デンマーク本土の東に位置する光あふれる島、ボーンホルム島では今、工芸と文化が花開いている。 数々の異邦人にインスピレーションを与えてきたこの島には、移住者をいつでも受け入れる懐の深さがある

BY GISELA WILLIAMS, PHOTOGRAPHS BY FEDERICO CIAMEI, TRANSLATED BY NHK GLOBAL MEDIA SERVICE

 コペンハーゲンから創造力に満ちた職人や芸術家を集め、岩は多いが肥沃なバルト海の島に移住させたらどうなるか。その答えが今、にわかに活気づいているボーンホルム島のクリエイティブ・シーンだ。スウェーデンの真南に位置し、農民や漁師が人口の大部分を占めていたこのデンマークの島に、都会人が惹きつけられるのはなぜか、それを理解するのは難しくない。ここでは、風にさらされた海岸の砂は砂時計に用いられるほど細かく、なだらかに起伏する草原には藁葺き屋根の農家が点在している。さらには、昔ながらの燻製小屋や陶芸工房、アイスクリーム・パーラーが立ち並ぶ魅力的な港町もある。

画像: ボーンホルム島の数多い海辺の村のひとつ、グルイェム

ボーンホルム島の数多い海辺の村のひとつ、グルイェム

 ボーンホルム島は、19世紀半ばから人気の休暇先で、とくにドイツ人旅行者が数多く訪れていたが、5年ほど前から再生の時を迎えている。その立役者となったのが、世界に名を馳せる北欧料理店「カドー」を開いた3人組だ。ボーンホルム島の出身で幼友達のニコライ・ノルガードとラスムス・コフォードは、10年ほど前に島の南岸にレストランをオープンした(それから間もなくラスムスの兄のマグナスも仲間入りした)。
コペンハーゲンにある2号店は、2013年にミシュランの星を獲得。世界中から注目を浴びたことにより、菓子職人からテキスタイル・デザイナーまでボーンホルム島のほかの生産者たちも刺激を受け、人口が4万に満たないこの島での暮らしに憧れて本土から移り住む者も増えた。

画像: レストラン「カドー」のハーブ・ガーデンに立つシェフのニコライ・ノルガード

レストラン「カドー」のハーブ・ガーデンに立つシェフのニコライ・ノルガード

画像: 「カドー」のメニューの一品。火で焼いたコールラビ、エンドウ豆、クルマバソウ、ブルーチーズ

「カドー」のメニューの一品。火で焼いたコールラビ、エンドウ豆、クルマバソウ、ブルーチーズ

「デンマーク国内では、ボーンホルム島ほどエキゾティックなところはない」と言うのは、海外からコペンハーゲンに移り住み、現在は島内のスヴァネというのどかな漁村でヴィンテージ家具店を営むマイケル・スタギナスだ。島を訪れるなら初秋がいい、と彼はすすめる。その時期になると観光客の数は減るが、まるで地中海のような温暖な気候は続いており、夜が更けるまで空が明るい。

<EAT>

「トーウェハル・ボーンホルム」
今年7月、かつては食肉処理場があった歴史的な丸屋根の建物の中に市場が開設され、ボーンホルム島の人気グルメの多くがひとつ屋根の下に集まった。レネの町にあるこの市場には、ベーカリー「スヴァネ・ブロート」や島一番の魚の燻製場と称賛される「ハスリ・ロゲリ」を含め、40以上の地元の生産者が出店している。建物のすぐ外にある石畳の広場には、数台のフード・トラックも並ぶ。なかでも人気のフード・トラックを営むのは、かつては「ホテル・ヌールラン」で腕をふるっていたオーストラリア人シェフのジュリア・ジェンキンス。彼女は今、目の前の市場で仕入れた肉やチーズで作ったサンドイッチを販売している。
torvehalbornholm.dk

画像: スヴァネのアイスクリーム・パーラーのストロベリーとリコリスのアイスクリーム

スヴァネのアイスクリーム・パーラーのストロベリーとリコリスのアイスクリーム

画像: 屋内市場「トーウェハル・ボーンホルム」に出店している、燻製場「ハスリ・ロゲリ」

屋内市場「トーウェハル・ボーンホルム」に出店している、燻製場「ハスリ・ロゲリ」

「ハレゴー」
ヨルゲン・トフト・クリステンセンは、20年の歳月をかけ、小さなオーガニックの養豚場をデンマーク有数の豚肉店に発展させた。農場らしいボヘミアンな雰囲気のカフェとショップの前では、肉好きたちが行列をつくり、席に案内されるのを辛抱強く待っている。ここではナチュラルワインやサワードウ・ブレッドも販売されているが、一番人気は何と言っても農場直売のホットドッグで、焼きたてのソフトなパンの間にスモークソーセージがうずたかく積み上げられ、自家製の薬味がトッピングされている。
hallegaard.dk

<SHOP>

「コンテナー・ユヴェレン」
アーティストでジュエリーも製作するギデ・ヘレは、3年前にアトリエをコペンハーゲンからスヴァネに移した。感受性豊かで時として見る者を動揺させるフランケンシュタイン的な彫刻には、壊れた陶器の置物のかけらが組み込まれている。彼女の作品は、人気の高いデンマークのルイジアナ近代美術館のギフトショップでも見ることができる。
containerjuvelen.dk

画像: ギャラリー&ショップ「コンテナー・ユヴェレン」の遊び心あふれる置物

ギャラリー&ショップ「コンテナー・ユヴェレン」の遊び心あふれる置物

「ハーベングット」
コペンハーゲン在住のカップル、マイケル・スタギナスとヘレ・ヴィルスベクは、6年ほど前に一大決心をして二人揃って仕事を辞め、スヴァネに店を開いた。そこには、蚤の市で掘り出したミッドセンチュリーの家具や小物(バーカートや釉薬を塗った陶器の花瓶)、ビニール盤、ヴィンテージの玩具(ぜんまい式の玩具やミニカー)、スタギナスが以前は教師だったことを思い出させる学校用の引き下げ式地図など、多様な品々が所狭しと並んでいる。店は大成功し、1年後にはコペンハーゲンに戻ってファッショナブルなフレゼレクスベア地区に2号店をオープンすることになった。今年の春にスヴァネ内のさらに広いスペースに移転した1号店は、夏のほとんどの時期と9月に営業している。
TEL. +45 11 45 22 46 68 87

画像: アンティークショップ「ハーベングット」

アンティークショップ「ハーベングット」

「ロウ・イ・リステズ」
陽光に満ちあふれ、変化に富んだ景観が楽しめるボーンホルム島は、昔から芸術家たちを引き寄せてきた。20世紀初めには絵画の流派がここで栄えたが、近年では島の良質の粘土を活用した陶芸作品が数多く生まれている。最も信奉者の多い陶芸家は、「ロウ・イ・リステズ」のトーベン・ロウだ(彼は「カドー」で使用されている食器をすべて手がけている)。ロウの妻のスザンヌが運営する店は趣のある古い農家の中にあり、素朴な味わいのある陶製の皿や、チャコールグレー、赤褐色、淡いターコイズブルーの濃淡が美しい釉薬を塗った花瓶など、すばらしい作品の数々が陳列されている。
lovilisted.dk

画像: 「ロウ・イ・リステズ」の釉薬を塗った陶器

「ロウ・イ・リステズ」の釉薬を塗った陶器

画像: リステズの町の農家

リステズの町の農家

<STAY>

「ボーンホルム・サーフ・ファーム」
島の穏やかな波は秋に高くなり、冬になるとサーフィンのベスト・シーズンが到来するが、サーファーでなくともこの風光明媚なホテル・スタイルの複合施設を一年じゅう楽しむことができる。サーファーで臨床心理学者のデニー・ヒルディングがオーナーの「ボーンホルム・サーフ・ファーム」には、14のベッドと複数のキャンプ場、ビリヤード台や屋外バーベキュー場がある。ここではゆったりとした時間を過ごすことをヒルディングはすすめている。宿泊客は、薪ストーブで湯を沸かすアンティークの亜鉛製のバスタブに浸かり、にわとり小屋で朝食用の卵を集めることができる。「滞在客をサーフィンやパドルボードに連れていくときは、人の脳の仕組みを説明して、どうすれば行動をあらためられるか、スマートフォンとのつき合い方を変えられるかを話すようにしているよ」と話すヒルディングは、ハイテクをいっさい排除したキャンプ旅行を主催することもある。
bornholmsurffarm.com

画像: 島の北東岸でパドルボードを楽しむ人々

島の北東岸でパドルボードを楽しむ人々

画像: 「ボーンホルム・サーフ・ファーム」のオーナー、デニー・ヒルディング

「ボーンホルム・サーフ・ファーム」のオーナー、デニー・ヒルディング

画像: 「ボーンホルム・サーフ・ファーム」の二段ベッド

「ボーンホルム・サーフ・ファーム」の二段ベッド

画像: 「ボーンホルム・サーフ・ファーム」の亜鉛製のバスタブ

「ボーンホルム・サーフ・ファーム」の亜鉛製のバスタブ

「ホテル・ヌールラン」
手つかずの荒々しい自然が残されている島の北側で実行された最も刺激的な開発プロジェクトのひとつが、新装開業したばかりの「ホテル・ヌールラン」だ。オーナーのマーティン・シュミットは、全24室の宿泊施設をモスグリーンなどナチュラルな色彩の塗装や天然の質感を生かした木材で仕上げた。ホテルのレストランは「カドー」とのコラボレーションで、広々とした海の景色を眺めることができる。厳選された季節のメニューは、牛のほほ肉と新玉ねぎに赤ワインのソースを合わせたものや、ルバーブとバターミルクを使ったセビーチェなど、北欧風にアレンジされたフレンチが並ぶ。隣接するバー「アンダーバー」では、小皿料理(ブッラータのオリーブ添え、塩タラの桃とクレソン添えなど)やナチュラルワイン、10種類の地元産の生ビールが味わえる。
hotelnordlandet.com

画像: 「ホテル・ヌールラン」のレストランの眺めのいい席

「ホテル・ヌールラン」のレストランの眺めのいい席

画像: 「ホテル・ヌールラン」の料理、タラとラディッシュを合わせた一皿

「ホテル・ヌールラン」の料理、タラとラディッシュを合わせた一皿

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