BY MARI MATSUBARA

ロエベ 2024秋冬ウィメンズ ランウェイコレクションより。「アスパラガス クラッチバッグ」。束ねられたホワイトアスパラガスをビーズ刺しゅう、フェルト、レザーで表現したユニークなバッグ(ロエベ アーカイブ)。東京展で初展示。
ロエベ初の大型展覧会『ロエベ クラフテッド・ワールド展 クラフトが紡ぐ世界』が、上海に続いて東京で開催される。1846年にマドリードでレザー職人が集まる工房として創業後、ラグジュアリー・ファッションブランドへと進化を遂げてきたロエベ。その歴史をひもときながら、伝統と革新に満ちた過去のプロダクトや、創造性を触発しつづけるアートピースの数々を紹介する、インタラクティブな展覧会だ。ロエベが1973年にヨーロッパ圏外で初出店した日本での開催は意義深い。

千家十職の一つで、400年余の歴史をもつ茶の湯の釜師・大西家当代の作品。16代 大西清右衛門《四方覆垂釜》2016年(個人蔵)。東京展で初展示。
スペインの伝統的なクラフトに着想を得たり、昔ながらの職人技に価値を見いだしたりしながらも、一方でロエベは常に時代を見据え、国内外のアーティストとも積極的にコラボレートし、画期的なクリエーションを繰り広げてきた。その足跡をテーマごとに分けられた展示でたどることができる。

ロエベ 2024秋冬ウィメンズ ランウェイコレクションより。「銀箔仕上げの手彫りウォルナット材襟付きコート」(ロエベ アーカイブ)

アメリカの画家アルバート・ヨークの絵画は2024秋冬ウィメンズ ランウェイコレクションに反映された。アルバート・ヨーク《Two Trees in Landscape》1970年頃(ロエベ アートコレクション)。東京展で初展示。
まず「手から生まれたもの」と題された展示室では、これまでのロエベの進化の軌跡をたどる。そして「スペインへようこそ」と名づけられた展示室では、ブランドのルーツであるスペインの伝統的なクラフトや風景と、そこから着想を得たデザインを見ることができる。また「ロエベのアトリエ」という部屋では、圧倒的なカラーバリエーションの極上レザーに触れ、アイコンバッグの製造工程を学ぶことができる。

「ロエベのアトリエ」展示室。バッグがどのような工程を経て作り出されるのか、道具や素材を展示してわかりやすく紹介。(上海展での会場風景)
そのほか、クリエイティブ ディレクター就任以来ジョナサン・アンダーソンが手がけてきた象徴的な54ルックが一堂に会する部屋、また過去の「ロエベ財団 クラフトプライズ」で発表された作品の一部や、世界各国の職人たちとのコラボレーションプロジェクトを紹介する部屋も設けられている。スタジオジブリの名作『ハウルの動く城』とコラボレーションしたレザーバッグを巨大化して展示するインスタレーション「城の部屋」は話題になりそうだ。
2013年にクリエイティブ ディレクターに就任して以来、ジョナサン・アンダーソンが手がけてきたコレクションから象徴的なルックを選んで展示。(上海展での会場風景)

スタジオジブリ『ハウルの動く城』とコラボレーションしたカプセルコレクションは、バッグやアクセサリー、ウェアなどで展開され世界中のファンを魅了してきた。その中でも最も大胆かつチャーミングなアイテム「ハウルの動く城 バッグ」を巨大化して展示。アイコニックなバッグやチャームが複雑に組み合わされており、そのディテールにたぐいまれなクラフツマンシップが見てとれる。(上海展での会場風景)
東京で開催する展覧会の特徴としては、ロエベ財団が支援している京釜師・大西清右衛門家のドキュメンタリー映像や、2019年「ロエベ財団 クラフトプライズ」大賞受賞者である石塚源太ほかロエベと縁の深い日本人アーティストの作品が展示されていることだ。漆や竹、稲藁などの素材を用いた手仕事や工芸への敬意は、ロエベというブランド自体と日本に通底するものだろう。

ビヨンセが2023年のルネッサンス・ワールド・ツアーで着用したカスタムウェアのレプリカを、上海にひき続き東京展でも公開。全面にゴールドクリスタルがちりばめられ、錯視効果を狙った手のモチーフが装飾されたユニークな作品(ロエベ アーカイブ)
展覧会のセノグラフィを手がけた国際的建築設計事務所「OMA*¹」は、こんな言葉を寄せている。「デザインに取りかかる前に、私たちはロエベのアーカイブを丹念に調査しました。クリエイティブチームやコミュニケーション担当者だけでなく、アトリエで長く働いている職人の方々からもお話を聞き、洞察を深めたのです。多くの作業はデジタル資料に基づいて進めましたが、それと同時に会場の大きな模型も製作することで、デザインをより洗練・発展させていきました。ロエベが大事にするクラフツマンシップという考え方は、展示空間の素材感から仕上げに至るまで、会場の隅々に反映されています。また上海展とは異なり、東京ではファサードのある独立した建物が舞台となるので、より街に開かれた場として来館者を迎えることができるでしょう
*1 OMA●オランダの建築家レム・コールハースらによって1975年に設立された建築設計事務所・都市計画コンサルタント。7名のパートナーが事務所を率いて、ロッテルダム、ニューヨーク、香港、オーストラリアにオフィスを構える。今回の会場設計は、リサーチとデザインに特化したスタジオAMOとも協働し、ロッテルダムオフィスが担当した。

『ロエベ クラフテッド・ワールド展 クラフトが紡ぐ世界』
会場では、工房に勤める職人たちがそれぞれカスタマイズしているという道具箱の原型が販売される。
会期:3月29日(土)〜5月11日(日)
会場:東京都渋谷区神宮前6の35の6
開館時間:9時〜20時(最終入場19時まで) 入場無料(予約制)