発見、感動、思索……知的好奇心を刺激する、映画好きな大人のための今月の新作を厳選!

BY REIKO KUBO

人間から“感情を消去”したら何が起こるのかを探る時代の旅──『けものがいる』

画像: 主役のガブリエルを演じるのは、メジャー作品からアート系まで幅広いジャンルで躍進する演技派、レア・セドゥ ©Carole Bethuel

主役のガブリエルを演じるのは、メジャー作品からアート系まで幅広いジャンルで躍進する演技派、レア・セドゥ

©Carole Bethuel

 2044年、パリ。AIが支配する世界では、感情を持つ人間はAIより下等とされている。知的でより有意義な仕事を望むガブリエル(レア・セドゥ)は、DNAを浄化して前世のトラウマを消し去り、感情を消失させるセッションを受ける。1910年のパリへと遡ったガブリエルは、瀟洒な屋敷のパーティで青年ルイと出会う。ガブリエルは彼を覚えていなかったが、数年前に会った彼女が告白したある恐怖について、ずっと反芻してきたというルイの言葉に、真実と運命を確信する。逢瀬を重ね、二人は惹かれ合うが、得体の知れない恐怖がガブリエルを押しとどめる。2014年のガブリエルは、ガラス張りの大邸宅で留守番のバイトをしながらオーディションに通うモデル。そんな彼女を密かに孤独なYouTuberのルイが追う。

画像: 100年以上にわたる時を超えて転生する男女の運命とは── ©Carole Bethuel

100年以上にわたる時を超えて転生する男女の運命とは──

©Carole Bethuel

 グザヴィエ・ドランをプロデューサーに、『SAINT LAURENT/サンローラン』等のベルトラン・ボネロ監督が、英国作家ヘンリー・ジェームズの20世紀初頭の著書「密林の獣」を換骨奪胎し、ガブリエルが獣の正体と愛を求めて転生するロマンティックなSF譚を紡いだ。溶けるセルロイド、AI人形、鳩、占い師、洪水と地震……時代ごとに象徴的な衣装をまとったガブリエルに寄り添い、不吉をもたらすイメージが記憶に絡まる。不安や恐れ、さらには愛といった感情がなければ人生はシンプルだ。その厄介なものがあるから、苦悩とともに生の喜びがあると気づくガブリエルを待ち構えるラストの一撃は、観る者の胸にも鋭い痛みを喰らわせる。

画像: - YouTube youtu.be

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『けものがいる』
4月25日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
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鬼才レオス・カラックスが紡いだ42分の自画像的映像『IT’S NOT ME イッツ・ノット・ミー』

画像: 本作は、カラックス自身が初めて編集したコラージュ映像による42分の作品だ ©Jean-Baptiste-Lhomeau

本作は、カラックス自身が初めて編集したコラージュ映像による42分の作品だ

©Jean-Baptiste-Lhomeau

 『ボーイ・ミーツ・ガール』『汚れた血』『ポンヌフの恋人』の“アレックス三部作”でフランス映画界の寵児となり、2021年の『アネット』でカンヌ国際映画祭監督賞に輝いたレオス・カラックス。パリの現代美術館ポンピドゥー・センターは彼に白紙委任する形でレオス・カラックス回顧展を計画したが、予算は膨れ上がり、企画は頓挫。ポンピドゥー・センター側からの「レオス・カラックス、いま君はどこにいる?」という問いかけに、まるで自画像ともいえるような本作『IT’S NOT ME イッツ・ノット・ミー』で応えた。映画の方向性は、ウクライナ戦争が始まり、ジャン=リュック・ゴダールが自ら死を決意したことによって自ずと変わっていったという。孤児に憧れ、自らレオス・カラックスと改名した早熟な少年がどこからやって来て、映画を住処とし、そしてどこへ向かうのか。デヴィッド・ボウイ、ニーナ・シモン、バルバラ……、音楽とイメージの断片がモザイクのように散りばめられる。

画像: ホームビデオから映画、音楽、写真とさまざまなジャンルの映像をコラージュしながら、自身のポートレイトを紡いでゆく © 2024 CG CINÉMA • THÉO FILMS • ARTE FRANCE CINÉMA

ホームビデオから映画、音楽、写真とさまざまなジャンルの映像をコラージュしながら、自身のポートレイトを紡いでゆく 

© 2024 CG CINÉMA • THÉO FILMS • ARTE FRANCE CINÉMA

 かつてのミューズであったジュリエット・ビノシュと、カラックスの分身のような存在だったドニ・ラヴァンが叫び、駆け、1999年の作品『ポーラX』の亡きカテリーナ・ベルゴワとギヨーム・ドパルデューが蘇る。死の淵をのぞき込む物語を描き続けてきたカラックスだが、本作のポスタービジュアルにも使われている海へとダイブする女性のイメージは、生命の躍動の化身。軽やかさが加わった濃密な42分のポートレイトに瞬きを重ねて目を凝らした観客に、20世紀を生き延びたカリスマが「Modern Love」を贈ってくれる。

『IT‘S NOT ME イッツ・ノット・ミー』
2025年4月26日(土)ユーロスペースほか全国ロードショー
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アルゼンチン発、4時間超の新感覚ミステリー!『トレンケ・ラウケン』

画像: 平原に消えた1人の女性と、彼女を探す2人の男たちの物語

平原に消えた1人の女性と、彼女を探す2人の男たちの物語

 アルゼンチンの片田舎トレンケ・ラウケンで、植物学者の女性ラウラが忽然と姿を消す。恋人ラファエルと同僚エセキエル、二人の男は彼女を探してさまようが、行方は杳として知れない。実は、エセキエルにはラファエルに話していない秘密があった。ラウラは図書館の本の中に隠された古い手紙を見つけ、エセキエルと共に、それを送りあった男女のラブレター探しに夢中になっていた。手紙から立ち上る秘密やサスペンスに惹かれ、ビクトル・エリセの『ミツバチのささやき』や『エル・スール』をはじめ、手紙が登場する映画を思い出しながら、ラウラの発見へとにじり寄っている気でいたら2部構成の後半であっさり裏切られるのだが、映画はこの後半からが真骨頂。街の名ともなっている湖トレンケ・ラウケン(丸い池)、街を騒がせた“ワニ”、黄色い花、女たちの家……。ラウラの冒険はさまざまなジャンルを超えてパンパの彼方へ、さらにはSFの世界まで淡々と広がってゆく。ボルヘスやボラーニョを思わせる迷宮探検譚に身を委ねる心地良さ!

画像: 本作は、各国の映画祭で話題のアルゼンチンのインディーズ映 画集団「エル・パンペロ・シネ」による制作

本作は、各国の映画祭で話題のアルゼンチンのインディーズ映 画集団「エル・パンペロ・シネ」による制作

 監督は、ヒロインと同じ名の“ラウラ”・シタレラ。本作の公開に併せ、注目のラウラ・シタレラ監督の3作品『オステンデ』『ドッグ・レディ』『詩人たちはフアナ・ビニョッシに会いに行く』が特集上映される。“ラウラ”の世界の秘密に浸る絶好のチャンスだ。

『トレンケ・ラウケン』
4月26日(土)ユーロスペース、下高井戸シネマほか全国ロードショー
公式サイト

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