北極圏のほうに行ってきて、今後、ヨーロッパ方面にまた行く予定もあるので、ちょっと違う方面がいいかな。南アフリカとか。アフリカの中でも、ヨーロッパの風情も感じるモロッコには行ったことがあります。それでも充分なアフリカのテイストが感じられたので、また違ったアフリカにも興味がありますね。
STYLED BY NORIHITO KATSUMI AT KOA HOLE INC., HAIR & MAKEUP BY SHINICHIRO
PARCO PRODUCE 2024『破門フェデリコ ~くたばれ! 十字軍~』
作:阿部修英
演出:東憲司
出演:佐々木蔵之介 上田竜也 那須凜 栗原英雄 田中穂先 石原由宇
磯部莉菜子 加賀谷奏音 熊野義貴 増山海里 山崎類 渡辺はるか
六角精児
東京公演:8月6日~9月1日 PARCO劇場
愛知公演:9月7日、8日 Niterra 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
大阪公演:9月11日~16日 森ノ宮ピロティホール
福岡公演:9月21日、22日 久留米シティプラザ ザ・グランドホール