発見、感動、思索……知的好奇心を刺激する、映画好きな大人のための今月の新作を厳選!

BY REIKO KUBO

心の揺らぎから崩壊へと傾く夫婦の物語を描く心理ドラマ『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』

画像1: © 2025 DIE MY LOVE, LLC.

© 2025 DIE MY LOVE, LLC.

 鮮烈な映像世界で知られるスコットランドの映画監督リン・ラムジーと、『世界にひとつのプレイブック』でオスカー女優となったジェニファー・ローレンスが本格的にタッグを組み、昨年のカンヌ国際映画祭を騒然とさせた話題作『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』。ローレンスが演じるのは、ロバート・パティンソン扮する夫ジャクソンとともに、アメリカ西部の片田舎へ移り住む作家グレースだ。

 新生活を始めた二人だが、譲り受けたスイートホームは、実はジャクソンの自殺した叔父が住んでいた家だった。そこで妊娠、出産したグレースは創作の時間を失い、夫婦関係にも亀裂が生じていく。見渡す限りの草原と、家中を覆う小花柄の壁紙は、彼女を優しく包み込むどころか、逃げ場のない閉塞感として迫ってくる。

画像2: © 2025 DIE MY LOVE, LLC.

© 2025 DIE MY LOVE, LLC.

 監督になる前は撮影監督を志していたラムジーは、1.33 : 1という縦長フレームを用い、不運を呼ぶ家の中で現実と妄想の境界を失ってゆくグレースを追う。虫やネズミの気配、馬のいななき、バイクの轟音などの音響効果を研ぎ澄ませ、鮮やかな色彩と幻想的な映像を駆使して観客をグレースの精神世界へと引きずり込む。

 撮影当時、自身も第二子を妊娠中だったというローレンスの圧巻の演技は、まさに作品のエンジンであり、魂そのもの。一方、夫を演じるロバート・パティンソンも、変わらぬ愛を抱きながらも妻を理解できない苦悩と献身を滲ませ、変わりゆく夫婦の物語を支える。最後に流れるのはジョイ・ディヴィジョンの「Love Will Tear Us Apart」。“愛が再び二人を引き裂く”と歌う監督リムジー自身のハスキーボイスが、観る者の胸の奥深くまで狂おしく切ないラブストーリーを染み込ませる。

画像: 6月12日(金)公開『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』 |本予告 youtu.be

6月12日(金)公開『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』 |本予告

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『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』
6月12日(金)全国公開
公式サイトはこちら

濱口竜介が関係の揺らぎを繊細に紡ぐ、カンヌ最優秀女優賞ダブル受賞の人間ドラマ『急に具合が悪くなる』

画像1: © 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula – Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners

© 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula – Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners

 今年のカンヌ国際映画祭の最優秀女優賞を主演のヴィルジニー・エフィラと岡本多緒が受賞したことでも注目を浴びた『急に具合が悪くなる』。大ヒットした『ドライブ・マイ・カー』等で知られる濱口竜介監督が、哲学者・宮野真生子と人類学者・磯野真穂の同名往復書簡を映画にすべく、時間をかけて換骨奪胎した最新作だ。

 理想的なケアを目指しながらも、人手不足や効率優先の現実に苦しむ介護施設の施設長マリー=ルーと、病と向き合いながら演劇活動を続ける日本人演出家・真理が、ある日偶然にパリで出会う。名前に同じ「マリ」という響きを持つ二人は、不思議な縁に導かれるように心を通わせ、セーヌ河畔やマリー=ルーの職場「自由の庭」の仮眠室で、夜を徹して語り合う。介護と人間性、生と死、利益を優先する現代資本主義とそこから派生する戦争ビジネス、世界の矛盾と命の価値。二人は生きることの意味を問い直していくが……。

画像2: © 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula – Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners

© 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula – Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners

 ポール・ヴァーホーベン監督作『ベネデッタ』等に出演したフランス人女優のヴィルジニー・エフィラと、トップモデルとして活躍後、『ウルヴァリン/SAMURAI』でスクリーンデビューした岡本多緒。互いの言葉を学びながら、濱口監督と対話を重ねた彼女たちが、感情を積み上げ、魂を分け与える二人のマリの時間に圧倒的な説得力を注ぐ。その成果がカンヌの受賞につながったわけだが、彼女たちを支えた共演者の長塚京三、黒崎煌代の佇まいも忘れ難い。

 196分という上映時間を恐るることなかれ。原作者のひとりである、故 宮野真生子の知性とユーモア、そして死を前にしてなお失われない生への意志を真理に映し出し、人間ドラマの枠を超えた女性たちの生き様と連帯を紡ぎ出した濱口監督の演出により、実際よりも60分は短く感じられるはずである。

画像: 第79回カンヌ国際映画祭最優秀女優賞受賞‼6.19(金)公開!濱口竜介監督最新作『急に具合が悪くなる』【本予告】 www.youtube.com

第79回カンヌ国際映画祭最優秀女優賞受賞‼6.19(金)公開!濱口竜介監督最新作『急に具合が悪くなる』【本予告】

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『急に具合が悪くなる』
6 月19日(金)TOHO シネマズ日比谷ほか全国ロードショー
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城に閉ざされた人々の疑念が連鎖する、黒沢清の新境地『黒牢城』

画像1: ©米澤穂信/KADOKAWA ©2026映画「黒牢城」製作委員会

©米澤穂信/KADOKAWA ©2026映画「黒牢城」製作委員会

 今年のカンヌ国際映画祭のプレミア部門で上映された『黒牢城』は、米澤穂信の直木賞受賞作「黒牢城」をもとにした、黒沢清監督初の時代劇だ。物語の舞台は、織田信長に反旗を翻した荒木村重が籠城する有岡城。外は敵軍に包囲され、城内では人質の少年殺害にはじまる怪事件が相次いで起こる。疑心暗鬼が広がるなか、村重は地下牢に幽閉した織田方の軍師・黒田官兵衛の知恵を借りながら、交錯する事件の真相に迫っていく。

 毎回、絶妙なロケ地選びでも観客を唸らせる黒沢は、本作でも籠城戦を描きながらも、国宝や重要文化財級の城や寺でのロケを敢行。巨大な迷路のような城内を長回しのロングショットで捉え、鬼才ならではの不穏な空気を誘い込む。

画像2: ©米澤穂信/KADOKAWA ©2026映画「黒牢城」製作委員会

©米澤穂信/KADOKAWA ©2026映画「黒牢城」製作委員会

 荒木村重といえば、妻子や家臣を見捨てて生き延びた武将として語られてきた。しかし本作では血気にはやる家臣たちを抑え、どうすれば人を殺さずに城と人々を守れるかを模索する城主・村重に本木雅弘が挑む。そして黒田官兵衛に扮するのは、黒沢の前作『Cloud クラウド』から続投の菅田将暉。この男二人による禅問答や謎かけのような言葉の応酬は、緊張感をはらむ本ミステリーの大きな見どころだ。

 また、疑惑と恐怖が渦巻く城内で最後まで村重に寄り添い続ける紅一点の側室、千代保に吉高由里子。そのほか、オダギリジョー、青木崇高、宮舘涼太、柄本佑、荒川良々ら個性豊かな顔ぶれが戦国の人間模様を織り上げてゆく。人の心という “見えない迷宮”に挑んだ黒沢時代劇は、晩年を茶人として生きた武将・村重を通して、21世紀の戦国の世に“不殺”を問う。

画像: 映画『黒牢城』本予告【6月19日(金) 全国公開】 www.youtube.com

映画『黒牢城』本予告【6月19日(金) 全国公開】

www.youtube.com

『黒牢城』
6月19日(金)全国公開
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