皆で集い踊る夏至祭り、楽しいザリガニパーティー……。《スウェーデン狂詩曲》第1番『夏至の徹夜祭』が描くのは躍動と高揚感、そして生きる喜び。自らも北欧で音楽を学び、夏を味わった指揮者・野津如弘が、北欧の短くも美しい夏の記憶を綴る

TEXT BY YUKIHIRO NOTSU, ILLUSTRAION BY YOKO MATSUMOTO

胸が高鳴る、アルヴェーンの《スウェーデン狂詩曲》第1番『夏至の徹夜祭』

画像: 胸が高鳴る、アルヴェーンの《スウェーデン狂詩曲》第1番『夏至の徹夜祭』

 北欧の夏は短い。それだけに人々は夏を待ち焦がれ、その夏を楽しみ尽くす。そんな北欧の夏の「入り口」と呼べるのが6月下旬の「夏至祭」。学生たちはたいてい6月上旬から夏休みに入り、大人たちは夏至祭前後から数週間の休暇を取る。半年にも及ぶ長い冬を経て、どれだけこの夏休みを楽しみにしているか想像してみてほしい。夏至祭とはその名の通り夏至を祝うお祭りのこと。一年で日が最も長くなる夏至。夏の間、北欧は白夜であり、太陽は沈まない。

 僕はフィンランドに留学していた当時、首都ヘルシンキのセウラサーリという島で伝統的なユハンヌス(夏至祭)を体験した。コッコと呼ばれるかがり火を焚いて悪霊を追い払い、豊作を願うその祭りでは、子どもたちは(時には大人も)竹馬で遊び、大人たちはフィンランドの伝統音楽に合わせてダンスを踊ったりして楽しむ。ソーセージやビールの出店もあって、まるで日本の夏祭りのようだ。祖母がお盆になると火を焚いていたこと、そして子どもの頃の盆踊りが懐かしく思い出された。

 今回は、そんな北欧の夏至祭を描いた作品をご紹介しよう。スウェーデンの作曲家ヒューゴ・アルヴェーン(1872-1960)の《スウェーデン狂詩曲》第1番『夏至の徹夜祭』。曲は弦楽器のピッツィカートに乗ってクラリネットがスウェーデン民謡のテーマを楽しげに奏でるところから始まる。そのメロディーを追いかけるようにフルートやオーボエ、そしてファゴットが次々と入ってくる様子は、若者たちがどんどん輪に加わって踊る様子を描いているようだ。その中でも印象的なのは、想いを寄せる相手とのダンスにちょっとソワソワするかのような場面。心浮き立つ瞬間だ。

 ところで、白夜とはいっても、ずっと昼間のように燦々と明るいわけではない。多少は薄暗くなる時間があり、空がオレンジ色から青みがかった紫色に移り変わっていくひと時は、神秘的な美しさに満ちている。この曲のしっとりとした中間部は、そんな色彩感を描き出している。ハープと弦楽器の伴奏に支えられて登場するイングリッシュ・ホルンとホルンの掛け合いは、そんな薄闇で語らう恋人同士のようだ。この親密なテーマは、その後、情熱的に盛り上がり、オーケストラが一丸となり奏でられるクライマックスを迎える。二人の濃密な時間を物語ったのち次第に鎮まり、再度、楽しげな前半のテーマが戻ってくる。

 《スウェーデン狂詩曲》には演奏頻度は第1番に比べて少ないものの、第2番『ウプサラ狂詩曲』、第3番『ダラーナ狂詩曲』もある。それぞれ学生歌と民謡を題材にスウェーデンの情景を描いた作品で、一聴の価値がある。ぜひ聴いてみてほしい。

飲んで歌って乾杯!の無限ループ、ザリガニパーティー!

画像: 飲んで歌って乾杯!の無限ループ、ザリガニパーティー!

 さて、北欧の短い夏の楽しみは、音楽以外にもある。夏至祭の頃には新じゃががおいしくなり、新じゃがをただ茹でてディルを添えただけでもうまいのだが、フィンランド名物のサーモンスープに入れるとまた格別。

 そして盛夏の楽しみはザリガニだ。年に一度の大イベント。日本でいったらフグ鍋か。みんなで集まってパーティーをして食べる。しかし、そこにはルールがあって、それに則ると、まず「へーランゴー」という「乾杯の歌」を歌って、アクアヴィットで乾杯、そしてザリガニを食べる。次にまた別の人が「乾杯の歌」を歌い、また乾杯、そしてもう一匹。という具合。これが延々と続くので、全員が歌い終わる頃には出来上がってしまうことも。

 ザリガニの宴を催す8月にもなると朝晩は冷え込み始め、みんな休暇から戻ってくる。ザリガニパーティーは、北欧の短い夏に名残惜しく別れを告げる宴でもあるのだ。

画像: スウェーデンのソウル・スピリットともいえるのがこのプレミアムウオッカ「アブソルート」。穀物を思わせる奥深い香味にドライフルーツの香りがふわり。南スウェーデン・オフスにある蒸留所で丁寧に作られるウオッカはなめらかで芳醇な味わい。アブソルート ウオッカ 40度/750ml ¥2,585(参考小売価格 税込) COURTESY OF PERNOD RICARD ペルノ・リカール・ジャパン株式会社 公式サイトはこちら

スウェーデンのソウル・スピリットともいえるのがこのプレミアムウオッカ「アブソルート」。穀物を思わせる奥深い香味にドライフルーツの香りがふわり。南スウェーデン・オフスにある蒸留所で丁寧に作られるウオッカはなめらかで芳醇な味わい。アブソルート ウオッカ 40度/750ml ¥2,585(参考小売価格 税込)
COURTESY OF PERNOD RICARD

ペルノ・リカール・ジャパン株式会社
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画像: 野津如弘(のつ・ゆきひろ)●1977年宮城県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、東京藝術大学楽理科を経てフィンランド国立シベリウス音楽院指揮科修士課程を最高位で修了。フィンランド放送交響楽団ほか国内外の楽団で客演。現在、常葉大学短期大学部で吹奏楽と指揮法を教える。明快で的確な指導に定評があるとともに、ユニークな選曲と豊かな表現が話題に。 公式サイトはこちら

野津如弘(のつ・ゆきひろ)●1977年宮城県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、東京藝術大学楽理科を経てフィンランド国立シベリウス音楽院指揮科修士課程を最高位で修了。フィンランド放送交響楽団ほか国内外の楽団で客演。現在、常葉大学短期大学部で吹奏楽と指揮法を教える。明快で的確な指導に定評があるとともに、ユニークな選曲と豊かな表現が話題に。
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画像: マツモトヨーコ●画家・イラストレーター 京都市立芸術大学大学院版画専攻修了。「好きなものは各駅停車の旅、海外ドラマ、スパイ小説、動物全般。ときどき客船にっぽん丸のアート教室講師を担当。 公式インスタグラムはこちら

マツモトヨーコ●画家・イラストレーター 京都市立芸術大学大学院版画専攻修了。「好きなものは各駅停車の旅、海外ドラマ、スパイ小説、動物全般。ときどき客船にっぽん丸のアート教室講師を担当。
公式インスタグラムはこちら

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