国内外問わず、食の探求のためにさまざまな地に暮らしてきたノマドなエディター、ヤミー高山こと、高山裕美子さん。北海道・十勝へ拠点に、食指も心も動かされた素晴らしい作り手たちに、北の大地を駆け抜けていま、会いにゆきます。今回は士幌町の「道の駅」で出会ったチコリをきっかけに、地域の農の可能性を考えて邁進している夫妻に話を聞いた

TEXT & PHOTOGRAPHS BY YUMIKO TAKAYAMA

画像: 道の駅で買ったチコリで作ったサラダ。色が美しく、肉厚で絶品!

道の駅で買ったチコリで作ったサラダ。色が美しく、肉厚で絶品! 

士幌の道の駅で出合ったチコリに感激

 初めて訪れる地域の「道の駅」を訪れるのは楽しみのひとつ。ある日、士幌町を訪ねる用事があり、「士幌町の道の駅の品揃えがほかとは違う」と、商品のデザインを手掛けている友人に連れられて立ち寄ってみた。売店スペースに並んでいるのは農作物のほか、オリジナルの商品の数が多く、パッケージも凝っている。カフェや食堂が併設されていて、メニューも考えられており、楽しそうな雰囲気だ。

画像: 士幌町の道の駅「ぴあ21しほろ」。某旅情報誌の北海道の「道の駅ランキング2025」で2位に選ばれている 公式HPはこちら

士幌町の道の駅「ぴあ21しほろ」。某旅情報誌の北海道の「道の駅ランキング2025」で2位に選ばれている

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 どこへ行っても必ずチェックする農作物コーナーには、赤紫色と黄色のチコリがあり、私の中で「高級野菜」の位置づけだったチコリが、数個袋に入って破格の値段だったので上機嫌で買って帰ったのだった。早速サラダにしたら肉厚でおいしく、残りのチコリは次の日にグラタンにして堪能。

稀少な野菜を育てる夢想農園を訪ねる

 その4日後、別の友人からチコリの生産者である「夢想農園」の堀田隆一さんの話を聞き、育て方がかなりユニークだから見てみるといいのでは?と提案された。しかも奥様が先日訪れた「道の駅」を運営・経営していると聞いて、ぜひともお会いしてみたいと思ったのだった。

画像: 総面積42ヘクタールあるという「夢想農園」。約10品目を育てている COURTESY OF MUSOUNOUEN

総面積42ヘクタールあるという「夢想農園」。約10品目を育てている

COURTESY OF MUSOUNOUEN

 堀田隆一さんは農家の3代目で、チコリは父の代から育て始めたそう。チコリは茎や葉を白く柔らかく育てるために、光を遮断して栽培する「軟白栽培」という方法で育てられる(ホワイトアスパラガスが有名)。まず土壌に種をまき、3か月ほどたって細めの大根ほどの根が育ったらわさわさの緑の葉と根の下を切り落とす。それを専用のケースに並べて、気温15~20度と湿度70%前後を維持した遮光した部屋におく。

画像: 刈り取ったチコリの根の部分から葉が出てきているところ

刈り取ったチコリの根の部分から葉が出てきているところ

 柔らかな葉がでてきて3~4週間すると、それが私たちの知っているチコリとなる。種をまいたら終わりではなく、何段階かの作業を経て育つので非常に手間がかかるため、日本には生産者が少ないのだという。専用の部屋に入ってのぞかせてもらったら、収穫前のチコリのなんと官能的なこと! 情熱的な色と艶めかしいフォルムに気分が上がる。

画像: 収穫間近のチコリ。ゴージャスなドレスのフリルのよう

収穫間近のチコリ。ゴージャスなドレスのフリルのよう

さまざまな野菜が育つ。ケールは可憐なブーケにも!

 ビニールハウスでは、ケールやからし菜、ルッコラ、パクチー、ハーブ類を通年栽培しており、そちらも見学させてもらった。パクチーはすでに10年以上育てており、ハウス栽培と水質のせいか、葉が柔らかく香りがやさしいため、「パクチー嫌いでも食べられる」と喜ばれているそう。ケールも苦さはあまりなく、葉をカットしたところから出てきた水分をなめさせてもらったら、ものすごく甘い。「寒い時期は野菜が寒さで凍ることがないように、細胞に糖を蓄えます。 そのため葉や茎が甘くなるんです」と堀田さん。昼と夜で寒暖差の非常に大きい北海道ならではなのかも。

画像: ケールの畑と堀田さん。野菜を「この子たち」と呼んでいたのが印象的だった

ケールの畑と堀田さん。野菜を「この子たち」と呼んでいたのが印象的だった

 よくみるとケールにつぼみがついており、「これ、絶対においしいやつですね!」と大騒ぎしていたら、元生花店に勤めていたというスタッフの後藤幸恵さんが素敵な花束にしてくれた。実際に、品揃えにこだわりのある札幌のスーパーマーケット「フーズバラエティすぎはら」(私も大好き!)にもつぼみを卸しているのだとか。

左はケールのつぼみのブーケ。めちゃくちゃかわいくて、しばらくは花瓶に飾っておいた。その後、オリーブオイルで焼いて、おいしく完食。右はケールのつぼみ。菜の花のような黄色の花が咲く

 主力野菜のひとつである夏の白かぶは、きめ細やかで桃のようにジューシーだそうで、食べるのが楽しみ。夢想農園ではそのほか、ヤングコーン、とうもろこし、長芋、ビート、じゃがいもなど10品目を栽培している。
 実は堀田さん、イタリア料理のシェフをしていた経歴をもつ。「高校生の時に、その地域の農業の魅力に触れられる、グリ―ンツーリズモや農家レストランの存在を知って憧れたんです。ただ実際に実家に戻ってきて農業に携わると、畑仕事をして、営業して、料理も作ってというのが現実的に難しい。新婚旅行でイタリアの田舎をまわったんですが、訪れた農家レストランでは畑を耕す人と料理を作る人は別々だった。そういう形の方が無理がないな、って思いました」
 北海道は広大な土地を利用して大量に農作物を育てて売るため、野菜そのものの単価が安くなりがち。堀田さんは手間をかけて希少な野菜を育てることで付加価値をつけ、それらを必要としてくれる人たちのもとに届けることが、この地での農業の可能性を広げることにつながると考えた。奥さんの悠希さんと共に、道内や東京のレストランに出向いて野菜を食べてもらって話をし、100軒ほどのレストランと取引するようになったという。

「日本一町民に必要とされる道の駅」を目指して、「ぴあ21しほろ」をオープン

 そして2016年、堀田家にとって思いもよらなかった転機が訪れる。士幌町に大型の「道の駅」ができる計画が持ち上がったのだ。町民を交えて道の駅運営者と意見交換会が行われたが、外部のコンサルタントが作成した計画書は、町民の思いがほとんど反映されていないものだった。「町民に必要とされるような道の駅になってこそ、観光客が共感するものだと思うんです。なんとか考え直してほしくて、計画書案を50ページほど作成して、町長に話をしにいったんです」と悠希さん。その結果、「君たちが起業して運営するなら可能性はある」といわれ、家族会議の結果、悠希さんが代表となって会社を設立。2017年に「日本一町民に必要とされる道の駅」をコンセプトとした「ぴあ21しほろ」がオープンした。

画像: 堀田隆一さんと悠希さん夫妻。オリジナル商品も数多く並ぶ

堀田隆一さんと悠希さん夫妻。オリジナル商品も数多く並ぶ

 オープンから現在に至るまでの、手に汗握る壮大なドラマはここでは省くが、「ぴあ21しほろ」では士幌産の商品にこだわり、地元の食材を使ったすべて手作りの料理をカフェや食堂で提供している。2023年と2024年には酪農家にフォーカスした「乳フェス」も行い、大盛況だったそう。

「僕が夢見ていたアグリツーリズモや農家レストランが、士幌町全体の“農”の魅力に触れられる道の駅という形で叶ったんです」と堀田さんは微笑む。堀田夫妻の思いと、地域住民が一体となって盛り上げている「道の駅」だからこそ、唯一無二の輝きを放っているのだな、と改めて納得させられたのだった。

画像: 「夢想農園」のある日のサラダセット。からし菜、ケール、ルッコラ、チコリ。 夢想農園の野菜は「ぴあ21しほろ」での販売のほか、6月中旬以降は、野菜セットの郵送販売も。ケールのシーズンは12~4月。 COURTESY OF MUSOUNOUEN

「夢想農園」のある日のサラダセット。からし菜、ケール、ルッコラ、チコリ。
夢想農園の野菜は「ぴあ21しほろ」での販売のほか、6月中旬以降は、野菜セットの郵送販売も。ケールのシーズンは12~4月。

COURTESY OF MUSOUNOUEN

「夢想農園」
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高山裕美子(たかやま・ゆみこ)
エディター、ライター。ファッション誌やカルチャー映画誌、インテリアや食の専門誌の編集者を経て、現在フリーランスに。国内外のローカルな食文化を探求することがライフワーク。2024年8月に、東京から北海道・十勝エリアに引っ越してきたばかり

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