BY REIKO KUBO
アカデミー賞受賞の大ヒット映画
【1】鬼才ヨルゴス・ランティモスと実力派エマ・ストーンのタッグが切り拓くエポックメイキングな女性像──『哀れなるものたち』
(2024年2月公開記事)

スクリーン上で圧倒的な存在感を放つエマ・ストーン。アカデミー賞の主演女優賞にもノミネートされている
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
今年のゴールデン・グローブ賞で作品賞とエマ・ストーンの主演女優賞、二冠を獲得し、アカデミー賞でも4部門受賞を果たした『哀れなるものたち』。昨年のヴェネチア国際映画祭でも金獅子賞を受賞した本作は、『ロブスター』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』等の作品で、国際映画祭に出品のたびに大賞受賞などで話題をさらってきたギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモスの最新作だ。エマ・ストーンとは『女王陛下のお気に入り』に続く2度目のコンビ作品となる。
舞台はビクトリア朝時代のロンドン。エマ・ストーンが演じるヒロイン、ベラは、投身自殺によって脳死状態になるが、天才外科医バクスター(演じるのは名優ウィレム・デフォー)によって腹に宿した胎児の脳を移植されて蘇る。容姿だけ見ると美しい若い娘だが、頭の中はまだ赤ん坊。映画の原作はアラスター・グレイの同名小説であり、その物語のベースになっているのは、フェミニズムの先駆者メアリー・ウルストンクラフトの娘メアリー・シェリーが書いたゴシック小説「フランケンシュタイン」だ。シェリーの小説では博士が自ら生み出した“怪物”を醜さゆえに捨て去るのに対し、バクスターは、動きがギクシャクした無垢なベラを父親のように見守るが、貴重な研究材料でもあるため、弟子と結婚させて手元に置こうとする。ところが弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)に誘惑されたベラは「世界を自分の目で見てみたい」と“父”を説き伏せてダンカンとともに船出する。

ストーリー展開もさることながら、きらびやかな衣装や造形などにも目を奪われる
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リスボン、アレキサンドリア、パリをめぐる旅の風景は過激にデフォルメされ、絢爛豪華そのもの。その中で、ベラは本能と好奇心の赴くままに突き進んで世界を発見し、“生きる”意味を獲得してゆく。彼女を我が物にしたがる男たちの手をすり抜け、自由な精神とともに自立してゆくベラの冒険譚は、画期的な現代のカリカチュアだ。そしてベラが実践によって性の快楽を知る過程を果敢に演じるエマ・ストーンの心意気にも瞠目させられる。首もとが詰まったゴージャスな衣装、ノーメイクに黒々とした太い眉とストレートのロングヘア。その姿は、大事故から九死に一生を得て生き延び、マチスモの国メキシコでバイセクシャルに生き、自身のアイデンティティを追求したフリーダ・カーロに寄せられているのも納得だ。
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youtu.be【2】アジア人初、アカデミー賞 最優秀主演女優賞のミシェル・ヨーが魅せる!『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
(2023 年3月公開記事)

奇想天外なストーリーの主人公を見事に演じてみせるのは、香港やハリウッド映画で長年活躍してきた中国系マレーシア人のミシェル・ヨー。今作で見事オスカーを獲得した
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今年の主だった映画賞の前哨戦を制覇し、アカデミー賞では作品賞、監督賞など最多7部門で受賞を果たした『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』。アジア人初の最優秀主演女優賞を獲得したミシェル・ヨー演じる主人公は、家業のコインランドリーの税金問題に加え、父親の介護、反抗期の娘との関係悪化など、頭の痛い事案がてんこ盛りのエヴリン。夫のウェイモンド(『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』のキー・ホイ・クァン)も優しいけれど、頼りにならないし、私の人生、どこで間違ちゃったのぉお〜!と頭を抱えていたエヴリンが、突然、全宇宙にカオスをもたらす悪の権化と戦うことに。しかも今生きている世界とは別のバース(宇宙)へ瞬間移動して、クンフーをマスターしたり、凄腕シェフになったり、『花様年華』を思わせる映画スターになったりしながら、怒涛の闘いを繰り広げてゆく。

時空を超えた世界を行き来する、カオス満載の世界観が話題
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前作が『スイス・アーミー・マン』という奇想コメディを得意とするダニエルズ(1988年生まれのダニエル・クワンと87年生まれのダニエル・シャイナートによるコンビ)が監督だけに、本作でもナンセンスなギャグが炸裂し、うっかりすると乗り遅れる瞬間もなくはない。しかし今や人気のマルチバース設定や、『クレイジー・リッチ』『パラサイト』『ミナリ』と続くアジア旋風、そしてサン・ラックスやデヴィッド・バーンによるご機嫌なサントラを駆使した話題作は、女性やセクシャリティの問題も描きこんで、斬新かつ壮大な心の旅物語としてフィニッシュする。
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youtu.be【3】"原爆の父"が味わう栄光と、その後に背負う罪の重さ──『オッペンハイマー』
(2024 年3月公開記事)

ノーラン監督作の常連キリアン・マーフィーが、開発に取り憑かれた物理学者オッペンハイマーを演じきる。またロバート・ダウニー・Jr.、マット・デイモンなど、主演級の俳優勢が群像劇を彩る
© Universal Pictures. All Rights Reserved.
クリストファー・ノーラン監督による映画『オッペンハイマー』は、昨夏、欧米をはじめ各国で公開され、1300億円を超える興行収入で世界的大ヒットを記録。3月11日に開催の第96回アカデミー賞では最多13部門でノミネートされ、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞など合計7部門で受賞を果たした。"#Barbenheimer(バーベンハイマー)" 騒動後、公開が先送りされ続けた日本でも、ついにその全貌が明らかにされるときがきた。第二次世界大戦中、アメリカ軍から、ナチスより先んじて原子爆弾の開発を託されたドイツ系ユダヤ人の天才物理学者が味わう栄光と悲劇。

実験成功時には喝采を浴び一時の達成感を味わうが、それが兵器として日本に投下され壮絶な被害を及ぼしたことを知ると……
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主演キリアン・マーフィーが"原爆の父"であり、開発に取り憑かれ、悪魔の兵器というパンドラの箱を開けてしまった男の葛藤を演じ切る。ルドウィグ・ゴランソンの見事なサントラを効かせながら、脂の乗り切った鬼才ノーランが観客の緊張の糸を操り続ける3時間。天界の火を盗んで人類に与え、ゼウスの怒りに触れて磔になったギリシア神話のプロメテウスのごとく、人類の未来を変えてしまったことから重い十字架を背負ったオッペンハイマー。核戦争の恐怖と隣り合わせで生きる我々は、核兵器もまた恐怖から生まれた産物であると本作を通して気づくだろう。
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youtu.be女性の生き方を問い、勇気づける
【1】#MeToo運動の発端となった、女性記者による告発を丹念に描く『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』
(2023年1月公開記事)

主演の女性記者2人を、アカデミー賞に2度ノミネートされたキャリー・マリガン(左)と、祖父は高名な映画監督エリア・カザン、両親ともに脚本家という演劇一家で育ったゾーイ・カザン(右)の実力派が熱演
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名作『鳥』のファッショナブルなヒロイン、ティッピ・ヘドレンへのハラスメントで知られるのは、かの巨匠アルフレッド・ヒッチコック。ハリウッドでも、そして最近になって声が上がり始めた日本映画界でも、権力の威を借る者たちのパワハラ、セクハラは長きにわたって繰り返されてきた。本作は、#MeToo運動の発端となった、ニューヨーク・タイムズ紙によるハリウッドの名物プロデューサー、ハーベイ・ワインスタインの告発を追った実話映画だ。このスクープによりピューリッツァー賞を受賞した記者ミーガン・トゥーイー役には、『未来を花束にして』や『プロミシング・ヤング・ウーマン』など、女性の生き方やジェンダーのあり方を主題にした作品での好演も光る英国女優キャリー・マリガン。ミーガンとコンビを組むジョディ・カンター役には、脚本家としても活躍するゾーイ・カザン。また、実名報道に応じた有名女優アシュレイ・ジャドが本人役で登場する。

制作スタッフに女性メンバーが名をつらね、記者2人が仕事と子育ての両立に奮闘する姿や、過去に被害を受けた女性たちの長年の葛藤とその生き方も細やかに描く
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長い年月、トラウマに苛まれ、それでも新たな被害者を出さないために、身を切る思いで声を上げる被害女性たちの葛藤。根気強く、かつ繊細に調査を重ね、悪の告発に精魂を尽くすジャーナリストらの信念。同時に、産後うつや子育てに悩み、心身の疲労や不安と闘う女性記者の揺らぎ。それらを丹念に掬い取ることでスリルと感動を紡いだ制作陣スタッフには、『アイアム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』で話題を呼んだ監督マリア・シュラーダーをはじめ、プロデューサー、脚本、撮影など、気鋭の女性メンバーが結集した。
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youtu.be【2】ポップなビジュアル世界を楽しませながら、女性のあり方を社会に問う意欲作『バービー』
(2023年8月公開記事)

バービーを演じるマーゴット・ロビー(右)は本作のプロデューサーも務める。恋人のケンを演じるのは『ラ・ラ・ランド』でゴールデングローブ賞 主演男優賞を受賞したライアン・ゴズリング
©2023 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
1959年に発売開始されたマテル社のバービー人形を実写化した映画『バービー』は、世界中で興行収入10億ドルを突破し大ヒット中だが、日本公開を前に巻き起こった物議はいまだ収束する様子がない。原爆の発明者を描いたクリストファー・ノーラン監督作『OPPENHEIMER(原題)』(配給:Universal Pictures)と『バービー』の画像をコラージュした海外のファンアートがSNS上に溢れ、2つのタイトルを掛け合わせた「バーベンハイマー」という造語まで生まれた。そんな騒ぎの中、『バービー』のアメリカの公式X(Twitter)が肯定的なコメントをリプライしたために、批判が巻き起こったのだ。しかし本作品自体は、現代社会が抱えるさまざまな問題を提起する意欲作だ。そして映画は世界を写す窓であるから、その窓から外の人々、外の世界を見つめ、対話してゆくしか道はないと感じる。
『バービー』の監督のグレタ・ガーウィグは、ままならない高校生活を自虐的に描いた『レディ・バード』で監督デビューを果たし、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(アカデミー6部門にノミネート)で女性のさまざまな生き方を肯定した注目の監督だ。そんな彼女の最新作『バービー』は、パティ・ジェンキンス監督の『ワンダーウーマン』を抜いて、女性監督としてNO.1のオープニング記録を打ち立てている。また製作・主演は、性的暴行によって未来を奪われた女性たちを描いた『プロミシング・ヤング・ウーマン』でプロデューサー業にも乗り出したマーゴット・ロビーが務める。

バービーの世界観を体現したカラフルな造形も見どころのひとつ
©2023 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
この注目の二人がタッグを組んだ『バービー』は、なんと『2001年宇宙の旅』のパロディで幕を開ける。「ツァラトゥストラはかく語りき」が鳴り響く中、ミルク飲み人形で遊ぶ女の子たちの前に、モノリスのごとく金髪の巨大なバービー(マーゴット)が現れ、革命をもたらしたとさ、と語り出す。そして舞台は一転してピンク色に染め抜かれたバービーランドへ。そこは大統領をはじめ、さまざまな職業に就くバービーたちが“You Can Be Anything“を合言葉に暮らす多様性溢れる街。一方、そんなバービーたちの傍らには、ライアン・ゴズリングを筆頭にシム・リウら扮するケンたちが居並ぶ。ある日、悩みも痛みも老化もないはずのバービーが、足に異変を感じ、太股にセルライトを発見する。完璧な私にいったい何が!?とショックを受けたバービーは、その理由を突き止めるべく、ケンとともに人間の世界へ旅立つ。
人間の世界が男性社会だと知って驚くケンの心情をライアン・ゴズリングが歌い上げ、「私はいったい誰なの」とビリー・アイリッシュが切ない新曲を寄せる。その他、デュア・リパ、リゾ、KPOPからはFIFTY FIFTYといった豪華な面々の歌声もバービーたちの旅に寄り添う。ポップでカラフルな造形のなか、注目の女性タッグが現代社会への風刺とユーモアを詰め込んで「セルフ・ラブ」を訴える本作は、目を凝らして世界を見つめ、考え、行動する力への讃歌でもある。
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youtu.be【3】スーパースターの妻が選んだ生き方をソフィア・コッポラが丹念に描く『プリシラ』
(2024年4月公開記事)

主演のプリシラをケイリー・スピーニー(右)、稀代のスター、エルヴィス・プレスリーをジェイコブ・エロルディが演じる
©THE APARTMENT S.R.L ALL RIGHTS RESERVED 2023
ソフィア・コッポラが、エルヴィスと14歳で恋に落ちたプリシラ・プレスリーの回想録から紡ぎ出し、主演ケイリー・スピーニーにヴェネチア国際映画祭最優秀女優賞をもたらした最新監督作『プリシラ』。1959年、アメリカ軍将校の父の転属先、西ドイツで暮らしていた14歳のプリシラは、兵役で駐留していたエルヴィスと出会い、初めての恋に落ちる。そして彼の邸宅からカトリックの名門ハイスクールに通うことを条件に両親を説き伏せ、彼と生きるためにアメリカに飛んだ。熱気あふれる60年代のメンフィスでプリシラを迎えたのは、パステル・ピンク、ベビー・ブルー、ゴールドが輝くエルヴィスの大豪邸「グレースランド」での夢のような暮らし。髪の色もメイクもドレスもダーリン好みに変え、カジノに繰り出し、“キング”ことスーパースターとその取り巻きたちと遊びに興じる日々。しかし彼が取り巻きを引き連れてツアーや映画撮影に出てしまうと、いつかかってくるともしれない電話を待つ日々が待っていた。そしてエルヴィスがマネージャーの“パーカー大佐”に縛り付けられ搾取されたように、プリシラもエルヴィスに縛り付けられ、屋敷に取り残された。

孤独と向き合うプリシラ。自らのアイデンティティを追求し、生き方を模索する
©THE APARTMENT S.R.L ALL RIGHTS RESERVED 2023
そしてアーティストとしての苦悩を子供じみたかたちでプリシラにぶつけるエルヴィスに対し、22歳という若さで母になったプリシラの決意で映画を締めくくる。エルヴィスの曲の使用が認められなかったため、サントラはソフィアの夫トーマス・マーズのフレンチ・バンド、フェニックスに託された。娘を乗せた車のハンドルを自ら握り、おとぎの国を後にするプリシラ。その胸の裡を、ドリー・パートンが歌う「オールウェイズ・ラブ・ユー」に語らせる心憎いラストの演出にもほろりとさせられる。
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youtu.be大人のための大満足アクション&SF
【1】トム・クルーズ渾身の会心作!『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
(2023年7月公開記事)

61歳を超えてなお、ハードなアクションに果敢に挑むトム・クルーズのプロフェッショナル魂に圧倒される
©2023 PARAMOUNT PICTURES.
ベーリング海峡の水面下、迫り来る魚雷に緊迫する潜水艦内部が映し出される。先の潜水艇タイタンの悲劇の記憶が新しいだけに、いよいよ公開の『ミッション:インポッシブル』最新作は、冷や汗もののオープニングで幕を開ける。タイトルの「デッドレコニング」が意味する推測航法とは、起点、偏流などから過去や現在の位置を推定し、その位置情報をもとにして行う航法だという。かつての監督官から「大義のための戦いは終わりだ」と告げられたIMFエージェント、イーサン・ハント(トム・クルーズ)は、過去の行いは正しい選択だったのかと葛藤しながら、アブダビ、イタリア、オーストリアと舞台を変えながら世界を駆け巡る。

前作から引き続き登場するホワイト・ウィドウ(写真右/ヴァネッサ・カービー)は、ミステリアスかつ冷たく冴えた華やかさで魅了
©2023 PARAMOUNT PICTURES.
イーサンとフィアット500に乗り、コミカルかつ壮絶なカーチェイスを繰り広げる新たなヒロインはグレース(ヘイリー・アトウェル)。さらにイルサ(レベッカ・ファーガソン)、ホワイト・ウィドウ(ヴァネッサ・カービー)、パリス(ポム・クレメンティエフ)らも爪痕を残す。そしてなんと言っても砂漠を馬で駆け抜け、目も眩むような断崖絶壁からバイクで飛び降り、疾走する列車の上での死闘をスタントなしで繰り広げるトム・クルーズの闘志に胸熱! コロナ禍と配信の影響で苦境に立たされている映画と映画館のために走り続けるクルーズ。本作のPART TWOが公開された暁には、ぜひとも彼にオスカー像を手にしてもらいたい。
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youtu.be【2】美しきティモシー・シャラメ扮する主人公が、さらなる成長を遂げて魅了する『デューン 砂の惑星PART2』
(2024年3月公開記事)

前作では父を亡き者にされ、まだあどけなさの残る少年を演じたティモシー・シャラメ。今作ではそこからの成長ぶりに注目が集まる
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『スター・ウォーズ』や『風の谷のナウシカ』等に多大な影響を与えたフランク・ハーバートによるSF小説『デューン 砂の惑星』は、今から半世紀以上前にエコロジーが近未来の鍵を握ることを予言していた。デイヴィッド・リンチ版から37年ぶりに、映画化に抜擢された監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ(代表作『メッセージ』『ブレードランナー 2049』)による壮大な映像叙事詩の序章PART1が公開されたのが、今から約2年半前。宇宙で唯一、不老薬である “スパイス”が採れる惑星デューンを舞台に、『PART2』では愛する父を殺され国を滅ぼされたアトレイデス家のポールが、宿敵ハルコンネン家に復讐の狼煙を上げる。

シャラメの美しい佇まいのみならず、惑星の造形などヴィルヌーヴ監督ならではの深淵で壮大な世界観にどっぷり浸りたい
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ポール役のティモシー・シャラメが、悩める少年から宇宙の未来を救う救世主として覚醒するまでの変遷を陰影深く演じて魅せる。ポールの運命の相手となる砂漠の民チャニにゼンデイヤ、ポールを導く母レディ・ジェシカにレベッカ・ファーガソン。そのほかクリストファー・ウォーケン、シャーロット・ランプリング、フローレンス・ピュー、レア・セドゥ、アニャ・テイラー=ジョイら豪華な顔ぶれの群像ドラマにハンス・ジマーの荘厳な音楽が響き渡る。
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youtu.be【3】熱狂の渦を巻き起こした前作から待ち焦がれた待望の最新作!『マッドマックス:フュリオサ』
(2025年5月公開記事)

主役のフュリオサを演じるのは、飛ぶ鳥を落とす勢いの若手実力派、アニャ・テイラー=ジョイ
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メル・ギブソン主演の『マッドマックス』3部作から30年ぶりに製作された続編『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)は血湧き肉躍る怒涛のアクション・ムービー。2016年のアカデミー賞で10部門にノミネートされ、6部門に輝いたが、マックス役を引き継いだトム・ハーディのお株を奪う奮闘をみせたフュリオサ役シャーリーズ・セロンがノミネートすらされなかったことには疑問を感じていた。その鬱憤を晴らすべく、闘うヒロインの前日譚を描く『マッドマックス:フュリオサ』が幕を開ける。監督は1作目からメガホンを取るジョージ・ミラー御大。そしてシャーリーズ姐御に代わり、若き日のフュリオサを演じるのは、2015年の『ウィッチ』で注目を浴びNetflixドラマ『クイーンズ・ギャンビット』の大ヒットでゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞したアニャ・テイラー=ジョイ。

『マッドマックス』らしさ全開の風景。大スクリーンでこの世界観にどっぷり浸りたい
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世界の崩壊から45年。幼きフュリオサは、水も石油も枯渇した砂漠の果ての「緑の地」で家族や仲間と共に暮らしていたが、ディメンタス将軍(クリス・ヘムズワース)をヘッドとするバイカー集団に攫われてしまう。さらにウォーボーイズたちがひれ伏す、巨大要塞の主・イモータン・ジョーとディメンタスの覇権争いに乗じて復讐の狼煙を上げるフュリオサは、母との誓いを胸に阿修羅と化す。シャーリーズに比べて線は細いが、旬の女優アニャの鋭い目力とゾクゾクさせる低音ヴォイスはフィリオサの怒りを湛えて見る者のハートを射抜く。フュリオサ覚醒までのドラマをもっと見たいという名残惜しさも感じるが、ジョージ・ミラー監督待望の最新作、暑気払いにはもってこいだ。
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youtu.be【4】ライアン・ゴズリングが体を張ってアクションとラブコメに全力投球!『フォールガイ』
(2024年8月公開記事)

アクションスキルは抜群なのに、なぜかツイてないスタントマンを熱演するライアン・ゴズリング
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昨年は映画『バービー』で切ないケンのバラードを熱唱し、その世界観を盛り立てた芸達者な人気者ライアン・ゴズリング。今作で彼が演じるのは凄腕のスタントマン、コルト・シーバース。もともとは1981年から1986年にかけてアメリカで放映されたTVシリーズ『俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ』の主役を、ブラッド・ピットらのスタントマンから映画監督に転じ、『ジョン・ウィック』シリーズ等のヒット作を連発するデヴィッド・リーチがスクリーンに蘇らせた。
本作のシーバースは、人気アクションスター、トム・ライダーの腕利きスタントマンとして欠かせない存在だったが、撮影中に大怪我を負い、業界から姿を消していた。そんな彼のもとにプロデューサーから復帰要請の声がかかる。しぶるシーバースだったが、ともに撮影の裏方として働いていた元カノ、ジョディの監督デビュー作となるSFアクション映画と聞いて、ロケ地シドニーに飛ぶ。ところがジョディの方は、失敗できないデビュー作の撮影中に苦い恋の記憶など思い出したくもない風情。実はプロデューサーの思惑は他にあり、シーバースは思わぬ陰謀に巻き込まれてゆく。

シリアスな役柄が多いエミリー・ブラントが、勝気な元カノをチャーミングに演じる
©2024 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
ジョディを演じるのはエミリー・ブラント。『オッペンハイマー』のアカデミー助演女優賞ノミネートも記憶に新しいが、久々に軽やかなラブコメ演技を披露している。トム・ライダー役には、『ブレット・トレイン』でもリーチ監督と組み、次期ジェームズ・ボンドの呼び声も高いアーロン・テイラー=ジョンソン。
スタントマンの超絶技と豪快アクションの連続、嵐のような怒涛の展開に、焼け木杭に火がつくか!?のロマンスと、盛りだくさんの127分。耳に心地良いライアン・ゴズリングの一人語りに重なるKISSの「I Was Made For Lovin’ You」からはじまり、テイラー・スウィフトの「All Too Well」、ボン・ジョヴィの「You Give Love a Bad Name」等のサントラもグッド・アシスト。エンドクレジットまでもれなく楽しめる、スタントと映画への愛の讃歌『フォールガイ』は、残暑を忘れるにはもってこいの痛快エンターテインメントだ。
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youtu.be運命と対峙する人々の心を繊細に紡ぐ、味わい深いヒューマンドラマ
【1】映画館を舞台に孤独との向き合い方を描く、映画好きな大人必見の『エンパイア・オブ・ライト』
(2023年2月公開記事)

近年、心に染みる名演が続くオリヴィア・コールマン(右)と、若き才能として注目を浴びるマイケル・ウォード(左)。人生の後半を迎え孤独と対峙する者と、夢を実現しようとするみずみずしい若者の対比が描かれる
©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
淡く美しい光を浴びて、海辺に建つクラシカルな映画館。赤い絨毯が敷き詰められたロビーの天井近くには“暗闇の中に光を見出す”と文字が彫られている。マネージャーのヒラリーは、閉館後の集計はもとより、モギリもするし、ポップコーンも売る。妻帯者の支配人に呼び出されれば、屈辱を感じながらも応えもする。同僚はそんな彼女をそっと見守っている。舞台は1980年代、イギリスの港町。サッチャー政権下の失業と分断という状況下で、音楽や文学から生活文化などの価値観が激しく対抗した時代だ。その空気を掻き立てるサウンドトラックとともに、心の病を抱えたヒラリーが、黒人青年に恋をする心の有り様とほろ苦い人生が描か描かれる

見事なまでに美しいクラシックな映画館の外観や内装にも目を奪われる
©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
孤独と虚しさを抱えたヒラリーが恋に戸惑い、華やぎ、また狂気に歪む。闇に取り込まれそうになる彼女を救うのは、同僚の映写技師だ。毎日働いているのに座ったことのなかった映画館のシートに身を沈め、スクリーンが放つ光を見つめるうちに、彼女の瞳も輝きだす。日本でもコロナ禍での映画館閉鎖は、不安な日々に追い討ちをかけただけに、“暗闇の中に光を見出す”ヒラリーの姿に涙が滲む。
監督は、『アメリカン・ビューティー』で、デビュー作にして一躍オスカー監督となり、その後も『007 スペクター』などの大作も手がける英国演劇界出身の気鋭サム・メンデス。そしてヒラリー役は、『女王陛下のお気に入り』『ファーザー』『ロスト・ドーター』と毎年のように身につまされる映画を突きつけてくる女優オリヴィア・コールマンだ。見る者の視線も心も鷲づかみにする圧倒的なリアリティとくるくると変わる表情! ひと昔前、「韓国映画はソン・ガンホで見ろ」とよく言われたが、ここのところ「大人のための映画はオリヴィアで見ろ」である。
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youtu.be【2】『サイドウェイ』の名匠と俳優コンビが再タッグ!孤独なクリスマスに心が触れ合う『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
(2024年6月公開記事)

主演のポール・ジアマッティ(中央)は『サイドウェイ』(2004年)の演技で数々の映画賞を受賞した実力派
Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.
『サイドウェイ』(2004年)の監督アレクサンダー・ペインと、名優ポール・ジアマッティのコンビで再び今年のアカデミー賞を沸かせた話題作。舞台は1970年代。ボストン近郊の名門寄宿学校で古代史を教える教師ハナムは、堅物の嫌われ者。そんな彼が、クリスマスに家族のもとへ帰れない子供たちの指導教官を命じられる。「再婚相手と2人きりにして」と、母からカリブ海旅行の同行を断られたアンガスのほか、韓国からの留学生や宗教活動で両親不在の下級生など、総勢5人がハナムのもとに。ところがアンガス以外の学生は、父親がヘリコプターで迎えにきた金持ちの生徒に誘われてスキー・バカンスに行ってしまい、親と連絡が取れないアンガスひとりだけが残される。家族が集うクリスマス休暇に独りぼっちのハナムとアンガス、そして食堂の料理長メアリーが、寒々しい学校に“ホールドオーバー(残留)”することに。
天涯孤独で、甘やかされた金持ち学生たちに反感を抱くハナム。大人びて反抗的な表情に家庭の問題や悩みを隠したアンガス。女手ひとつで育てた一人息子をベトナム戦争で亡くしたばかりのメアリー。愛想の悪い3人が他者の孤独を知り、心の傷に触れることで、少しずつ互いの距離を縮めてゆき……。

メアリーを演じたダヴァイン・ジョイ・ランドルフ(中央)は、本作の演技でアカデミー賞助演女優賞を獲得
Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.
人はいくつになっても欠点や不満を抱え、平静を装った顔の下で怒ったり、葛藤したりしているが、人の痛みを知ることで見える景色が変わってゆく。監督アレクサンダー・ペインは、そんな厄介な心の機微を積み重ね、切なくもほろ苦い人間讃歌を紡ぐ名手だ。名優ジアマッティ演じるラストの旅立ちに胸震わされるドラマの中、アンガス役の新星ドミニク・セッサ、そしてアカデミー賞助演女優賞に輝いたダヴァイン・ジョイ・ランドルフのアンサンブルも光る。
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youtu.be【3】24年間のすれ違いからNYでの再会──大人の女性の共感必至!『パスト ライブス/再会』
(2024年4月公開記事)

主人公のノラはLA出身で韓国系二世のグレタ・リー(右)、相手役のヘソンは主演作『LETO レト』がカンヌ国際映画祭で話題を呼んだユ・テオ
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『パラサイト 半地下の家族』配給の韓国のCJ ENMと『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を生み出したA24という最強チームがタッグを組んだ『パスト ライブス/再会』。ニューヨークを拠点に活動する劇作家セリーヌ・ソンが、自らの体験をモチーフにしたデビュー作で堂々アカデミー作品賞と脚本賞の2部門ノミネートを達成した話題作だ。映画は、アジア系の男女と白人男性が座る、ニューヨーク午前4時のバーカウンターの場面から始まり、そして舞台は24年前のソウルへと。少女ナヨンと同級生の少年ヘソンは、子どもごころに互いを将来の結婚相手と意識していたが、ナヨン一家のカナダ移住が決まってしまう。学校帰りの分かれ道、ナヨンは寂しさからか、「また会おうね」と言い出せなかった。そこがふたりの運命の分かれ道だった。
12年後、ニューヨークに移り、作家修行中のナヨンと、ソウルのヘソンはネットで繋がる。ヘソンの優しい笑顔、懐かしい韓国語、ソウルへの郷愁が溢れた。しかしここでもふたりはすれ違う。そしてさらに12年後……。

ノラの夫を演じるジョン・マガロ(右)は、気鋭のケリー・ライカート監督作にも立て続けに出演し注目をあびている
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ナヨンが夫アーサーに「韓国では見知らぬ人とすれ違ったとき、袖が偶然触れるのは、前世(PAST LIVES)でふたりの間に“縁”があったからだというの」と語りかける。韓国語でこの“運命”という意味に近い“縁(イニョン)”をキーワードに、セリーヌ・ソン監督は彼らの揺れる思いを俳優たちの表情で紡いでゆく。ニューヨークの風景を背に、きっとへソンは前世からの仲なのだと感じる居心地の良さと恋心、そしてニューヨークに留まり、ここで何者かになってやるという決意がせめぎ合う。そんな大人のラブストーリーで観客の心をキュンとさせ、心に決めた誓いを有言実行した新進女性監督は、早くも次回作を製作中だというから今後も楽しみだ。
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youtu.be【4】テニスを通してぶつかり合う、スリリングな愛のゲームが観客の価値観を揺さぶる『チャレンジャーズ』
(2024年6月公開記事)

主演は、若手実力派の地位を確立したゼンデイヤ(写真右)
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『君の名前で僕を呼んで』の監督ルカ・グァダニーノと、『デューン 砂の惑星』など話題作への出演が続くゼンデイヤが強力タッグを組んだ『チャレンジャーズ』。本作は、テニスのランキング下位選手の登竜門的な大会”チャレンジャー”の決勝戦に挑むパトリックとアートが睨み合う姿で幕を開ける。そこから13年前へと遡る。同じテニススクール出身のルームメイトであるパトリックとアートは、ファイヤー&アイスと呼ばれるダブルスのペア。そんな二人が10代でグランドスラムの女王として君臨するタシ・ダンカン(ゼンデイヤ)と出会い、魅了される。3人が繰り出した夜の浜辺で、タシは二人に向かって言い放つ。 “テニスが楽しい自己表現だと? あなたたちはテニスをわかっていない。本当のテニスとはリレーションシップ。ボールを交わしながら相手を深く理解し、やがて二人で美しい世界へ至るの” 。この台詞が、トレント・レズナーとアッティカス・ロスによる劇伴を超えたダンサブルなサウンドと絡み合う激しいラリー、そして13年にわたる愛と欲望のトライアングルの中で響き続ける。やがて二人が至る美しい世界とは──!?

パトリック役のジョシュ・オコナー(写真右)、アート役のマイク・フェイスト(写真左)も、余すところなく存在感を発揮
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ゼンデイヤ演じるセクシーかつストイックなタシを求め合うパトリックには、ドラマ『ザ・クラウン』でのチャールズ皇太子役や『墓泥棒と失われた女神』(7月19日公開)に出演のジョシュ・オコナー。アートには、『ウエスト・サイド・ストーリー』のリフ役で注目を浴びたマイク・フェイスト。3人の内面を浮かび上がらせる衣装を担当したのは、「ロエベ」や自らのブランド「JWアンダーソン」を手がけるジョナサン・アンダーソン。そしてこのスリリングな物語を書き上げた脚本家のジャスティン・クリツケスは、今年のアカデミー賞にノミネートされた『パスト ライブス/再会』の監督セリーヌ・ソンの夫であり、『パスト~』で描かれた三角関係のモデルの一人であるというのも興味深い。
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youtu.be【5】『哀れなるものたち』の監督とキャストが再集結で世界が注目! 『憐れみの3章』
(2024年9月公開記事)

エマ・ストーン(写真左)が第3章で演じるのは、家族を捨てて新興宗教に走り、アンドリュー(ジェシー・プレモンス)とともに教祖たる人物を探すエミリー。元夫役はジョー・アルウィン(右)
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奇才ヨルゴス・ランティモスと女優エマ・ストーンがタッグを組んで世界を驚かせ、魅了した『哀れなるものたち』。その余韻が冷めきらないうちに、早くも彼らの新作『憐れみの3 章』が登場する。エマ、ウィレム・デフォー、マーガレット・クアリーら前作のキャストやスタッフが再集結し、さらに今回新たに加わったジェシー・プレモンスは、変幻自在な本作の演技で今年のカンヌ国際映画祭の男優賞に輝いた。

ジェシー・プレモンス(中央)は3章すべてに異なる役柄で出演。その卓越した演技が絶賛された
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愛と支配をめぐる3 つの物語「選択肢を奪われ、自分の人生を取り戻そうと格闘する男」「海で失踪し帰還するも別人のようになった妻を恐れる警官」「卓越した教祖になると定められた特別な人物を懸命に探す女」では、当代屈指の演技派たちが各章で役柄を変えて競演。ランティモスならではの不条理で時に恐ろしくもユーモラスな物語が、観る者の価値観を揺さぶり続ける。『ラ・ラ・ランド』(2016年)でも魅せたエマ・ストーンのランティモス仕様のダンスも必見!
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youtu.be【6】現代の生きづらさと丹念に向き合い、アカデミー賞でも複数賞を受賞した『リアル・ペイン〜心の旅〜』
(2025年1月公開記事)

本作でゴールデン・グローブ賞とアカデミー賞の助演男優賞を受賞したキーラン・カルキン(左)、アカデミー賞で脚本賞を受賞した、監督・脚本・製作・主演の一人4役をこなしたジェシー・アイゼンバーグ(右)
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デジタル広告会社勤務で妻と息子とブルックリンに暮らすデヴィッドと、今は無職のベンジー。従兄弟同士で幼い頃は兄弟のように仲が良かったけれど、近年は疎遠になっていた。そんな彼らが、ホロコーストを生き延びた祖母の遺言に従い、彼女の故郷ポーランドへツアー旅行に出かける。英国人の歴史ガイドが率いる史跡ツアーの一行は、デヴィッドとベンジーをはじめとしたユダヤ系5人と、ジェノサイドを経験後にカナダに移住し、ユダヤ教徒となったルワンダ出身の男性の計6名。生真面目なデヴィッドは、辛い過去を抱えた破天荒なベンジーをサポートするつもりでいたが、気づけばベンジーはツアー・メンバーやガイドの心を掴み、ツアーのムードメイカーともなっていて……。

『ゾンビランド』シリーズでアイゼンバーグと共演したエマ・ストーンが、彼の監督第1作『僕らの世界が交わるまで』と同様に、本作のプロデュースに名を連ねている
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ポーランドの作曲家ショパンの名曲が寄り添う本作は、『ソーシャル・ネットワーク』の演技でブレイクしたジェシー・アイゼンバーグが自らのポーランド旅行の体験をもとに紡ぎ出した監督第2作。ホロコーストの悲劇、従兄弟2人が探るアイデンティティと彼らが抱える生きづらさ、そして現代で繰り返し起こる紛争。地続きで描かれる傷みが静かに浮かび上がる一方で、凸凹従兄弟コンビが醸し出す寂しさと切なさ、ユーモアと互いを思いやる優しさが響き合い、観る者の心を震わせる。破天荒で孤独なベンジーをチャーミングに演じるキーラン・カルキンの演技にも魅了されずにはいられない。彼は本作でゴールデン・グローブ賞とアカデミー賞の助演男優賞を受賞。監督・脚本・主演のアイゼンバーグは、アカデミー賞で脚本賞を受賞した。
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youtu.be演技派俳優たちが魅せる!いま必見の日本映画
【1】注目の若手・河合優実の演技が光る!社会から忘れられた存在を語りかける『あんのこと』
(2024年6月公開記事)

2020年に現実に起きた事件をモチーフに入江悠監督が映像化。底辺から抜け出そうともがく主人公を演じる河合は、作品と杏の人物像について、日々問い続けながら撮影に臨んだという
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2019年の女優デビュー以来、映画を中心に出演を重ね、新人賞など多数の賞に輝いてきた河合優実。『あんのこと』は、TVドラマ「不適切にもほどがある!」の大ヒットで全国区の顔となった彼女の最新主演映画だ。コロナ禍で大切な人を亡くし、その思いを静かな熱量の中に刻みつけたのは、『SRサイタマノラッパー』シリーズで人気の監督、入江悠。
河合が演じる21歳の杏は、母と足の不自由な祖母との3人暮らし。小学4年生から不登校になり、母親から虐待され、麻薬の常習者となってしまう。そんな彼女にひとりの刑事と更生プログラムを取材する記者が手を差し伸べるが……。絶望の世界に差し込んだ一筋の光によって変化してゆく杏の表情を繊細に演じ、見る者の心をゆさぶる河合。熱血漢の刑事の顔に得体のしれなさをにじませる佐藤二朗。記者の思惑を抱えながらも、ある種ニュートラルな視線を物語に呼び込む稲垣吾郎。彼が表現する戸惑いと悔恨が観賞後の胸にじわじわと広がってゆく。
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youtu.be【2】監督 是枝裕和、脚本 坂元裕二、音楽 坂本龍一。才能が結集したカンヌ国際映画祭 脚本賞受賞作『怪物』
(2023年6月公開記事)

実力派の安藤サクラ(右)がリアリティあふれる母親役を好演
©2023「怪物」製作委員会
『万引き家族』でカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞し、『誰も知らない』と『ベイビー・ブローカー』ではそれぞれの主演俳優がともに最優秀男優賞に輝くという実績を重ねる是枝裕和監督。今年も新作『怪物』をコンペ部門に出品し「プレッシャーだな」と漏らしていたが、見事に脚本賞とともに凱旋した。TVドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』等で大人気の脚本家、坂元裕二と初タッグを組んで練り上げたドラマは三章仕立て。舞台は澄んだ湖を臨む郊外の町。子ども思いのシングルマザー早織(安藤サクラ)は「豚の脳を移植された人間は、人間?豚?」と、奇妙な質問を投げかけられた日から一人息子 湊(黒川想矢)の様子が気になり始め、学校の担任教師(永山瑛太)を尋ねるが……。

小学5年生の生徒を演じるふたりは、今作が映画初出演とは思えない、みずみずしい演技を披露
©2023「怪物」製作委員会
怪物とはいったい誰のことなのか? 視点を変えながら、坂元脚本ならではの先が読めないミステリアスなドラマが展開し、終盤に向けて世界が豊かに広がってゆく。それまで影のような佇まいだった校長(田中裕子)が静かに教え子を導くシーンでは、トロンボーンとホルンの音色とともに胸が震える。『万引き家族』でも組んだ撮影監督・近藤龍人のカメラが嵐と陽光の中での子どもたちの生き生きとした表情をとらえ、是枝映画の情感が一気に溢れ出し、そこに病の中で坂本龍一が紡いだピアノ曲が寄り添う。湊たちに、世界の子どもたちに、まるで “誰にでも手に入る幸せが降り注ぎますように” と祈るように──。
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youtu.be【3】江戸時代を舞台に黒木華の好演が光る美しい青春映画『せかいのおきく』
(2023年5月公開記事)

演技派として揺るぎない地位を確立している黒木華。時代劇ならではの佇まいや所作の美しさでも観客を魅了する
©2023 FANTASIA
江戸の末期。武家の娘おきくが、寺子屋で子どもたちに読み書きを教えた帰り、雨宿りした厠のひさしの下で、古紙や下肥を売り買いする矢亮と中次と出会う。おきくは武家の娘ながら、今は父の源兵衛(佐藤浩市)とともに長屋暮らし。中次と矢亮は最下層の仕事と蔑みを受けることもあるが、日々明るさを忘れない。人気の阪本順治監督が初めて時代劇に挑んだ『せかいのおきく』は、身分の違う男女3人が心通わせていく青春映画。

中次を演じる寛一郎(左)は、今作で父・佐藤浩市との共演も果たす。矢亮を演じるのは実力派の池松壮亮
©2023 FANTASIA
背筋を伸ばして墨をする。空に向かって柏手を打つ。握り飯を握る。たおやかな着物姿も所作も見事な黒木華が、やがて悲劇に見舞われるおきくを好演。そして、しんしんと降り積もる雪の中のおきくとのシーンが美しい中次に寛一郎、飄々としながら哀しみを秘めた矢亮に池松壮亮。主演3人に加え、長屋仲間の石橋蓮司、僧侶役で登場の真木蔵人ら、阪本組の常連が人情や笑いを運び、源兵衛役の佐藤浩市が寛一郎との親子共演の場で「“せかい”って言葉、知ってるか? 惚れた女ができたら言ってやんな、俺は “せかい” で一番お前が好きだって」と粋なセリフでキメてみせる。
江戸の四季を映し出す美しいモノクロ映画だが、要所要所でスクリーンがカラーに染まるという演出も。若者3人が “せかい” に向けて歩き出す、ラストの清々しさが心に焼き付く話題作だ。
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youtu.be【4】安部公房の同名小説が、27年の時を経てついに映画化──『箱男』
(2024年8月公開記事)

”人間が望む最終形態”である箱男を演じるのは永瀬正敏
ⓒ2024 The Box Man Film Partners
本作の監督・石井岳龍は、石井聰亙の名で活動していた1990年代初頭、原作者の安部公房に直談判に行き、小説「箱男」の映画化を託された。ところが、1997年に製作が決定しロケ地に選んだハンブルグの地で、クランクイン前日に突然、撮影中止となった。その後、版権はハリウッドから世界をめぐり、約20年後に再び石井のもとへ戻り、最初の製作時と同じキャストの永瀬正敏と佐藤浩市、そして新たに浅野忠信が加わり、安部公房生誕100年の今年、遂にスクリーン登場とあいなった。
箱男とは、ダンボールを頭からすっぽり被り、その小さな覗き穴から世界を眺め、完全なる孤独と自由を得た、人間が望む最終形態。そんな存在に心を奪われたカメラマンの“わたし”(永瀬)は、偶然見かけた箱男を亡き者にしてダンボールを奪い、この街の箱男となることに成功する。ところが、そんな彼の存在を乗っ取ろうとするニセ医者(浅野)や、彼を完全犯罪に利用しようとする軍医(佐藤)、謎の看護師(白本彩奈)が現れて……。

27年前も撮影に臨んだ永瀬。製作過程の紆余曲折を経て、念願の実写化を迎えた
ⓒ2024 The Box Man Film Partners
安部公房自身は執筆当時、ホームレスから箱男を連想したと語っていたが、その身分を椅子取りゲームのように奪い合い、完全匿名の世界から書くという行為をひたすら続ける存在は、今のネット民と重なり、時代とともに生き続ける小説の本領を感じさせる。「娯楽にすること」を条件に許された映画化は、「箱男を意識する者は箱男になる」というフレーズを繰り返しながら、完全なる自由と匿名性を得たはずが、終始覗かれ始める混乱をパンキッシュに描き出す。虚実入り混じる迷宮に囚われる“わたし”役の永瀬正敏と、ニセ医者=浅野忠信の下世話な滑稽さの対比も楽しい。そんな二人が箱に入って、ちょこまか闘う場面や、お約束のように階段をコロコロと転げ落ちる姿はサービス満点だ。
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youtu.be【5】河合優実の鮮烈な演技が光る!カンヌ国際映画祭でも話題の『ナミビアの砂漠』
(2024年9月公開記事)

Z世代の女性像を赤裸々に表現し、観る者を物語の世界に引き込む河合優実
©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会
美容脱毛サロンで働くカナ(河合優実)は、東京在住の21歳。昔のクラスメイトが自殺したと聞かされてもどこか上の空。それより今この瞬間、心ときめくクリエーターのハヤシ(金子大地)に会いたい。そんなカナには同棲している彼氏ホンダ(寛一郎)がいるが……。未来なんてこれっぽっちも信じられない、頑張れば明るい明日が待っているなんて、いまどき信じてる子いる? 沸々と湧く怒りや倦怠感を忘れさせてくれるのは束の間のときめきだけだけど、恋の均衡は脆くも崩れる。飛び跳ね、走り、笑い、怒り、泣き、殴りかかるカナ=河合優実からほとばしる、リアルな感情と放たれる言葉に釘付けになる。脱毛サロン、ススキノ、冷凍ハンバーグ、ピンクのランニングマシーン、ルームランナーと、散りばめられたエピソードに滲むセンスと皮肉も痛快。唐田えりか、渋谷采郁、中島歩らの脇を固めるキャスティングも光る。

河合がラブコールを送りタッグが実現した山中瑶子監督が、本作の脚本も手がけている
©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会
期待の新星・山中瑶子監督と若きカリスマ・河合優実。2人の出会いは河合が高校3年、山中が21歳のとき。PFFアワードで入選した『あみこ』の上映後、河合は山中に「いつかキャスティング候補にしてください」と綴った手紙を手渡したという。それから6年、念願のタッグが叶った『ナミビアの砂漠』は今年のカンヌ国際映画祭の監督週間で国際映画批評家連盟賞を受賞。27歳の山中は女性監督として最年少受賞記録を塗り替え、河合は「私の勘に狂いはなかった!」と微笑んでみせた。
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youtu.be【6】黒沢清監督×菅田将暉の豪華タッグ! アカデミー賞「国際長編映画賞」日本代表作に決定した『Cloud クラウド』
(2024年9月公開記事)

気づいたら標的にされていた──そんな恐怖と不安を巧みに表現する菅田将暉
©2024「Cloud」製作委員会
『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督をはじめ、世界の鬼才から熱狂的に愛される日本人監督・黒沢清。閉幕したばかりのヴェネチア国際映画祭で話題を呼んだ本作は、主演に菅田将暉を迎えたサスペンス・スリラー。菅田が演じる主人公・吉井は “ラーテル”というハンドルネームで“転売ヤー”として稼いでいる。バイト先のクリーニング屋の工場長(荒川良々)が、こつこつ働く吉井を見込んで正社員の話を持ちかけるが、吉井はそれを断り、恋人の秋子(古川琴音)と郊外の一軒家に引っ越して転売に本腰を入れ始める。品物が本物か偽物かはお構いなく、とにかく安く仕入れて即座に売るのが鉄則だ。商売に躍起になればなるほど、吉井の気づかぬところで、インターネットを媒介にした憎悪の連鎖が巻き起こり、やがて集団狂気へとエスカレートしてゆく

人間の奥に潜む闇を描き出す黒沢清の手腕も見どころだ
©2024「Cloud」製作委員会
2001年の『回路』から久方ぶりに黒沢が描くインターネットの闇。20年前よりも遥かに厳しい不況が影を落とす現代社会の中、誰もが知らぬ間に憎悪のターゲットになり得る隣り合わせの恐怖を描いて震撼させる。はつらつとした笑顔もカリスマ性も封印し、人混みに紛れる吉井の曖昧な存在を巧みに表現する菅田将暉。さらに彼を取り囲む古川琴音、窪田正孝、岡山天音、荒川良々らが不穏な空気とスリルを醸し、先が読めないドラマを走らせる。
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youtu.be【7】横浜流星と藤井道人監督のタッグで人を信じきることの難しさを問う『正体』
(2024年11月公開記事)

主演の横浜流星に加え、山田孝之、吉岡里帆、山田杏奈、森本慎太郎といった実力派や若手の注目株が脇を固める
©2024 映画「正体」製作委員会
『新聞記者』(2019)、『余命10年』(2022)の藤井道人監督と、俳優・横浜流星が4 年の歳月をかけて完成させた映画『正体』。原作は2022年にドラマ化もされている、染井為人の人気同名小説だ。横浜が演じるのは、日本中を震撼させた殺人事件の容疑者として逮捕された鏑木。事件当時、高校生だった鏑木は死刑判決を受けて収監されていたが、移送中に脱走を図る。日本各地を、名前と姿を変えながら縦断し逃走を続ける彼の目的とは──。

横浜流星はクランクインの約3 年前から、藤井監督と準備を進めていたという。リアリティを重視する監督は、2023年に夏編、2024年初頭に冬編と2 回に分けて撮影を敢行した
©2024 映画「正体」製作委員会
工事現場で鏑木と出会う青年(森本慎太郎)、冤罪の疑いをかけられた弁護士の父(田中哲司)を信じる編集者(吉岡里帆)、介護施設で鏑木にときめくヘルパー(山田杏奈)。実力派俳優たちの迫真の演技が生み出す人間模様と、逮捕時から事件に関わる刑事(山田孝之)の葛藤が象徴する国家権力という闇。出会う人の心にさざ波を立てる鏑木の逃走劇は、現代の日本が抱える多様な問題を浮かび上がらせながら、観る者をラストまでサスペンスの渦に巻き込んで離さない。
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youtu.be見逃せない! あの大作シリーズの最新作
【1】待望の続編は、ホアキン・フェニックスとレディー・ガガの強力タッグで魅せる!『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』
(2024年10月公開記事)

ホアキン・フェニックスの背筋が凍るような会心の演技から、今作も目が離せない
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スタンダップ・コメディアンになる夢を持ちながら、ピエロメイクの大道芸人として孤独に生きてきたアーサー・フレックが、理不尽な社会の反逆者、民衆の代弁者として祭り上げられた前作『ジョーカー』。ホアキン・フェニックスと監督トッド・フィリップスが造り上げた“ジョーカー”は、社会の歪みから生まれたリアルなアイコンとしてDCコミックの人気ヒーロー、バットマンの宿敵というキャラクターを超えて社会現象化した。世界興収1,500億円を記録したメガヒット作の続編を望む声に対し、その完成されたアーサーの物語に続編は要らないとする反対意見も多数上がった。何より、ホアキンの驚異の極限演技はそう易々と再現できるものとは思えなかった。
ところがホアキンは再び完璧なアーサー・フレックの姿でスクリーンに戻ってきた。痩せこけ、暗い瞳に絶望をたたえたその男が、病院とは名ばかりの牢獄・アーカム州立病院に収監されて数年経ち、その間にアーサーの物語はTVドラマ化され、塀の外の“ジョーカー”人気はますます高まっているという設定だ。そしてアーサーの起こした殺人事件の裁判が迫っている。女性弁護士(キャサリン・キーナー)は、アーサーの起こした凶悪事件は幼少期のトラウマによる心神喪失が原因としてアーサーの無罪を主張する構えだ。

ジョーカーはレディー・ガガ演じるリーと心を通わせ、やがて狂気が二人を支配する
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そんなある日、アーサーは院内で音楽セラピーを受ける女性リー(レディー・ガガ)と出会う。アーサーの頭の中ではいつも母と聴いていたレコードから流れる音楽が回っていた。TVドラマを見て“ジョーカー”に惚れ込んだリーと恋に落ちたことで、音楽が歌となり彼の口から飛び出し、狂気とともにリーに感染してゆく。“ジョーカー”と歌い踊るのはレディー・ガガ。タイトルの「フォリ・ア・ドゥ」とはフランス語で「二人狂い」。一人の妄想が他人に感染し、同じ妄想を複数人で共有する精神障害を表す医学用語でもあるという。前作の狂えるジョーカーがカリスマとして熱狂的に迎えられたのを受け、フィリップス監督が今を照らして考え抜き、更なる挑戦として捻り出したのが愛の法廷劇とミュージカル、そして夢から覚めた現実が待つ結末。監督の期待をも超えたホアキンの凄みにシビれる138分だ。
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youtu.be【2】巨匠リドリー・スコットと実力派俳優陣のタッグ&驚異の映像で期待が高まる!『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』
(2024年11月公開記事)

今作で主役のルシアスを演じるのは、『異人たち』などの好演で注目を集めるポール・メスカル
©2024 PARAMOUNT PICTURES.
巨匠リドリー・スコットが古代ローマを舞台に、復讐に燃える剣闘士(グラディエーター)マキシマスの壮絶な闘いを描いた『グラディエーター』(2000年)は、第73回アカデミー賞の作品賞、主演男優賞など5部門を受賞し、世界的大ヒットを記録した。その24年ぶりとなる続編は、近年も『最後の決闘裁判』『ハウス・オブ・グッチ』『ナポレオン』と圧巻の映像技術とスリリングなドラマを放ち続ける巨匠スコット自らメガホンを取るとあって期待を集めてきた。本作の主人公は、平穏な暮らしをローマ軍の侵攻によって破壊され、愛する妻を殺されたルシアス。絶望の中で捕虜となった彼は、奴隷商人マクリヌスの元で剣闘士となり、狂える双子の皇帝カラカラとゲタが圧政を敷くローマのコロセウムで死闘を繰り広げることになる。

圧巻の映像は、その約8割が実写だというのも見逃せない
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前作ではマキシマスを演じたラッセル・クロウと、宿敵コモドゥス役ホアキン・フェニックスの対決が見どころとなったが、本作でルシアスに扮するのは『異人たち』『aftersun/アフターサン』などで人気急上昇のポール・メスカル。そして奴隷の身分からのし上がり、自由と権力を得たマクリヌスをデンゼル・ワシントンが怪しく演じる。ルシアスたちが守る城塞をローマ艦隊が襲う大迫力のシーンや、サメを放って巨大水槽と化したコロセウムでのグラディエーターたちの死闘など、ほぼ8割は実写という驚異の映像スペクタクルの中、ルシアスの復讐と宿命の火蓋が切って落とされる。
映画『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』海外版本予告 11月15日(金)劇場公開
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