TEXT&PHOTOGRAPHS BY JUNKO AMANO
最近は京都の店が府外に支店や期間限定店を出すことも多く、さらにネットショッピングも普及し、京都に行かずしても買えるモノが増えました。とは言え、店に行かないと味わえない菓子もまだまだあり。今月はそんな支店を持たず、賞味期限も短い餅菓子に注目。
一つ目は、「粟餅所 澤屋」をご案内します。
北野天満宮前「粟餅所 澤屋」

粟餅10個入り ¥1,400。通常はあんこ6個、きなこ4個だが、好みの割合に変更できる
創業100年越えの老舗店が多い京都ですが、「粟餅所 澤屋」の歴史もかなり長く、創業はなんと天和2年(1628年)。現当主・森藤哲良さんは13代目にあたり、銘菓・粟餅も390年以上前から作られているという。

北野天満宮の目の前。毎月25日は天神市が開催され、境内には露店が並び、特に賑わう
祖先は楠正行公の臣下で、正行公の死後、その首塚守護のために京都・嵯峨野に移り住み、その地で農業を営むことに。そして、その子孫が自作の粟をついて餅を作り、北野天満宮の境内で販売したところ、北野名物として知られるようになり、1638年に刊行された俳書「毛吹草」にも”山城名物北野粟餅”として紹介されている。

イートインでいただける紅梅(粟餅3個)¥600
夏限定のかき氷を除けば、店の品書きは粟餅のみという潔さ。粟と餅米を蒸し、臼で搗き、丸めた餅にこしあんやきな粉をまぶして提供される。

粟に対して2~3割の餅米をブレンド。粟の粒感を残し、黄色みを帯びてつきあがった餅。昔は安価だった粟だが、今では米より高額で販売されることもあるそう
むっちり食感に粟のプチプチ感が小気味よく、餅にまぶすこしあんも、きめが細かく、なめらかで、餅との一体感がたまらない。きなこの方は、より餅の食感が際立ち、昔懐かしい素朴な味わいだ。
餅米を使った餅はかたくなるのが早いが、粟を使うと、さらにかたくなりやすく、店では”できたて”にこだわり、注文を受けてから作られる。

レジ横に作業場があり、粟餅を作る様子を見ることができる
奥様が粟餅をちぎって、あんこの入った大鉢に投げ入れ、13代目があんこをまとわせながら手のひらでくるくる丸めていく、息の合った連携プレイも見物。
持ち帰りもおいしいが、店で食べる”できたて”は格別! 帰路につく前の土産を買う場合も、イートインで一皿食べてほしい。

門前の茶店感が漂うほっこりとした雰囲気
粟餅所 澤屋
住所:京都市上京区紙屋川町838-7
営業時間:9:00~17:00
定休日:水曜、木曜、26日
TEL. 075-461-4517

天野準子
生まれてこの方、碁盤の目と呼ばれる京都の街中暮らし。雑誌やWEBで京都にまつわるライティングやコーディネートを行っている。プライベートでは、強靱な胃袋を武器に日々、おいしいものをハント