日本各地で脚光をあびる大人のためのデスティネーションレストランを、ガストロノミープロデューサー・柏原光太郎が案内する好評連載。前回より、東京から足を運びやすい首都圏編をお届けしている。第2回目は、音羽和紀シェフを中心に、ファミリー=チームワークで豊かな食文化を伝え続ける「オトワレストラン」をご紹介。

BY KOTARO KASHIWABARA

画像: 那須のチーズとホエーを使った温かいスープと、季節の野菜、ハーブ、花など30種類以上の素材を合わせた一皿

那須のチーズとホエーを使った温かいスープと、季節の野菜、ハーブ、花など30種類以上の素材を合わせた一皿

 世の中に「デスティネーションレストラン」「ローカルガストロノミー」という言葉が浸透するずっと前から、当たり前のように地方にある食材を使い、その土地に根ざした料理を作ってきた飲食店がある。宇都宮にある「オトワ レストラン(Otowa restaurant)」。宇都宮駅から車で10分ほど、川沿いに建つコンクリート打ちっぱなしのスタイリッシュな建物である。

画像: カラフルな窓枠とOtowaのロゴが印象的な外観

カラフルな窓枠とOtowaのロゴが印象的な外観

 主人の音羽和紀シェフは宇都宮出身。まだ海外に行くのが難しかった1970年に渡欧し、「料理界のダ・ヴィンチ」と呼ばれた伝説のシェフ、アラン・シャペルに日本人としてはじめて弟子入りした。渡仏当初は地元に戻ろうとは思っていなかったが、シャペルシェフのレストランのあるフランスの片田舎・人口も少ないミヨネ村で過ごすうちに、地元の人が自分の村を一番と語る理由を理解したという。

「フランスには地方で何十年と続くレストランがあり、地域の発展に役立っている。私も土地の素晴らしい食材を使うことで地元の食文化を盛り上げたいと思ったのです」

「アラン・シャペル」の後、帰国する前に異なる地域で学ぶ必要性を感じ、シャペルシェフの紹介でゲラールシェフの店で経験を積んだ。そして信念を胸に30歳で帰国。1981年に最初の店「オーベルジュ」を創業した。音羽シェフが考えたのは、食と農と観光のスパイラル。レストランはひとりでは成り立たないため、周囲の生産者らとともに理解し合いながら、仕組みを作ることで地方を盛り立てようと考えたのだ。

画像: ダイニングゾーン、個室、アトリウムを備え、さまざまな使い方ができるレストラン

ダイニングゾーン、個室、アトリウムを備え、さまざまな使い方ができるレストラン

 当初のレストランはその後、改装や移転、支店の閉店などを繰り返し、2007年に現在の「オトワレストラン」を開店した。

「ここは私の集大成ではなく、ここから始まる舞台に過ぎません。地域に豊かな文化を根づかせるには、店を続ける継承者が必要です。そのためにも私はこの職業を子どもたちに継いでほしいと思っていました」

 しかし、音羽シェフは「料理人になれ」とは一度も言わなかったという。だが、彼がいきいきと料理をし、奥様が一緒にサービスを担当していたことで、子どもたちは全員、オトワレストランに集結した。

画像: (左から)現・調理長の長男・元さん、音羽和紀シェフ、サービス担当の次男・創さん

(左から)現・調理長の長男・元さん、音羽和紀シェフ、サービス担当の次男・創さん

 シャペルシェフのレストランで研鑽を積んだ長男の元さんが現・調理長で、日仏で料理人として修業し、ミシュランガイド東京一つ星レストランでシェフ経験を持つ次男の創さんがサービス、長女の香菜さんは海外の大学のホスピタリティ学科で学び、マネージメントやウェディング業務を担当している。
 
 音羽さんは現場を子どもたちに任せてはいるものの、地方で仕事がある時以外は店に出て、お客様とコミュニケーションをとりながら、店を守っている。
 
 そんな話を聞いてから、オトワレストランの食事を楽しんだ。

 ランチで「イマージュ」コースをいただいた。ペアリングは創さんにおまかせし、シャンパーニュから始めた。お客様のほとんどがペアリングで 、昼からアルコールを頼む方も多くなったという。

画像: スプーンの上には、梅のシロップのゼリーとかぶせ茶の茶葉を使ったアミューズ。手前は伊達鶏の白レバーのムース、地元のマンゴーを使った一皿

スプーンの上には、梅のシロップのゼリーとかぶせ茶の茶葉を使ったアミューズ。手前は伊達鶏の白レバーのムース、地元のマンゴーを使った一皿

画像: 白いとうもろこし<雪の妖精>のスープ フルーツトマトのソルベ

白いとうもろこし<雪の妖精>のスープ フルーツトマトのソルベ

 ノンアルコールペアリングで使ったたまゆらというかぶせ茶の茶葉と、梅のシロップを使ったゼリーをスプーンにのせたアミューズから始まった。2品目は、ココナッツのサブレの上に地元のマンゴー、伊達鶏の白レバーのムースを置いた一口サイズのもの。

 続いていただいた料理は、白とうもろこし<雪の妖精>のスープにトマトシャーベットとピスタチオを合わせることで、甘みと酸味のバランスが抜群のスープに仕上がっていた。

「栃木旬野菜」は、那須のチーズとホエーを使った温かいスープと季節の野菜、ハーブ、花など30種類以上の素材を用い、こちらもスープと野菜の取り合わせが見事だった(記事冒頭の写真)。

画像: 地元の鮎をすべて使ったスペシャリテ

地元の鮎をすべて使ったスペシャリテ

 スペシャリテの「鮎」は、じゃがいものパンケーキの裏に地元の鮎フィレを張り付けている。頭や内臓は赤ワインと煮込んでシヴェに、中骨はクリアなコンソメにするなど、余すところなく鮎を使った逸品だった。

画像: 和歌山の太刀魚にタプナードを塗り、焼き上げたものをロメスコソースで

和歌山の太刀魚にタプナードを塗り、焼き上げたものをロメスコソースで

画像: 茨城県産の三右衛門ポークのグリエ、ニラのエスカルゴバター風ソース

茨城県産の三右衛門ポークのグリエ、ニラのエスカルゴバター風ソース

 魚料理は和歌山の太刀魚をいったん開いてあわせてタプナードを塗り、焼き上げたものにロメスコソースで。海のない栃木県なので、魚料理は全国の旬の魚を使う。 
 
 肉料理は茨城県産の三右衛門ポークのグリエ。ニラ、生ハム、アーモンドなどを使い、地元の食材がフレンチのソースに昇華されている。

画像: 真空にした荒牧りんご園の桃、ソースは桃の皮を使って

真空にした荒牧りんご園の桃、ソースは桃の皮を使って

 そして季節のデザートは、荒牧りんご園の桃を真空にし、桃の皮はソースに。旬の桃はよく食べるが、こんな食感は初めてだった。

 肉と魚は他県のものも使うが、野菜はおおかた栃木県産だという。食事ののちに、調理場を預かる現・調理長の元さん、パティシエの奥様ともお目にかかったが、見事なチームワークの料理だった。

画像: マカロンと、黒糖、きな粉などを使ったミニャルディーズ

マカロンと、黒糖、きな粉などを使ったミニャルディーズ

「ローカルが生きていけるモデルを作ることで、地方の飲食観光産業も大きなビジネスになります。そういう仕組みを作るには子ども、孫の世代までかかるかもしれません。でも、料理は素敵な仕事ですから、家族や地域を挙げても、やりがいがあると思います」

 音羽氏は「ゴ・エ・ミヨ」ジャパンから、長年培ってきた知識と技術を国や世代を超えて伝えている貢献が認められた料理人に授与される「トランスミッション賞」を受賞し、店は世界的なラグジュアリーなホテルやレストランで構成される組織「ルレ・エ・シャトー」にも加盟している。さらに、次世代の子どもの味覚を育ていくことの大切さを認識し、30年以上前から小学校を回って食育に取り組んでいる。

 日本ではあまり使われないが、欧米では家族で継承することで事業を成長させることは「ファミリービジネス」といわれ、長い時間をかけてその事業を成熟させることに誇りを持っている。オトワ レストランは日本のファミリービジネスの最先端。彼らが一丸となって、地方の食文化を変えようとしている。

画像: オトワレストランでともにイベントをした、シェフやアーティストのサインが書かれた壁

オトワレストランでともにイベントをした、シェフやアーティストのサインが書かれた壁

オトワ レストラン
栃木県宇都宮市西原町 3554-7
TEL. 028-651-0108
公式サイトはこちら

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柏原光太郎
ガストロノミープロデューサー。文藝春秋で「文春マルシェ」創設を経て、「日本ガストロノミー協会」会長、「食の熱中小学校」校長、「Luxury Japan Award 2024」審査委員などを務める。近著に『ニッポン美食立国論 ―時代はガストロノミーツーリズム』『東京いい店はやる店』。

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