BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY MIDORI YAMASHITA
![画像: 「スパゲッティ トマト」。シンプル過ぎるほどシンプルなトマトソースのスパゲッティ。ありそうで、ない味わい。トマトの濃縮した旨みが圧倒的な存在感。聞けば、食材選びからレシピまで、細部にこだわっている](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783302/rc/2023/07/20/e0cd57cb7075f1b2b7006f5af380f542d5564c36_large.jpg#lz:xlarge)
「スパゲッティ トマト」。シンプル過ぎるほどシンプルなトマトソースのスパゲッティ。ありそうで、ない味わい。トマトの濃縮した旨みが圧倒的な存在感。聞けば、食材選びからレシピまで、細部にこだわっている
「パスタを中心に季節の食材を楽しむコースのお店」がオープンしたと聞いて、パスタ好きとしては放っておけず、早速訪れた。がっつりパスタ三昧は嬉しい。けれど、お腹いっぱいになり過ぎるかな、と密かに心配も。いやいや杞憂でした。
お店は東京メトロ新富町駅から3分ほど。フルオープンのキッチンで、広々としたカウンターの前には立派な生ハムスライサーが置かれている。シェフが料理の仕上げをするのをしっかり拝見できる舞台のようなスペースだ。
![画像: 「リコッタ スカモルツァ パルミジャーノ 生ハム」フリッタ・ピッツァの中には、3種類のチーズのクリームが。ふわふわの生ハムと共に。これにはやはりシャンパンが合う](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783302/rc/2023/07/20/52cbb73135918aeb57eed703fe6db12cf230f6aa_large.jpg#lz:xlarge)
「リコッタ スカモルツァ パルミジャーノ 生ハム」フリッタ・ピッツァの中には、3種類のチーズのクリームが。ふわふわの生ハムと共に。これにはやはりシャンパンが合う
いただいたコースは11品。最初のひと皿は、生ハムスライサーで薄く薄く切られた生ハムをのせた小さなピッツァ・フリッタ(揚げピザ)。天使の羽のようにふわふわした生ハムは口の中でとろけ、香ばしいピッツァが生ハムの塩気と旨みを受け止める。この後に前菜が3品。そして、いよいよ今回の主役である「スパゲッティ トマト」の登場だ。
トマトソースは鮮やかなトマト色ではなく、鄙びたオレンジ色で地味な印象。飾りはバジルの葉のみ。しかも、パスタはレストランにしてはひねりのない(すみません)スパゲッティだ。
しかし。口に入れれば、トマトのグルタミン酸系の旨みと甘みに圧倒される。麺自体もただものではない。なめらかなソースがしっかりからんで、小麦粉の甘みも感じられる。
藤岡智之シェフは1992年生まれ。イタリア修業の最後の場はナポリの近く、ミシュランガイド二つ星レストラン「Quattro Passi」。ここでパスタ場の責任者を務めて帰国。今回の独立となった。
「トマトソースは基本のソース。イタリアでは、どのお店でも必ずトマトソースのものを食べ、自分の目指す味を探しました。理想のソースに出合えたのは、最後に働いた『Quattro Passi』。トマトの姿はペースト状にしているので見えませんが、シンプルで、この上なくトマトの味がしたんです」
藤岡シェフは師匠の味を自分なりの解釈で、しかも日本の食材で再構築した。訪ねた三重の農園で見つけた味の濃いミニトマト。赤色と黄色の両方を合わせないと、この味はできない。だから、この農園で赤黄2種類のミニトマトが育つ時期だけの料理となる。
![画像: トマトソースの食材。三重県多気町の「ポモナファーム」のミニトマト「ぷちぷよ」を取り寄せている。赤と黄、双方の甘みと酸味が不可欠で、酸味がしっかりしていることで、甘みの表情が複雑化する。「この農園のミニトマトでなければ、このソースの味は出せないんです。ぷちぷよが採れる冬ごろにこのスパゲッティは再開します」](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783302/rc/2023/07/20/53d7c6b11b82d3adf3c2b6f72b7d5cd178b238b7_large.jpg#lz:xlarge)
トマトソースの食材。三重県多気町の「ポモナファーム」のミニトマト「ぷちぷよ」を取り寄せている。赤と黄、双方の甘みと酸味が不可欠で、酸味がしっかりしていることで、甘みの表情が複雑化する。「この農園のミニトマトでなければ、このソースの味は出せないんです。ぷちぷよが採れる冬ごろにこのスパゲッティは再開します」
スパゲッティは「クアトロ・パッシ」で使っていたイタリア産のパスタ。伝統の製法で作られ、ソースがからみやすい。オリーブオイルはカンパニア州産。このオイルのおかげでトマトの酸味がまろやかになり、華やかな香りが加わる。どの食材が欠けてもこの味は生まれない。このミニトマト、パスタ、オイルが藤岡シェフの三種の神器なのだ。
作り方もとてもシンプル。ミニトマトを少しのお湯、バジル、潰したニンニク、塩で煮てから濾すだけ。とはいえ、火の入れ加減、パスタと合わせる塩梅など、細部に神経をゆき渡らせている。
![画像: シェフ自ら、カウンター前で生ハムをスライスする。イタリア「ベルケル」社製のスライサーは、「スライサー界のフェラーリ」と称されるほどの名品。藤本智之シェフは辻調理専門学校を卒業し、株式会社ひらまつ入社。「銀座アルジェントASO」「シチリア屋」を経て、2018年に渡伊](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783302/rc/2023/07/20/2a8125266e0c59bc6fef89678b823501df6293cd_large.jpg#lz:xlarge)
シェフ自ら、カウンター前で生ハムをスライスする。イタリア「ベルケル」社製のスライサーは、「スライサー界のフェラーリ」と称されるほどの名品。藤本智之シェフは辻調理専門学校を卒業し、株式会社ひらまつ入社。「銀座アルジェントASO」「シチリア屋」を経て、2018年に渡伊
この日のコースでは、揚げピッツァ、カッペリーニ、スパゲッティ、トルテッロ(詰め物パスタ)、リゾット、ラーメン風のタヤリン(平打ち麺)、デザートのミニドーナッツ……。11品のコースのうち7品がパスタ(1品はリゾット)だったが、主食としてのパスタではなく、コース料理の一品として、完成度の高い味揃え。食材の取り合わせ方も自由でクリエイティビティに溢れているが、土台は歴史に根ざした伝統料理だ。デザートの抹茶クリーム入りのドーナッツまで、するっと食べられる軽快感も加わって、予測不能の楽しさを満喫。
「お店をオープンするとき、他店と区別化するため、自分の得意とするパスタでいこうと決めました」と藤岡シェフ。パスタ中心と聞けば、カジュアルなお店をイメージするが、ワインも楽しめるコース主体のお店。こちらのワインペアリングは、ソムリエの小口豪さんが工夫を凝らしていて、とても楽しい。
![画像: カウンター8席、個室1室(6席)。日本の食材や技法を取り入れた料理をイメージできるような、洋と和の要素を取り入れた店内 コース¥16,500、ワインペアリング¥7,700~(サービス別)](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783302/rc/2023/07/20/27d8d20ca1b0952fa3ee8d2a1e13a1790bbb0e94_large.jpg#lz:xlarge)
カウンター8席、個室1室(6席)。日本の食材や技法を取り入れた料理をイメージできるような、洋と和の要素を取り入れた店内
コース¥16,500、ワインペアリング¥7,700~(サービス別)
PRIMO PASSO
住所:東京都中央区築地1-5-11ACN築地ビルB1F
営業時間:17:00~23:30(17:00〜と20:30〜のコース予約のみ)
定休日:水曜
TEL. 03-6826-9672
公式サイトはこちらから