BY NORIO TAKAGI
過去に遡れば、ウブロや先駆を成したリシャール・ミル以外にも、ゼニス、ジラール・ペルゴ、ベル&ロス、コルムなどいくつも時計ブランドがサファイアクリスタルケースの時計を発表してきた。さらに今年は、グッチやルイ・ヴィトンのような時計を専業としないブランドもサファイアクリスタル・ウォッチ市場に参入。
シャネルはそれらに先駆け昨年、アイコンのひとつである「J12」の20周年を記念し、そのケースとブレスレットをサファイアクリスタルで再現した限定モデルを発表している。そして今年は、2018年に三番目となる自社製ムーブメントを搭載し誕生した、「ボーイフレンド スケルトン」のケースを透明に仕立て上げた。同モデルをレントゲンで透かし見たかのようだから、その名もズバリ「ボーイフレンド スケルトン X-RAY」。これまでシャネルを含み、サファイアクリスタルケースは、スポーツウォッチで用いられてきた。
このボーイフレンドのような薄型のドレスウォッチの透明化は、実に新鮮である。搭載するムーブメント、「キャリバー 3.」は、各パーツを大小のリングが重なり支える幾何学的な構造美と透明感とを併せ持つ。主要な歯車とそれらを支えるリングとフレームはブラックに染められ、透明なケースの中に浮き立つ。これまで時刻表示を司る歯車を主役とするため、ベゼルの下に隠されていた特異な設計のリューズ機構も露わになった。さらにムーブメントの構造的な美しさは、ケースサイドからも見ることができる。サファイアクリスタルは、内部のムーブメントを外観に融和させる素材。時計の新たな表現を導き出す。
高木教雄(NORIO TAKAGI)
ウォッチジャーナリスト。1962年愛知県生まれ。時計を中心に建築やインテリア、テーブルウェアなどライフスタイルプロダクトを取材対象に、各誌で執筆。スイスの新作時計発表会の取材は、1999年から続ける。著書に『「世界一」美しい、キッチンツール』(世界文化社刊)があり、時計師フランソワ・ポール・ジュルヌ著『偏屈のすすめ』(幻冬舎刊)も監修