「George ジョージ」の名前で活動するユーチューブチャンネルの登録者が100万人を超える吉田能シェフ。表参道にオープンしたレストラン「スピカ」の料理監修という新たな挑戦について聞いた

TEXT &PHOTOGRAPHS BY HIROYA ISHIKAWA

画像: 「George ジョージ」名義のユーチューブチャンネルでもおなじみの吉田能シェフ

「George ジョージ」名義のユーチューブチャンネルでもおなじみの吉田能シェフ

 今からおよそ1年半前の2022年11月、白金にオープンしたカウンターフレンチ「サーパス」は、料理のクオリティはもちろん、吉田能シェフのユニークな経歴でも話題となった。彼は赤坂「ピエール・ガニェール」や銀座「ドミニク・ブシェ トーキョー」など、ミシュラン星付きの名だたるレストランで腕を振るってきた実力派シェフであるだけでなく、当時で約60万人の登録者数を誇る人気ユーチューバーでもあったからだ。

 彼の作る料理や、編集や演出も含めたユーチューブのレシピ動画などから窺い知るのは、吉田シェフは人を魅了したり、楽しませる術に長けているということ。それを裏付けるかのように「サーパス」はオープンからおよそ1年で「ミシュランガイド東京2024」のセレクテッドレストランに選出。「George ジョージ」の名前で活動するユーチューブチャンネルは、2024年3月現在で100万人を超える登録者数を抱えるまでに成長している。

画像: スピカ店内。バーカウンターのあるスペースと合わせて席数は130席

スピカ店内。バーカウンターのあるスペースと合わせて席数は130席

 そんな吉田シェフがこの春、新たな挑戦をした。彼が料理を監修するイタリアンダイニング「スピカ」が、3月6日、表参道ヒルズにオープンしたのだ。

「サーパス」が席数8席のカウンターフレンチに対して、「スピカ」は席数130席のイタリアンダイニング。両店は店の規模や雰囲気も違えば、料理のジャンルも異なっている。しかも「サーパス」は吉田シェフが厨房に立つが、「スピカ」で料理を手がけるのはイタリアンを専門とする宮澤克明シェフだ。「スピカ」では、どんな料理が楽しめるのだろうか? 吉田シェフに話を聞いた。

画像: 「シェフが辿り着いた圧巻の仔羊ハンバーグ」¥2,200(※写真は試食用。通常は2名向けの、よりボリュームのあるひと皿になります)

「シェフが辿り着いた圧巻の仔羊ハンバーグ」¥2,200(※写真は試食用。通常は2名向けの、よりボリュームのあるひと皿になります)

「『サーパス』はカウンタースタイルで料理の数が多く、13皿程度提供しています。フランス料理のクラシックなスタイルでありながら、ひと皿ひと皿はシンプルな盛り付け。シックでエレガントな料理をテーマにしているんです。一方、今回オープンした『スピカ』はパスタ、リゾットといった、イタリアンと聞いて誰もがパッと頭に浮かぶような伝統的な料理を大切にしています。ただし、前菜とメインに関しては、イタリアンにこだわらず、“シェフが辿り着いた圧巻の仔羊ハンバーグ”のように少しジャンルレスな料理で構成する遊び心も取り入れました」

 メニューには「George ジョージ」の名義のユーチューブチャンネルに出てきたレシピを、「スピカ」のトーンに合わせてアレンジした料理が含まれていることも特徴だ。

「動画で紹介している料理は自宅で自分がおいしく食べるために作ったものなので、醤油、みりん、酒を使った無骨でしっかりとした味付けになっています。そのままだと『スピカ』のトーンに合わないので、『スピカ』ではバジルやハーブ、スパイスなどフランス料理やイタリア料理で使われている調味料を使うことで、少しあっさりした繊細な味付けにブラッシュアップしています」

画像: 「普通にはもどれないミントのジェノベーゼ」¥1,700

「普通にはもどれないミントのジェノベーゼ」¥1,700

 例えば、「普通にはもどれないミントのジェノベーゼ」は、ユーチューブのレシピをアレンジしたメニューのひとつだ。

「動画で紹介しているものよりもミントの量を大幅に増やすことで、より洗練されたひと皿にしています。“野菜の底力を最大限に引き出したズッキーニのステーキ”は、動画ではニンニクましましかつコショウをガンガンかけて作る料理ですが、『スピカ』ではハーブやミントなどを効かせることで爽やかな風味のひと皿に仕上げました」

 ほかにもフライドポテトは普通の油ではなく、ニンニクとハーブで香りづけしたオイルで揚げて「最高峰の芋料理 フライドポテトの新しい形」として提供するなど、この店ならではのアレンジに注目したい。また、こうしたメニューの内容には現場に立つ宮澤シェフによるイタリアンとしての意見も取り入れられている。

画像: シェフズコース(¥5,500)に登場する「〆の濃厚ビスクリゾット」(+¥700)

シェフズコース(¥5,500)に登場する「〆の濃厚ビスクリゾット」(+¥700)

「例えば、コース料理に登場する“〆の濃厚ビスクリゾット”は、フランス料理とイタリア料理の良いところが融合することで、見事な味のバランスに仕上げることができました。ビスクって元々はフランス料理に出てくる甲殻類のスープで、それをリゾットにしたものですが、本来イタリアンでは米に吸わせる出汁は動物性のものだけで、魚介の出汁を米に吸わせることはありません。でも僕は濃厚なカニのスープの出汁をしっかりとお米に吸わせたかった。だけど、ただ吸わせればいいのか? 宮澤シェフと意見を交わす中で、味が濃くなりすぎないようにベースの出汁をもう少しあっさりすることに落ち着き、完成に至りました」

 リゾットのお米に関しても、ほどよく粘りがあり、噛んだ時にボロボロと切れることがないのは、素材にストレートにアプローチするイタリア料理の素晴らしさだと話す吉田シェフ。

画像: シェフズコース(¥5,500)に登場する「雲丹と季節野菜のなめらかパンナコッタ」

シェフズコース(¥5,500)に登場する「雲丹と季節野菜のなめらかパンナコッタ」

「もともと美味しいものを別の次元に一歩引き上げるために、原形が見えなくなる状態にまで持っていくのがフランス料理です。逆にそこにいく前に完結させるイタリア料理は、シンプルにおいしさを突き詰めていると改めて感じました」

 吉田シェフのフレンチと宮澤シェフのイタリアンのいいとこ取りをした特別な味わいこそ、『スピカ』の醍醐味なのだ。

画像: イタリア産の赤ワイン、スルキ・ロッソ ¥4,200(ボトル)

イタリア産の赤ワイン、スルキ・ロッソ ¥4,200(ボトル)

 ドリンクではワインに注目したい。サーパスのソムリエも務める古内将道氏によるワインのセレクトについて吉田シェフはこう話す。

「イタリア産を中心に、フランス産、チリ産のワインがおよそ40種類ほど揃います。基本的には料理に寄り添うような味わいで、難しいことを考えず、おいしいと素直に感じるワインばかりです」

画像: カウンター席では、よりカジュアルに食事やドリンクを楽しめる

カウンター席では、よりカジュアルに食事やドリンクを楽しめる

 想定客単価はランチで2,500円程度。ディナーでは5,500円でコース料理が食べられ、予算的にも利用しやすい。吉田シェフならどう利用するのだろうか?

「家族とならコース料理をゆっくり味わいたいですね。友人と一緒であれば、フラッと立ち寄って、アラカルトで何品かシェアしながら気軽にお酒を楽しむことも良さそうです」

 イタリアンレストランとしてはもちろん、バーのような使い方や「George ジョージ」のユーチューブのファンであれば、エンタメ的な楽しみ方もできる。ひとりでもふたりでも大人数でもOKで、日常使いができて記念日にもぴったり。吉田シェフの独創的な料理に舌鼓を打ちながら、幅広いシーンに華やぎをもたらす『スピカ』は、表参道で最高に使い勝手の良い一軒といえるだろう。

スピカ
住所:東京都渋谷区神宮前4-12-10 表参道ヒルズ本館 3F
TEL. 03-3408-0800
時間:11時〜22時30分(金・土〜23時)
定休日:表参道ヒルズに準ずる
公式サイトはこちら

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