ボッテガ・ヴェネタのクリエイティブ・ディレクター、トーマス・マイヤーが新たな試みに挑んだ。就任17年目にして、ニューヨークを舞台に繰り広げられた現代のラグジュアリーへの問いかけとその答え

BY JUN ISHIDA

「大切なのは個人であり、自分らしさを表現することです。私は基本的に機能とデザイン性を兼ね備えたさりげないものを好みますが、そこにエキセントリックなものやアンティークを合わせるのが好きです。組み合わせることが大事なんです。私たちのお客さまはトータル・コーディネイトを求める方々ではありません。自分の目で選び、組み合わせることを好みます。自分が持っているものに加える特別な何か、ほかとは違うエキサイティングなもので、長く使える価値のあるものを探しています。そうした人々が満足できるものを作るのが私たちの使命です」

「個人」という言葉はボッテガ・ヴェネタのキーワードである。「自分のイニシャルだけで十分」というコンセプトを掲げ、ロゴをあからさまに打ち出す表現をしてこなかったこのブランドでは、主役は常にその製品を身につける人物そのものだ。「ボッテガ・ヴェネタの原点は個人の表現です。個人を大事にし、お客さま中心というのが私たちのやり方です」。

画像: アートフィルムのような2018年春夏の広告キャンペーン COURTESY OF BOTTEGA VENETA youtu.be

アートフィルムのような2018年春夏の広告キャンペーン
COURTESY OF BOTTEGA VENETA

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この指針は、マス・マーケットへのアピールを重視したデジタル時代に突入した今日でも変わらない。従来の紙をベースとした広告ビジュアルの作成を一新し、2018年春夏コレクションから、ボッテガ・ヴェネタは映像をベースとする広告キャンペーンへとシフトした。写真家を起用せず、大御所アート・ディレクターのファビアン・バロン、ウォン・カーウァイやソフィア・コッポラの作品で知られる撮影監督のフィリップ・ル・スールと制作したキャンペーンは、現代アート作品のようでありストーリーのある短編映画のようでもある。映像の最後に「リフレクションズ」というタイトルが現れるが、この言葉もまた「個人」という概念へと回帰する。「作品を見た人それぞれに自分なりの解釈を加えてほしい。一方的に意味を与えられるのではなく、自分のものにするのがよいのです」

 17年におよぶボッテガ・ヴェネタにおけるキャリアの中で、最も思い出深い瞬間は? と、トーマスに問いかけると、「モンテベッロに新しいアトリエを開いたとき」という答えが返ってきた。2013年、トーマスはブランドの創業地であるイタリア、ヴェネト州ヴィチェンツァ郊外のモンテベッロ・ヴィチェンティーノに新社屋とアトリエを移設した。イタリア環境庁の保護下にある18世紀のヴィラを修復した建物では、ブランドの命ともいえる熟練した職人たちが働いている。

「彼らは常に新しい技術や素材に挑戦しています。変化を恐れず、前進しつづけているのです。今、私たちは“サスティナビリティ”という大きな課題に取り組んでいます。素材の出どころや扱い方を明確にすることは、あと数年もすればラグジュアリー・ブランドにとって当たり前のことになるでしょう。すでに<カバ>(トートバッグ)では、証明書をつけて、素材の産地を含めすべてがトレースできるようになっています。こうした試みをすべての製品で行なっていきたいと考えています」

画像: トーマスがデザインした<ニューヨーク・メゾン>最大の建築的見どころは、メザニン(中2階)から4階へと続く螺旋階段だ。3棟のタウンハウスを結合した建物の1棟分が階段スペースに PHOTOGRAPH BY ADRIAN GAUT

トーマスがデザインした<ニューヨーク・メゾン>最大の建築的見どころは、メザニン(中2階)から4階へと続く螺旋階段だ。3棟のタウンハウスを結合した建物の1棟分が階段スペースに
PHOTOGRAPH BY ADRIAN GAUT

 次々と新しい課題に挑戦してゆくことは、ひとつのブランドをやりつづけるモチベーションを保つための秘訣でもある。「今は時代が大きく変化するとき」と言うトーマス。「人々の振る舞い方や生き方における優先順位が変化しています。私たちはそれを理解し、必要とされるものを提供しなければなりません。多くのものはいらない。正しいものこそが必要だと私は信じます」

 トーマス・マイヤーが17年目にして始めたことはボッテガ・ヴェネタの変化ではない。今まで彼らが貫いてきた誠実な試みの「進化」なのである。

竹内涼真 ボッテガ・ヴェネタのモダニティを着る

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