BY MOMO MITSUNO
昨年の夏のこと、ある雑誌の仕事のために、刺繡の作家を探していた。検索を続けるなかで『PUNK』(文藝春秋)という本に巡り合う。それが沖潤子さんの作品集だった。表紙を開けたとたん、身体が吹き飛ばされるような衝撃を受けた。画面いっぱいに迫ってくる赤や白や黄色の渦巻。それらは太陽や曼荼羅や宇宙図を思わせた。地衣類、粘菌、不思議な文字と数式で埋め尽くされた南方熊楠のノートのようにも見えた。溶岩が流れ赤く燃えあがる山、皮膚に浮き出た血管、増殖する細胞、波打つ丘、切腹前の白装束、そして女性器を連想させる、糸で描かれた渦、渦、渦。
このひとはいったい何者なのか。今すぐ会いたいという衝動にかられた。調べてみると、1週間後にトークイベントがあると知る。8月2日、猛暑の中を下北沢の小さな書店に行くと、黒いローブに身を包み、美しい黒髪を後ろで束ねた神秘的な風貌の女性がいた。そのひとはゆっくりと、ふんわりと、優しげな声で話した。温かな印象が残り、激しい作品とのギャップに、興味がさらに深まった。
それから約1年が過ぎ、やっと作品を観ることができた。21世紀美術館の「コレクション展1 Nous ぬう」に、ゲスト作家として新作が出品されたのだ。それらは『PUNK』で見ていたものよりさらに密度が濃くなっていた。赤と白の布に刺された《midnight》は、火山の赤色立体地図のようであり、ヴィクトリアンジャケットの袖だけが切り離された《つばめ》と《ひばり》は、びっしりと刺された糸によってもはや立体化し、地上に縫い留められた鳥のもがくさまを思わせた。