サリー・ワイルという名前を聞いたことがあるだろうか。昭和初期に来日した料理人で、今の日本の西洋料理の礎を築いたひとりだ。彼が育てた料理人の系譜を継ぐ場を訪ねてみれば洋食の店の白眉に出合うのみならず、洋菓子もまた然りなのである。今回はワイルの孫弟子が開いた洋菓子の店「成城アルプス」へ。

BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY MASAHIRO GODA

ワイルの孫弟子が開いた洋菓子の店
「成城アルプス」

画像: 「モカロール」¥460。しっとりきめのこまかい生地と、コーヒーのふくよかな香りが漂うコクのあるバタークリームの組み合わせが絶妙。

「モカロール」¥460。しっとりきめのこまかい生地と、コーヒーのふくよかな香りが漂うコクのあるバタークリームの組み合わせが絶妙。

 小田急線の「成城学園前」駅前に、上品可憐なケーキがずらりと並ぶ「成城アルプス」がある。客足の絶えない店頭もサロンも、ヨーロッパ調のシックな雰囲気。地元住民に愛され、遠方からのファンも多い洋菓子の老舗だ。創業者の太田恵久(しげひさ)(2005年没)は、ワイルの孫弟子にあたる。恵久は、若い頃に神田「エスワイル」で修業をした。「ホテルニューグランド」の厨房でワイルの信頼も厚かったベーカリーシェフ、大谷長吉が独立して1951年に開いた洋菓子店だ。店名は師匠のニックネームである。第二次世界大戦後スイスへ戻ったワイルは、自分の名前がついた店が東京にあると自慢していたという。

画像: 「モカロール」の箱は東郷青児の絵を用いたもの。店内にも彼の作品が飾られている。1本化粧箱入り(M)¥2,100、(L)¥3,100。

「モカロール」の箱は東郷青児の絵を用いたもの。店内にも彼の作品が飾られている。1本化粧箱入り(M)¥2,100、(L)¥3,100。

「エスワイル」は惜しまれつつ2011年に閉店するが、その味は弟子にあたる恵久の「成城アルプス」に受け継がれている。「うちのお菓子で、『モカロール』と『ババロアナチュール』『サバラン』『マロンシャンテリー』は大谷さんから受け継いだものです」と現社長であり、シェフ・パティシエの太田秀樹は言う。太田は、父の恵久が残したレシピのなかで、自分の舌の記憶に刻まれた、好きなお菓子だけを店頭に並べている。「ただ、時代に合わせて味を変えなければ、飽きられて淘汰されてしまいます。少しずつ配合や作り方を変えて、今の時代に合わせた味や風合いに仕立てています。大谷さんのレシピを見ていると、『おいしいバランス』を熟知している方だったことがよくわかる。さすがだな、と思います」

画像: 「マロンシャンテリー」¥780。そぼろ状の和栗になめらかなクレーム・シャンティのみの潔さ。栗の風味を最大限に堪能できる。

「マロンシャンテリー」¥780。そぼろ状の和栗になめらかなクレーム・シャンティのみの潔さ。栗の風味を最大限に堪能できる。

「成城アルプス」は今年で創業から60年。「長く続くお店にしたい」と大切にしてきたのは、「お店を清潔に」「お客さまのリクエストは極力受ける」「作り立てにこだわる」。昭和の初め、ワイルが横浜で弟子たちに教えたことは時を超え、ここにも受け継がれている。

画像: 「ババロアナチュール」¥486。神田「エスワイル」の配合に近いレシピだが、こちらはゼラチンの量を減らし、とろりと柔らかな口あたりに。姉妹店「プレリアル成城」にて販売。

「ババロアナチュール」¥486。神田「エスワイル」の配合に近いレシピだが、こちらはゼラチンの量を減らし、とろりと柔らかな口あたりに。姉妹店「プレリアル成城」にて販売。

画像: 「サバラン」¥670。生地が大谷レシピ。「染み込ませるシロップを引き立てる、控えめなブリオッシュ生地です」。ラム酒のシロップ、カスタードクリーム、アプリコットジャムのマリアージュ。ラム酒をきかせたい方のためにオールドラムの原液をスポイトに。

「サバラン」¥670。生地が大谷レシピ。「染み込ませるシロップを引き立てる、控えめなブリオッシュ生地です」。ラム酒のシロップ、カスタードクリーム、アプリコットジャムのマリアージュ。ラム酒をきかせたい方のためにオールドラムの原液をスポイトに。

画像: ワイルの孫弟子が開いた洋菓子の店 「成城アルプス」

成城アルプス
住所:東京都世田谷区成城6の8の1
TEL.03-3482-2807 
公式サイト

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