フードライター北村美香が自信をもっておすすめする美味の店。その技と思いを凝縮した「食べるべきひと皿」とともに、おいしさの理由をひもとく連載第6回

BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY YUKO UEHARA

「バインミー」。ベトナム語でパンを意味し、サンドイッチのことも同様に呼ぶ。数年前まで日本では聞き慣れない言葉だったが、最近よく耳にするようになった。ベトナム特有のフランスパンに、パテやハム、目玉焼きなどの具材と野菜の甘酢漬け、香菜などのハーブをはさんだサンドイッチ。屋台で売られる、ベトナムB級グルメの代表格だ。東京にも専門店が数店オープンし、バインミー愛好者が増えてきた。かくいう私もそのひとり。

 小田急線祖師谷大蔵駅から徒歩約20分、世田谷通り沿いにバインミー専門店「アンディー」がある。特注のバケットに、できたての具材をはさんだバインミーが8種類。ベトナムコーヒーや珍しいアーティチョークのお茶、焼き菓子も。1階のテイクアウトコーナーで注文すれば、そのたびに具材を作ってパンにはさんでくれる。

 2階に上がれば、赤い椅子やグリーンにほっとするコジーな空間。女子好みの空間と思いきや、意外に中年男性も多い。

画像: 「アンディー」店内の壁の絵は、イラストレーターの及川キーダさん作。イベントのライブペインティングで描いた、オリエンタル感あふれる作品が2階のカフェの雰囲気をぐっと盛り上げている

「アンディー」店内の壁の絵は、イラストレーターの及川キーダさん作。イベントのライブペインティングで描いた、オリエンタル感あふれる作品が2階のカフェの雰囲気をぐっと盛り上げている

 店主の島田孝子さんは20代半ば、アジア諸国を旅してベトナムに魅せられた。「ベトナムはとにかくおいしくて。もともとパン好きだったこともあって、バインミーがすっかり気に入りました。路上で食べるのに、おいしいコーヒーも一緒に飲めるっておしゃれだなあと」

 日本に戻ってからも何度もベトナムへ通った。バインミーはもちろんベトナム料理全般を習い、祖師谷大蔵に2013年、「アンディー」をオープンした。

画像: オーナーの島田孝子さんはデザイン学校出身。店の内装は基本的に友人の助けを借りてDIYで仕上げた

オーナーの島田孝子さんはデザイン学校出身。店の内装は基本的に友人の助けを借りてDIYで仕上げた

 ここのバインミーは、パンと具材、なます(にんじんと大根の甘酢漬け)のバランスが見事だ。パンはオリジナルで、バケット専門店に焼いてもらっている。表面はパリっと香ばしく、中はもちっとした食感。具材と一緒に食べよくするため、さくっとした歯切れのよさを追求した。パン職人に具材を食べてもらって、試行錯誤の繰り返し。「バインミーを食べたことのない方に、このサンドイッチを説明するのがとても難しくて」。しかし、ベトナムそのままの味にはしなかった。日本人が食べやすいよう軽さをキープしながらもっちり感を出してもらい、ようやく完成したときは、「これで店の味が決まった」と確信したという。

 写真の「牛肉とレモングラス」は定番メニューのひとつ。牛肉をフレッシュのレモングラスとヌクマム、オイスターソース、酒でマリネして炒める。切り目を入れたバケットに、大根と人参の甘酢漬け、牛肉、香菜をはさむ。パンをすこーしつぶして具材となじませてからひと口。さわやかな香りの中に、奥深い旨味と甘酸っぱさ、えも言われぬ香菜のパンチ力……。さまざまな要素が主張し合いながら、口の中に広がる。さっくりと歯切れのよいパンは、それらを受け止めながら一体化して消えていく。そうなるのは、パン、具材、なますの味と分量のバランスがよいからだろう。

画像: 定番の人気品「牛肉とレモングラス」のバインミー¥600 野菜もたっぷり入ってヘルシー。ここのバインミーはパンが売り切れ次第終了なので、とり置きの予約をすることも可能

定番の人気品「牛肉とレモングラス」のバインミー¥600
野菜もたっぷり入ってヘルシー。ここのバインミーはパンが売り切れ次第終了なので、とり置きの予約をすることも可能

 東洋と西洋が混じり合った味。パンとヌクマムや香菜が合うなんて、このサンドイッチを食べるまで知らなかった。フランス統治時代に生まれた味覚だが、相手がおフランスだと屋台料理とはいえ、シャレて見えます。

 ほかに、「ハムと自家製レバパテ」「魚(サバ)とトマト」「ペッパージンジャーチキン」が定番。それと日替わりメニューが1種類。「おやつバインミー」と呼んでいるのは細長い小さめサイズで、緑豆あんバターなど甘いバージョン。ランチのデザートにこれを注文する人もいるとか。
 砧公園まで徒歩5分。この季節、テイクアウトして外で楽しむのもいい。ビールやワインにも合うので、今度、大人のピクニックとしゃれてみよう。

ăndi(アンディー)
住所:東京都世田谷区砧3-4-2
電話:︎ 03(3417)3399
営業時間:10:00~16:00(パンがなくなりしだい終了)
定休日:木曜日
バインミー 各¥600、ベトナムコーヒー¥380
ほか蓮茶、アーティチョーク茶などもあり
公式サイト

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