BY ALEXANDER FURY, PHOTOGRAPHS BY THIBAULT MONTAMAT, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)
パリにあるトム・ブラウンの本社に足を踏み入れると、まるで過去にタイムスリップしたかのように感じる。そこに広がるのはミッドセンチュリーの世界だ。パーマネントプレス加工され、丁寧に仕立てられたツーピース・スーツを着た大勢の男たちはみな、重みのあるウィングチップ・シューズとクリップオンしたネクタイを合わせている。
このデザイナーの世界はグレーの濃淡でできあがっていて、カラーコントラストが抑えられた1950年代のテレビシリーズを見ているようだ。フランネルのグレーは、洗いざらしたコットンやシアサッカー、ウール、カシミヤ、シルクをすべて混ぜて織り上げられている。小説『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』そっちのけで、ブラウンの場合は1000くらいのシェード(濃淡)がありそうだ。その豊かな配色こそは、強い影響力を持ち、大成功をおさめた彼のビジネスモデルの中核をなすものだ。

スタジオ訪問 金曜日 午後5時5分
ニューヨークを拠点とするデザイナー、トム・ブラウン(51歳)。2018年春夏メンズ・コレクションのショーの48時間前、パリのオッシュ大通りにある仮設のスタジオにて。今年の10月には、初めてのウィメンズ・コレクションのショーも同じくパリで開催する。「僕はアンチ・ニューヨーク派と言うわけじゃない」と今回のショーの移転の理由を説明する。「ただ、パリがなぜかしっくりくるんだ」

フィッティング 金曜日 午後5時35分
パリの路上では、気温は38℃近くにまで上る。そんな中、パリのバス運転手の一部が制服に抗議してスカートを履いた。これが「典型的なフェミニン・ファッションを男性に着せた」ブラウンの春の大きなテーマのもととなったわけではないが、面白い偶然ではある。こちらの男性モデルが着ているのは、ブラウンを代表するトライカラーを使ったチェック模様の細長いコートドレス

フィッティングに次ぐフィッティング、キャスティングに次ぐキャスティング
金曜日 午後6時**
ブラウンのデザインの多くは細かい手作業によって仕立てられているので、寸法直しには時間がかかる。「寸法直しに時間を割くより、洋服の形に合ったモデルを間違いなく選びたいんだ」と彼は言う。「ただ今回は、ヒールでうまく歩く方法を学んでもらう必要はあったけど」。ショーに登場するヒールの高さは3〜4インチ(7.5~1㎝)だ