さまざまな分野で活躍する“おやじ”たち。彼らがひと息つき、渋い顔を思わずほころばせる……そんな「おやつ」とはどんなもの? 偏愛する“ごほうびおやつ”と“ふだんのおやつ”からうかがい知る、男たちのおやつ事情と知られざるB面とは。連載第5回は人類学者の中沢新一さん

BY YUKINO HIROSAWA, PHOTOGRAPHS BY TAKASHI EHARA

「基本の型を崩さず、長い歴史の中で生き残ってきた理由がある“定番”にも心惹かれる」と言う中沢さん。奈良時代の遣唐使によって伝わった唐菓子、京都の亀屋清永の『清浄歓喜団』もそのひとつだ。「美しい紫色をしたこしあんに七種の香を練り込み、金袋になぞらえた生地で包んで揚げたもの。聖天さまと呼ばれる秘仏への捧げ物だといわれているんです」。カリカリ香ばしい生地と清らかなこしあんがこの上なくマッチ。見た目と食感のギャップ、どことなく神秘的なたたずまいが、中沢さんを魅了するゆえんだろうか。

画像: 「清浄歓喜団」<1個>¥500 亀屋清永 TEL. 075(561)2181 www.kameyakiyonaga.co.jp

「清浄歓喜団」<1個>¥500
亀屋清永
TEL. 075(561)2181
www.kameyakiyonaga.co.jp

「少年時代に愛読したチャールズ・ディッケンズの小説などに登場するパイは、ナイフを入れると外側とは全然違う食べ物が現れる。それがもうたまらなくて、“パイとは何やら特別な存在だ”と、子ども心に感じていました。フェデリコ・フェリーニが手がけた映画『サテリコン』では、料理人が豚のお腹にナイフを入れたとたん、鶏肉やソーセージ、野菜がどっとあふれ出るシーンもあった。表面はごく平凡なのに、割ってみると複雑なものがわっと出てくる――。潜んでいるものがベールを脱いだときに放つ驚きや感動に、惹かれ続けているのかもしれません」

 それは、中沢さん自身が探究する学問にも似ているという。「表面に表れているものが事実で、それを分析・追求するのが一般的な研究ではあるけれど、僕は上辺だけ見たって面白くないと思っているんです。事実や既成概念、既存の資料といった殻を破ってみないと、新しい何かは出てこない。そこに想像し得なかったような別の世界があることが醍醐味だと思って学問を続けています。僕の学問の本質は、ひょっとするとパイなのかもしれないね(笑)」

 その人の人生の軌跡やロマンまでもほんのりと映し出す。やはり“おやつ”は侮りがたく、その可能性は計り知れない。

中沢新一(SHINICHI NAKAZAWA)さん
1950年生まれ、山梨県山梨市出身。日本の人類学者で、現在は明治大学特任教授、野生の科学研究所所長。現代人類学と自身の長期的な修行体験に基づくチベット仏教の思想研究などを総合した独自の学問「対称性人類学」を提唱する。近著に『精霊の王』(講談社学術文庫)、『アースダイバー 東京の聖地』(講談社)ほか多数
PHOTOGRAPH BY TAKESHI IJIMA

 

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