BY MOMO MITSUNO
今年、金沢から帰京した翌日の6 月22日、青山にあるDEE'SHALLの『沖潤子展「gris gris」』に行った。グリグリとはフランス語で小さなお守りといった意味で、大作の作品とは別に、沖さんがずっと作り続けているシリーズである。中にお守りを入れてネックレスのように紐で首から下げることのできる袋型のものと、ブローチ型のものがあり、どれにも手でカットされた錫の小さなクロスがついている。12時、初日とあって開場と同時にギャラリーは人で溢れ、見る見るうちに売約済みの札が貼られていった。夜空のような群青色のグリグリと、額装された作品をわたしも求めた。以来、作品を見るとわけもなく涙が流れることが多くなった。これはどうしたことだろう、と思っていたとき、このページのために沖さんにお会いすることになった。
沖潤子さんが刺繡を始めたのは30代半ばの頃。お母さんの遺したたくさんの布があり、それに自己流で刺しはじめたのが最初だという。幼い頃から絵を描くのが大好きで、長沢節の画塾でも学んだが、しかしなかなか形にならなかった。「絵は、自分の気持ちを出すのにはスピードが速すぎて、ちゃんと表現できないという感じがありました。かといって針仕事は母のものだったのでまったくしていなかった。絵じゃないのかなあ、と思いながら時間がたっていったんです」。あるとき、12歳だった娘の芽衣さんから、遺品の布の一枚を大胆に裁断して手作りしたトートバッグをプレゼントされた。切ってもいいのだ、と思ったとき、出口を探していた創作欲に火がついた。