夏目漱石、永井荷風etc. 一見渋めのイケオジ風もいる文豪たちは、実は大の甘党だった。書評家の石井千湖が、文豪とお菓子のただならぬ関係をひもとく。ここに登場するお菓子は、すなわち筋金入りのロングセラー。年月を超えて人々を魅了しつづける名作をご堪能あれ。まずは『吾輩は猫である』にも登場する「羽二重団子」をご紹介

BY CHIKO ISHII, PHOTOGRAPH BY MASANORI AKAO, STYLED BY YUKARI KOMAKI

「(略) 先生あすこの団子を食った事がありますか。
奥さん一返行って食って御覧。柔らかくて安いです。(後略)」
―― 夏目漱石『吾輩は猫である』より

画像: 文政2(1819)年の創業以来7代200年と、由緒ある「羽二重団子」。"きめがこまかく羽二重のようだ"と賞されたのが名前の由来。吟味した米の粉を用いて作られた団子は、もっちりとして、嚙みしめるほどにシコシ コとした歯ざわり。今も職人の手で丸めて平たく成形し、串に刺す。餡は砂糖控えめ、さらりとした甘さの中に奥行きがある。焼き団子はこんがり焼いて生醬油とともに二度漬け二度焼き。時を超えて誠実に継がれる手間ひまかけたおいしさをご賞味あれ。「羽二重団子」餡団子と焼き団子の2 種類。各1 本¥345  羽二重団子 本店 住所:東京都荒川区東日暮里5-543 TEL.03-3891-2924 ※写真の『吾輩ハ猫デアル(上編)』(名著複刻全集近代文学館/日本近代文学館)は石井千湖氏の私物

文政2(1819)年の創業以来7代200年と、由緒ある「羽二重団子」。"きめがこまかく羽二重のようだ"と賞されたのが名前の由来。吟味した米の粉を用いて作られた団子は、もっちりとして、嚙みしめるほどにシコシ
コとした歯ざわり。今も職人の手で丸めて平たく成形し、串に刺す。餡は砂糖控えめ、さらりとした甘さの中に奥行きがある。焼き団子はこんがり焼いて生醬油とともに二度漬け二度焼き。時を超えて誠実に継がれる手間ひまかけたおいしさをご賞味あれ。「羽二重団子」餡団子と焼き団子の2 種類。各1 本¥345

羽二重団子 本店
住所:東京都荒川区東日暮里5-543
TEL.03-3891-2924

※写真の『吾輩ハ猫デアル(上編)』(名著複刻全集近代文学館/日本近代文学館)は石井千湖氏の私物

 甘党だから文豪になるのか、文豪だから甘党になるのか。因果関係はわからないけれども、文豪にはなぜか甘党が多い。執筆の疲れを癒やすものとして、また脳の栄養源として、糖分を必要としているからだろうか。戦前の外交官でヨーロッパやイスラム圏で暮らした笠間杲雄(あきお) は、「甘味と文化」という随筆に〈砂糖の消費量は一國の文化の高さを示すといふ。言ひ換へると一國に甘黨の多いほど、その國の文化は高いことになる〉と書いている。

 甘党文豪の筆頭は夏目漱石だ。漱石山房の家事を担っていた山田房子の談話によれば、戸棚の中に菓子箱があっていつも食べていたらしい。「羽二重団子」は、代表作の『吾輩は猫である』に登場する。名なしの猫「吾輩」の飼い主で、漱石自身をモデルにしたと言われる苦く 沙しゃ弥み 先生の家に、元書生の多々良が訪ねてくる。苦沙弥先生が散歩に誘うと多々良は「行きましょう。上野にしますか。芋いも坂ざかへ行って団子を食いましょうか」と言う。この芋坂の団子が「羽二重団子」なのだ。実際に食べる描写はないが、多々良は「柔らかくて安いです」とすすめている。
『吾輩は猫である』には、ほかにも最中が有名な老舗「空也」の「空也餅」や、苦沙弥先生がひと月に8 缶も舐めたというジャムの話が出てくる。

「羽二重団子」は、漱石の友人・正岡子規の好物でもあった。子規は若くして肺結核を患い、病と闘いながら俳句を作った。晩年の日記『仰臥漫録』に〈芋坂団子を買来らしむ(これにつき悶着あり)〉という記述がある。寝たきりで食を楽しみにしていた子規にとって、「羽二重団子」は介護してくれている妹と悶着を起こしても欲しいものだったのだ。

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