BY ALEXANDER FURY, PHOTOGRAPHS BY THIBAULT MONTAMAT, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)
しかし、今回のコレクションは「タイヘンなこと」――大きな挑戦だ。このコレクションは見た目よりはるかに複雑で奥深い。ひとつひとつの型紙は、男性の体のさまざまな特徴に細かく合うようカットされている(細めの腰や広いウェスト、いろんな凹凸の入れ替えなど)。それらの洋服はきわめて非凡であり、ファッション業界を見渡してもほかに類を見ない。それでいて、ブラウンとほかのデザイナーの間に共通点があるのもまた事実だ。
例えば、最初にブラウンを尋ねた時、つまりショー本番のちょうど48時間前の時点では、春コレクションには色がたっぷりとり入れられ、グレーの部屋とくっきり対照をなしていた。ツイードにはピスタチオ、ラズベリー、サクラソウなどの鮮やかな色が織り込まれていて、ブラウンの飼っているダックスフントのヘクターをモチーフにした金色の刺繍をいくつも目にすることができた。それが、ショー開催当日の日曜までには、すべての色がカットされ、ダックスフントたちだけが残されていた。
多くのデザイナーがそうであるように、ブラウンも本番直前に気が変わり、猛烈なラストスパートでコレクションを手直しする。「この方がコレクションとして完成度が高いから」と舞台裏で彼は言う。「なんていうか、いわゆる“ファッション”っぽくはないけどね」