BY ALEXANDER FURY, PHOTOGRAPHS BY THIBAULT MONTAMAT, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)
パリにあるトム・ブラウンの本社に足を踏み入れると、まるで過去にタイムスリップしたかのように感じる。そこに広がるのはミッドセンチュリーの世界だ。パーマネントプレス加工され、丁寧に仕立てられたツーピース・スーツを着た大勢の男たちはみな、重みのあるウィングチップ・シューズとクリップオンしたネクタイを合わせている。
このデザイナーの世界はグレーの濃淡でできあがっていて、カラーコントラストが抑えられた1950年代のテレビシリーズを見ているようだ。フランネルのグレーは、洗いざらしたコットンやシアサッカー、ウール、カシミヤ、シルクをすべて混ぜて織り上げられている。小説『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』そっちのけで、ブラウンの場合は1000くらいのシェード(濃淡)がありそうだ。その豊かな配色こそは、強い影響力を持ち、大成功をおさめた彼のビジネスモデルの中核をなすものだ。